MBAで教える「交渉術」

MBA留学先での「交渉」の授業内容を配信。といっても最近はもっぱら刺激を受けた本やMBAについて。

祝:電子書籍化!

2017-04-27 | 第三部:実戦で交渉に勝つコツは?
ニュースです。
このブログの交渉術を書いたパートが、電子書籍化されました!

MBAで教える交渉術: 海外ビジネススクールで交渉はどう教えられているか Kindle版 600円
(根越栄太著、Panda Publishing)

Amazon(Kindle版)で4月25日に発売されました。
ランキングなどを見ると、出足はある程度好調なようです。
(今日、Amazon Kindleストアのビジネス交渉・心理学3位)

内容は、このブログの本編部分を元に、読みやすく整理し直し、修正と加筆をしたものです。
本編をまとめて読みたい方には、おススメです。是非一度、ご覧になってみてください。

<32-2>いろんな合意案の中でどれがベストか、どうやって判断するの?(2)

2015-12-18 | 第三部:実戦で交渉に勝つコツは?
そして第三に、スワップ法という手法で残る選択肢を個別に比較していきます。
残る選択肢は下の3つです。

・仕事A:時給980円、週4回以上、シフト時間は自由、近くて通いやすい
・仕事B:時給1,300円、週3回、シフト時間は自由、遠くて通いにくい
・仕事E:時給1,200円、週3回、シフト時間は夜勤、遠さは中ぐらい

スワップ法とは、「ある要素を同じ条件に変更するとしたら、それと引き換えに他の要素でどの位補正値をつけるか」を考える方法です。
例えば、仕事BとEでは「時給」と「遠さ」の優劣が食い違っています。
仕事Bは時給が高いが、仕事Eはより家に近い、というねじれ状態です。
このとき、仮に仕事Eの「遠さ」が仕事Bと同じくらいだとしたら、どの位時給をもらえば見合うか、を判断するのです。

例えば、仕事Eが仕事Bと同じ位、通勤時間がかかったとしたら。
往復一日30分余計にかかるとしたら、拘束時間が30分長いのと同じです。
とすると、一日に時給1,200円×(30分/60分)=600円くらい損がありそうです。
でも、その間電車で本でも読んでいれば良いので、バイトそのものほど拘束はされません。
なので、例えば600円×80%(仮)=480円、くらいの価値になるかも知れません。
一日のバイト時間が仮に4時間とすると、480円÷4時間=120円が時給換算です。

この場合は、以下を比較するのが一つの合理的な計算です。
・仕事B:時給1,300円、通勤は遠い
・仕事E(補正):時給1,200+120=1,320円、通勤はBと同じく遠いよう補正

こうなると、「遠さ」の差は無視できるので、換算した時給を比べ良い方を選べます。

そうすれば、仕事Bが除外できるので、あとは残る仕事Aとこの仕事Eを同じように比較します。

・仕事A:時給980円、週4回以上、シフト時間は自由、近くて通いやすい
・仕事E:時給1,200円、週3回、シフト時間は夜勤、遠さは中ぐらい

ここでは、仕事Aの良さ(週4回でき、時間が自由で、近い)が時給の低さをカバーできるかどうかを判断すればよいのです。
仮に「近さ」を仕事Eと同じになるよう補正すると、通勤時間が短い仕事Aの時給が1,050円相当だとします。
(方法は先ほどと同じです)

すると、「近さ」は同じなのであとは以下を比較します。
・仕事A(補正):時給1,050円(補正)、週4回、シフト時間は自由
・仕事E:時給1,200円、週3回、シフト時間は夜勤

仕事Aで週3回しかできない選択肢があるとしたら、時給いくらなら自分にとって等価か。
仕事Eでシフト時間が自由な選択肢があるとしたら、時給いくらなら等価か。
こうして、判断要素を一つずつ同じに補正して消していきます。

