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少年の日々

はじめて考えるときのように

CUE

2005年03月01日 | 小説

風邪を引いているのに、外で葬儀の受付手伝い。悪化しました、、、
下記は昨日書いたやつの書き直し。

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3階の3年4組の教室の机を全部後ろに寄せるとそこは簡易視力検査場になり、僕らは二列に並び保健係が指すCの記号が向いている方向を読み上げていた。
「右、左下、上、うーん、わかりません」
「はい、新井君、右がA、左がBね」
僕の番になり、黒いおたまじゃくしみたいなプラスチックの器具を渡されたので軽く振ってみたけど、毎年見るそれは相変わらず無愛想に蛍光灯の光を吸収するだけだ。左目を隠し右目の視力の測定、同様に左目の測定。
「はい、竹田君、右がB、左もB」
機械的に作業を行う保健委員から視力が書き込まれたカードを手渡され、黒板側の入り口から廊下に出た。
僕の学校は体育館が3階にあって、今出た廊下を東に向かって歩き、突き当りを右折すると5メートルくらい先に青く塗られた鉄の扉がある。今はそれが開けっ放しになっているようで、体育館の中から反復横飛び特有の上履きと床がこすれる音が鳴り響いていたけれど、今の僕にとってはもうどうでもいいことで、せいぜい隣を歩いている岸田と数字を比較する程度の楽しみしかない。一年前の体力測定ではそんなことを感じる事はなかった。反復横飛びの記録はフィールディングの良さやボールへの反応速度を示す基準であったし、垂直飛びでいい記録を出せばジャンプシュートの売りになった。背筋力の数字が上がるとより遠くへボールが飛び、自分の筋力の成長を実感しながら試合に参加することができた。
「次どーするよ?」
「ん、さっき視力検査終わったから、よし!保健課目終わりー。体育館へ!」
4,5人のグループになって体育館への移動途中、窓から見下ろした校庭では満開の桜が景色を彩っていた。新学期になって間もない4月の第一週は、授業もなく、軽いオリエンテーションばかりで学校が始まった感じがしない。春休みの延長の、緩やかな気持ちのまま新しく始まる学校生活に徐々に身体を慣らしていく。クラスにはまだ名前も顔も覚えていない奴が何人もいるし、受験という言葉も重く圧し掛かってくる。

アピート・イナザワンテ

2005年02月26日 | 小説

ヘッドフォンの中では斬新な音を斬新なスタイルで鳴らす人たちが叫んでいた。踏み切りの前で停まると、斬新な音は遮断機のカンカンカンカンという音と混じり、さらに斬新な音として僕の前に現れた。
誰も聞いたことがない音楽、斬新だと思う。普段耳にする遮断機の音には何の魅力も感じないのに、耳の両側から聞こえる斬新な音と出会った遮断機の音は魅力的だ。人が創り出したものは人の想像の領域を出ることがない。しかし、人の創りだしたものと人が創り出したものが出会った時に生まれたものは想像の領域をはるかに超える。

足元の雑草が通過する電車に煽られて不規則に揺れている。その隣ではアスファルトの欠片がアスファルトの上に転がっている。僕をとり巻く風景は自然と視界に入るのだが、頭の中ではいつも全く関係のないことを考えている。そのせいで事故にあったことはない。遠い視線をしていると友達につっ込まれたこともない。ただ、視界が僕に及ぼす影響が極端に少ないというだけのことだ。風景なんてどうでもいい。視界に写る世界なんて僕に付随するもので、僕はあくまで僕の内側で生きている。

『猫町』

2005年02月21日 | 小説

それまで読者という立場からでしか見ることが出来なかった出版業界を、取次営業・出版社営業・書店業務という立場から捉えられるようになってやっぱり視点は増えた。
猫町に迷い込んだかのように、僕の五感は狂いまるで夢の国に訪れたかの様に光り輝く出版業界…ならよかったのにな。

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僕は右足を踏み出してそこに地面があることを確認したのだけれど、次の刹那あっけなく落とし穴に落ちた。身体を支えるはずの右足は役割を無くしたと同時に、鈍い痛みを持ち始めとても使い物にならない。約2メートル程の深さは僕の身体を包むのには十分で、多分穴の存在を知らない人から見たらここに人ひとりが埋もれているなんて想像もつかない事だろう。かといって助けを求めるほど精神的に堪えているわけではなく、状況を受け入れることを優先しろと神経の奥底のほうから声がしている。多分・・・

きちんとたたまれた洗濯物の中から選んだ白いYシャツは、もはや見る影もない。その土と生地のコントラストに見とれていると、さらに厄介な事に雨が降り出したようだ。Yシャツが重々しい雰囲気を醸しだしてきた。きっと風邪を引くな。しようがないじゃないか、ここに足を踏み入れたのは僕自身だ。誰に指図されたわけじゃない。

雨がだんだんと強くなると、比例するように猫の鳴き声が大きく鳴り響くようになった。そうだ、僕は猫を捜そうとしてこの落とし穴に落ちた。「落とし穴」という言葉で表現すると、まるで僕を落とそうと誰かが意図的に掘った穴のように聞こえるが、僕にとっては黒幕に誰がいようがいまいが穴に落ちた事実だけが大事であって、やはり僕から見たらこれは間違いなく落とし穴である。