MBAで教える「交渉術」

MBA留学先での「交渉」の授業内容を配信。といっても最近はもっぱら刺激を受けた本やMBAについて。

<15-1>キーワード(6):Commitment

2005-05-23 | 第二部:交渉ってどう考えたらいいの?
ここまで交渉を整理して理解する上で重要な概念を、キーワードとして説明してきました。
今回はキーワード編の最後として、Commitmentについて取り上げてみたいと思います。
Commitmentは交渉をまとめていく段階でとても大切な役割を果たします。

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-お前さっきは「Yes」と言ったじゃないか!

交渉していると、こんな叫びを上げたくなることはないでしょうか。
たとえそう口に出しては言えなくても、相手が前に言ったことを無視して勝手な理屈を押してくると、頭に血が上ったりするものです。
また一方で、

-こんなこと言ったら、言質を取られて不利になりそうだな…

とリスクを考えて、言いたい事もあえて言わないことも多いのではないでしょうか。
話す内容にこうした制約をつけていると、どうしても話が核心に入っていけず、時間ばかりが過ぎていきます。
肝心の部分を避けて互いの腹を探り合っていても、うわべの話しかできないものなのです。

交渉につきもののこうした悩みは、Commitmentをきちんと理解して活用することで解決できます。
ここで言うCommitmentとは、話した内容/結果を自分の立場もしくはお互いの合意案として受け入れ、それ以降はその立場/合意を前提にして良い、とする了解のことです。

Commitmentがうまく活用できていないと交渉は先に進まなくなります。
例えば、一方は合意(Commitment)ができたと踏み込んで捉えていても、相手はそう思っていない、などは典型的な状況です(上記の最初の例)。
また、自分に不利な合意(Commitment)を恐れ、腰が引けて本題に踏み込めないこともあるでしょう(二番目の例)。
このように、交渉人がCommitmentに対して積極的すぎたり消極的すぎたりすると、話し合いは空回りしてしまいがちなのです。

では、どうすればCommitmentを上手に扱えるのでしょうか?

Commitmentを効果的に使う鉄則は下のような三つがあります。

鉄則1:まず交渉のプロセスについて合意する
鉄則2:仮説を使って話をする
鉄則3:相手をプロセスに巻き込む

一つずつおさらいしていきましょう。


鉄則1:まず交渉のプロセスについて合意する

最も重要なのは、交渉とそのプロセスを切り分けて考えることです。

交渉で話しあうことには、交渉する内容そのものの話(what)と、その交渉をどう進めるかのプロセスの話(How)が含まれているものです。
価格交渉を例に取れば、「一個いくら」という提案はwhatの話ですし、「まずお互い希望する値段と理由を言って、それから妥協案を考えよう」という提案はHowの話です。
この二者を区別して、まず後者で合意を作ってしまうことがスムーズな交渉には大切です。
何となれば、まず交渉のプロセスの話の方が中身の話よりも合意するのが簡単だからです。
話し合いのプロセスだけであれば、お互いの利害関心が直接ぶつかることはほとんどありません。
ふつう交渉ではどちらサイドもスムーズで理性的な話し合いを求めているからです。
むしろ話し合いの手順が整理されれば、話し合うポイントが分かりやすくなってお互いに利益があるでしょう。

そしてプロセスについて合意ができれば、それだけでCommitmentが発生しているものです。
ここで言うCommitmentとは、「今決めた手順で話し合おう」という了解です。
小さいながらもこうしたCommitmentが発生すれば、お互い少なくとも話し合いの手順については相手が一定のルールに従って交渉を進めてくることを期待できます。
また仮に何か言い争いが起こっても、それがプロセスに関するルール違反であればこのCommitmentにさかのぼって相手を抑制することができます。

ここでのポイントは、プロセスに関するCommitmentと交渉内容に関するCommitmentが切り分けられている点です。
「現時点ではあくまでプロセスについての話し合いなので、中身についての約束事(Commitment)は一切発生しない」というルールを作ってやるのです。
今回の冒頭に見たようにCommitmentにはリスクも伴うものなので、こうしてリスクを限定してやることで交渉者が二の足を踏むことを避けることができます。
また一方でCommitmentを拡大解釈して我田引水する踏み込みすぎの交渉者に対しても、「プロセスはこうなんだ」と明確な合意ができていれば、勝手な解釈で流れを仕切る動きを防ぐことができます。

(第15回続く)

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