このような方法が、イーブンスワップ法です。
「質的に違うものは、それぞれ良さがあって比べられない」。
日常ではそう考えがちですし、あながちそれも間違いではありません。
しかし交渉の場で、最前の選択肢を決めなければならない時には、こうした強制的に決める方法も役に立ちます。
何が自分にとって最善の選択肢か分かっていないと、たくさん合意案を出しても、どれを目指すべきか交渉戦略が立たないからです。

最後に、このような手法にはいくつかコツがあります。

1.簡単なスワップから先に考える
判断材料を減らして単純化することを優先します。
要素が減れば減るほど問題はシンプルになります。

2.スワップに集中する
「そもそも時給とシフトの自由さのどちらが自分にとってどの位重要なのか」といった、抽象的な難しい問いには入らない方が安全です。
交渉の場では、具体的な数字や比較材料を用いて順位をつけることを優先すべきです。

3.情報収集を続ける
案を比較する段階においても、情報は交渉の最重要資源です。
案の価値が自分にとって本当はどうなのか、調べて精査し続ける姿勢は重要です。

こうした手法は無理やり合理的な判断を作っているところがあるので、不自然に感じられるところもあります。
しかし、交渉はお互いを高め合う哲学論争ではないので、無理にでも合理的な最適解を作るとしたらこうだ、という前提理解を持つことが大切になるのです。

(この回終わり)

<32-1>いろんな合意案の中でどれがベストか、どうやって判断するの?(1)

2015-12-16 | 第三部:実戦で交渉に勝つコツは?
<32-1>いろんな合意案の中でどれがベストか、どうやって判断するの?(1)

前回は協調的な交渉の中で、良い合意案を出す方法を考えてみました。
今回は、複数出した合意案をどう評価するか、評価の方法を考えてみたいと思います。

******************************

交渉では、合意する案の可能性を広げ、最後にどこで合意するか、が大きな山場となります。
その際に、「どの案がベストなのか?」を正しく判断することは、成功の前提条件です。
しかし合意案の評価は、簡単なようで意外に難しい問題です。
ある要素は選択肢Aが良いが、他の要素はBが良い、といった「ねじれ」があるためです。
そこで、交渉以外でも使える「スワップ法」という意思決定の技術があれば、役に立ちます。

例えば、アルバイト探しを例に考えてみましょう。
アルバイト先を探す時には、様々な選択肢があります。
でも完璧な仕事はそう無いので、一長一短ある中で比較して決めることになるでしょう。
例えば、同じ職種で次のような候補があったとします。

・仕事A:時給980円、週4回以上、シフト時間は自由、近くて通いやすい
・仕事B:時給1,300円、週3回、シフト時間は自由、遠くて通いにくい
・仕事C:時給1,050円、週2-3回、シフト時間は指定、遠くて通いにくい
・仕事D:時給1,100円、週2回、シフト時間は指定、遠さは中ぐらい
・仕事E:時給1,200円、週3回、シフト時間は夜勤、遠さは中ぐらい

この中で、どれがベストな案でしょうか。

「ベスト」の定義は人によって違いますが、やるべきことが3つあります。

第一に、自分にとって重要な要素を、漏れなく判断材料(Interest)に入れることです。
この例はとても単純化していますが、本来は他にも大切なことがあるかもしれません。
例えば、職場の雰囲気は、アルバイトを続けるのに重要かも。
他にも、忙しすぎないか、休憩は取れるか、交通費支給はあるか、続けたら昇給するか…等。
判断に関係ある要素を全部出し、表にして選択肢を整理することが必要です。

第二に、判断材料を全部出した後、明らかに除外しても良い選択肢を消すことです。
よく見ると、ある選択肢が別の選択肢より全ての面で劣っていることがあるからです。
とはいえ、定性的な条件をそのまま比べると判断が難しくなります。
例えば例の場合、週何回が良いか、昼と夜勤とどちらが良いか、等は人によるでしょう。

そこで、条件表をランク表に変換します。
ランク表とは、各比較要素を、自分にとっての望ましさランキングで順位づけしたものです。
例えば最初の例の表を変換すると、次のようになるかもしれません。

・仕事A:時給5位、勤務回数1位、シフト時間1位、近さ1位
・仕事B:時給1位、勤務回数2位、シフト時間1位、近さ4位
・仕事C:時給4位、勤務回数2位、シフト時間3位、近さ4位
・仕事D:時給3位、勤務回数4位、シフト時間3位、近さ2位
・仕事E:時給2位、勤務回数2位、シフト時間3位、近さ2位
(例えば仕事Eは、時給について5つの仕事の中で2位、勤務回数の望ましさも2位…)

この場合、例えば次のような判断をしたと仮定して、順位をつけています。
・勤務回数は収入のため週に4回は働きたい。4回までの範囲で多い方が良い
・シフト時間は自由なのが一番だが、昼間に時間を指定されるなら夜勤でも同じ

すると、仕事Cは仕事Bより全ての面で順位が同じか低くなります。
(他が同じで、時給が安く、シフトの自由度が低い)
また同じように、仕事Dも仕事Eより順位が同じか低くなります。
(他が同じで、時給が安く、勤務日が希望より少ない)
そこで仕事CやDのような選択肢を消して、問題を単純化することができます。

(この回続く)

<31-2>よい合意案を考え付くにはどうしたらいいの?(続)

2006-06-19 | 第三部:実戦で交渉に勝つコツは?
引き続き残り4つのパターンを見ていきましょう。


(2) 利害を交換する

交渉者は普通いくつかのinterest(利害関心)を持っています。
そのうちのあるものを一方に有利に、あるものを相手に有利にして妥結を図るのがこの方法です。
「Aについてはそちらの言う通りにする代わり、Bではこちらの言う通りにする」という方式です。
ここでは、交渉者のinterestがそれぞれの要素において違うことが前提となります。

品物の仕入れ交渉を例に考えて見ましょう。
例えば、買い手にとっては価格が最重要、売り手にとっては納期が最重要、であれば、価格を安く、納期を売り手の望む条件に設定することで、有望な合意案を作り出すことができます。
しかし、もし買い手も売り手も価格を最重視していて、他の条件をほとんど気にもしないとしたら、基本的に同じような利害交換の余地はありません。
価格は高いか安いかしかないからです。
現実の交渉では往々にして、互いの利害が一つしかない重要な要素で衝突し、利害交換が一見うまくいかない場合があります。
協調的な交渉を高いレベルで行うためには、一見手詰まりのこうした状況を打開する、interestの効果的な使い方が必要になります。(第二部、第九回の内容)

(3) 言い分を通した方が補償を払う

次に、片方に妥協してもらうのも協調的な交渉では典型的な解決策となります。
勿論、ただ黙って相手の言うなりになる交渉者はいないので、言い分を通してもらう側が何らかの補償を支払うことで、双方の利害を調整します。
妥協する側から見ると、「この交渉では相手の言う通りにするが、XXを補償としてもらえるからかまわない」と考えるわけです。

現実の交渉では多くの場合「補償」は金銭で支払われます。
ただし、必ずしもお金での補償にこだわる必要はありません。
要は要求を聞き入れる側が満足する条件であれば良いので、何を提供するかは柔軟に考えるべきでしょう。
交渉している内容と直接関係ないものであっても、全く問題はありません。
補償を非常に広く捉えると、先に述べた利害の交換と内容が近づいていきますが、こちらは交渉事項以外まで、何でもいいから相手に満足してもらう手段を考える点に主眼があると言えるでしょう。

(4) コストカット

一方の言い分を通すことが、もう一方の様々な負担/(広義の)コストを省くことになれば、それは有効な合意案になります。
相手の言う通りにはなっても、結果として自分も何らかの利便を手に入れられるからです。
このようなコストカットも、合意案としては一つの典型的なパターンです。

現実的には、自分の提案に相手も便乗してトクする余地を与える形が一般的です。
この場合、多少自分の提案を変更してでも、付帯条件として相手が利便を感じる要素を付け加えます。
いわば、interestを共有する形にして、対立から共同の利益創造へと話し合いの意味を変えるわけです。

(5) ブリッジソリューション

最後に、互いのinterestをしっかり理解したうえでそれらを共存させる案を作り出すことも良い合意案を生む方法です。
この場合、互いのinterestのうち矛盾しないものはそのまま合意案に盛り込み、その他の部分について調整を行います。
この調整には、ここまで述べた4つの方法が活用できます。

この方法のポイントは、互いのinterestをもれなく交渉のテーブルに載せることが前提になることです。
隠された真の意図や情報が多くあると、十分に満足のいくソリューションが形成できず、話し合いがスタックしてしまうことになります。
協調性がある程度醸成された状況でこそ、有効な手法ということが出来るでしょう。

以上、協調的な交渉で良い合意案を考え付く5つの方法を概観してみました。
これらのうち複数の視点を同時に活用することも重要です。
次回は、こうして出てきた合意案のうちどれがよいか決定する考え方について、見ていきたいと思います。

第三部の目次

2006-06-16 | 第三部:実戦で交渉に勝つコツは?
第三部のここまでの目次(+今後の予定)です。
(<>は回です)

総論:優れたネゴシエーターの特徴
<20>デキル人の交渉ってどんな感じ?

準備の仕方
<21>交渉準備のイロハ

コミュニケーションの進め方
<22>コミュニケーションの4Pってなに?
<23>アクティブリスニングってなに?

感情に対処する方法
<24>頭に血が上っちゃうんですが…
<25>感情をきちんと伝えるには?

信頼関係の作り方
<26>交渉相手と親しくなるのはいいことなの?
<27>どうすれば交渉相手との信頼関係ができるの?
<28>典型的なだましのテクニックとは?
<29>海外の相手とうまく交渉するには?

協調的な交渉をするテクニック
<30>協調的な交渉ってどういうもの?
<31>良い合意案を考えつくにはどうしたらいいの?
いろんな合意案の中でどれがベストか、どうやって判断するの?
協調的な交渉が難しいのはどうして?
どうやったらお互い満足できる交渉になるの?
相手に同意するとリスクがありそうな場合はどうするの?

パワーゲームに勝つ方法

相手を味方に引き込む交渉術

交渉のメタ戦略

交渉をきちんと終わらせる方法

<31-1>よい合意案を考え付くにはどうしたらいいの?

2006-06-12 | 第三部:実戦で交渉に勝つコツは?
前回から協調的な交渉についてのシリーズに入りました。
まず前回は、そもそも協調的とはどういう意味かを考えて見ました。
今回はそうした協調的な交渉の流れの中で重要なポイントの一つとなる、良い合意案を考える方法を考えてみたいと思います。

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交渉のクライマックスは、なんと言っても最後の落とし所をどこにするかの駆け引きです。
いくつか浮かび上がってきた合意案の候補のうち、結局のところどれで落ち着くのか。
この部分で交渉の結果が決まるといっても過言ではありません。
ということは、そもそもどんな合意案を考え出し、交渉の場で提案できるかもまた、その前提として非常に重要なスキルの一つです。

合意案を考えるプロセスは非常にクリエイティブで、柔軟な発想があればあるほど、幅広く効果的に利害を調整できる案が生まれます。
どうすればクリエイティブになれるか、といっても簡単な道はありませんが、少なくとも交渉で求められる創造性の範囲を理解しておくことで、素早い頭の使い方が可能になるでしょう。

そうした意味で、良い合意案(options)のパターンにはどんなものがあり得るのかを理解しておくことが重要です。
交渉論の世界では、典型的な合意案作りのパターンが5つあります。
どれも問題自体を何らかの形で新たに定義しなおすことで、双方にとって効果的な合意案を生み出しています。
順に一つずつ見ていきましょう。


(1) パイを拡大する

『ハーバード流Yesといわせる交渉術』などでおなじみのアプローチです。
このアプローチでは、前提として、多くの交渉が限られた資源の奪い合いに陥るせいでうまくいかないと考えます。
そこでお互いが分け合うパイ自体を広げる方策を協力して考え出せば、どちらの取り分も増えてお互いトクをする、というわけです。

ここで重要なことは、パイを広げる際に互いのホンネ(interest)をさらけ出しあう必要はない、ということです。
単純に、どうしたら元のパイが広がるかだけを話し合い、過度な情報開示のリスクをなくさないと、パイを広げること自体の議論が十分にできません。
しかし翻って言えば、パイが単純に広がるだけでは利害(interest)が満たされない交渉の場合、この方法だけで問題を解決することは困難でしょう。

(第31回続く)

<30-2>協調的な交渉ってどういうもの?(続)

2006-06-05 | 第三部:実戦で交渉に勝つコツは?
では、こうしたポイントに注意したとして、具体的にどんなステップで、協調的な交渉を進めればいいのでしょうか?

協調的な交渉のプロセスには、4つのカギとなる順があります。
これらはどんな交渉でも普遍的なステップですが、協調的な交渉では特に配慮が必要になります。一つずつ順番に見ていきましょう。


(1) 問題を定義する

まず、何が問題で何を交渉しているのか、明確なイメージを共有することが成功への大前提です。

何が問題か、などといっても一見当たり前で、わざわざそんなことから話す意味などないと思えます。
しかしながら、現実の交渉では何が問題かを定義することこそが、最難関のステップです。
特に複数の利害関係者がからむ場合(1対1でなく、例えば5人で交渉する場合)、現状に対するそれぞれの捉え方にばらつきが出るため、難しさが顕著になります。
どの交渉者も、自分にとって優先度の高いinterestがからむ部分こそ主要な問題だと考え、しかもinterestは立場によってバラバラなことが多いからです。
さらに、問題の定義の仕方によって交渉の内容が影響を受ける場合があるため、交渉者はおいそれと問題の定義を他人に任せるべきではありません。

ここで重要なことは3つあります。

まず第一に、交渉すべき問題を両者にとって同意できる、中立的なものとして定義することです。
通常は交渉の内容に入る前に、そのための話し合い(アジェンダ整理)が必要になります。
交渉者は対立する立場にあるため、普通「こちらは正しく相手が悪い」式の評価的な視点を話し合いに持ち込んでしまいます。
いったんどちらが悪いかは別として、何を話し合う場なのか、論点を整理することがスタート地点になります。

第二に、交渉の対象とする問題の定義を、シンプルで明確なものにすることです。
複数の利害関係者が受け入れられるよう細かく問題を定義しようとすると、色々な条件や注釈が必要になります。
しかし、問題を定義する際に本当に重要なのは、完璧に全員の意図が盛り込まれた長い文章を仕上げることではありません。
むしろ最初にアジェンダを定義しておく価値は、どの部分は合意が出来て、どの部分は合意が出来ていないのか、交渉の現在地を後で確認できることにあります。

第三に、問題の定義と解決策は分けて考えることです。
何が問題なのか、とどうしたら解決できるか、を一緒に考えてしまうと、いつまでたっても議論が協調的には進みません。
何となれば、解決策の部分で相反する意見が必ず登場し、パワーゲームが始まるからです。
競争的な交渉のやり方ではそれが一種の定石なのですが、協力によって最大限の価値を生み出そうとする場合には、必ず問題をきっちり定義し終えてから具体的な合意案を話し合うべきです。

(2) 問題の背景にあるInterestまで深く理解する

問題が双方にとって受け入れられるものとして定義できたら、その背後にあるinterestに注意すべきです。
既に第二部で詳説しましたが、相手が持つ複数のinterestを察知し、その中で自分のinterestと共通のもの、あるいは自分がそこを譲歩しても損をしない部分を見極めるべきです。
複数のinterestを効果的に使うことが、協調的な関係を築くための最も重要な手段となります。

(3) 問題に対する新しい解決策を作り出す

Interestを理解したら、双方がメリットを感じるような解決策を考え出さなれければなりません。
ここでは大きく二つのアプローチがあります。
一つには、最初に決めた問題定義の範囲内で、合意案を列挙していくやり方。
もう一つは、問題自体を再定義していきながら拡張し、より広い角度から合意案を考える方法です。
このステップではクリエイティブな発想を交渉という一種の対決の場でどう担保するか、が課題となります。

(4) 新しい解決策を評価し、最適なものを選び出す

合意案をいくつも考え出すことが出来たら、最後にはその中から双方にとって最適なものを選び出す必要があります。
ここでは大きく3つのサブステップがあります。

まず第一に、何に基づいてたくさんの合意案を評価するか、合意します。
多くの場合、主観的な基準だけでなく、客観的なデータも共同で模索し、それらを複合した結果として最も望ましいものを選びます。

第二に、合意した評価軸に基づいてそれぞれの合意案を一つ一つ評価します。
合意案が複雑で、様々な要素をはらむ場合には、単純に望ましさを数値化して比較することが難しいかもしれません。
その場合には、各合意案を一対一で比較した際の優先順位付けや、スワップ法(今後の回で詳述予定)などの評価手法を使って検討を突き詰めていきます。

第三に、最終的にどの案がベストか、合意します。
ここで重要なのは、本当に最後の最後の合意に至るまで、正式な合意としてのコミットメントを発生させないことです。
例えば途中経過を逐一書面化したり、言ったことに責任を発生させたりすると、複数の合意案の中でどれが最適かホンネで拡散した議論ができなくなります。
協調的な交渉の場合、あらゆる可能性を検討し尽くすことが結果の質を向上させることにつながるため、話し合いの段階でいかに自由を確保するかが非常に重要なポイントとなります。

以上のように、協調的な交渉には一連の定石とでも言うべきステップがあります。
これらの技術を向上させることが、ネゴシエーターとしての力を上げることにつながります。
この中でも、特に良い合意案を考え、それを効果的に評価する部分には多少の知識が手助けになります。
次回からはこのプロセスの技術、その中での良い合意案の考え方を少し詳しく考えてみたいと思います。

<30-1>協調的な交渉ってどういうもの?

2006-05-29 | 第三部:実戦で交渉に勝つコツは?
前回まで何回か、交渉での信頼関係について考えてきました。
特に文化の違う交渉者と実りのある交渉をするには、相手を理解し協調的な交渉ができる余裕を持つことが重要です。
そこで今回からは、信頼関係の使い方の上級編とも言うべき、協調的な交渉の実践的なやり方について考えていきます。
もちろん、交渉には逆に競争的なやり方(ハード戦略)も存在するので、まずソフト戦略をひとわたり概観し、その後はハード戦略を考えていきたいと思います。

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-次回の交渉には、絶対負けないぞ

ビジネススクールの交渉実習を重ねるたびに、よくこんなことを考えたものです。
交渉を実際にやってみれば、クラスの模擬実習とは言えど白熱し、手痛い失敗も数多く経験します。
「ああすれば良かった」「こうすれば良かった」と細かい後悔がたくさん出てきますが、結局心に残るのは

-今回の交渉はこっちの勝ちだな
-今回は悔しいけどこっちの負けだ

といった、勝ち負けの結果だったりします。
単純なもので、勝てば気分がいいし、負ければ不愉快になる、というわけです。

しかし本当に重要なことは、交渉相手と比べて相対的に勝ったか負けたかではありません。
確かに、交渉を決まったパイの取り合いだと考えれば、相手がトクすることは自分の損、自分がトクすることは相手の損につながり、いかに相手を出し抜くかが問題になります。
しかしながら、交渉を協調的に互いの利益を高める作業ととらえれば、交渉者互いの利得は必ずしも相反するものではありません。
一方のトクがもう一方の損に直結するのではなく、互いに目的を実現できる第三の道があると考えるのです。
勝ち負けで言えば、一方が勝ち他方が負ける、というメンタルモデルから脱して、両方が勝者となれるような道筋を考えるわけです。

多くの交渉実例を網羅した研究から、協調的な交渉には、いくつかの特徴があると言われます。
列挙してみると、次のような性質を持つことが協調的な交渉の特徴だと言えます。

+互いの違いよりも、共通性に注目する
+position(具体的な提案や立場)でなくinterest(背景にある利害関心)を話し合う
+交渉に関わる全ての利害関係者の要望を満たすよう努力する
+情報やアイデアを積極的に交換する
+共通の利益につながるようなoption(合意案)を考え出す
+客観性のある基準や指標に基づいて話し合う

こうして見ると、協調的な交渉と言っても、普通の文脈での建設的な人間関係と大きく違いはありません。
難しいのは、交渉という状況でこれを実現することです。
多くの場合、交渉が必要なのは何らかの利害対立が起こっているからであり、自然な状態では対立がエスカレートして然るべきものです。
実際のところ、本当の意味で協調的な交渉が成立することは、現実の世界ではそれほど多くないと言えるでしょう。

従って、協調的な交渉をするには、話し合いの中身はもちろん交渉のプロセスでも、意識して普通の話し合いより強めたり弱めたりしなければならないポイントがあります。
経験的には、次の4つのポイントに留意する必要があると言われています。


1. 情報の流れを確保する

第一に、きちんと情報を共有することが良い解決策につながります。

この分野の研究によれば、協調的な合意案に到達できない交渉の多くが、互いの情報を十分に交換できず、「実はこうすれば互いの利益につながる」という案を作り出せていないため、とされています。
例えば賃金交渉を題材にしたある研究では、互いのBATNAを公開した交渉と、秘密にしたままの交渉を比較しています。
この対照実験では、前者の方が給与以外の条件も含めて詳細にホンネを検討でき、結果的により互いの利得を増やす合意案が出来たとされます。
確かに情報を隠し、あるいはウソで操作すれば多少なりともこちらの取り分が増える可能性がありますが、公開すれば全体のパイそのものを大きくする相談がしやすくなる、というわけです。


2.他の交渉者のホンネの目的に配慮する

相手の利益を尊重しようとすれば、相手の利益が何なのか知らなければなりません。
簡単な事実なのですが、実際の交渉では交渉者はホンネを開示するリスクを意識するため、放っておけばいつまでたってもホンネを共有することができません。
そのため、協調的な交渉では意識してこのリスクを下げる仕掛けを作っていく必要があります。


3.交渉者間の共通性を強調し、立場の違いを小さくする

潜在的に敵対関係にある者同士が協力関係を築くには、何らかの利害を共有することが最も有効です。
例えば普段はライバル同士の政党が、選挙前になると「小事を捨てて大同団結」などと連携する場合があります。
これも、選挙に勝つという共通の利害を前面に押し出し、その後の利害の食い違いについてはまず結果を得てからあらためて交渉する、というスタンスです。


4.交渉者互いの目的を満たす解決策を探す

解決策は単純な、1かゼロかである必要はありません。
第二部でも解説したとおり、交渉者は普通いくつかのinterestを持って交渉に臨んでいるので、ある条件では一方の希望を通し、ある条件では他方の希望を通すことで、双方にとってBATNAよりマシな合意案を作り出す可能性がでてきます。
合意案への柔軟な条件付けが、互いの目的をうまく共存させるカギになります。

では、こうしたポイントに注意したとして、具体的にどんなステップで、協調的な交渉を進めればいいのでしょうか?

(第30回続く)

<29-2>海外の相手とうまく交渉するには?(続)

2006-05-22 | 第三部:実戦で交渉に勝つコツは?
合意の内容をできるだけ詳細にし解釈の齟齬をなくすことはひとつの重要なポイントです。

一方で、交渉のプロセス自体を円滑に進めるうえで、相手の文化を理解することも非常に重要なポイントとなります。
ハーバードのJames K.Sebenius教授は、文化が異なる相手との交渉において注意すべきことの一つに「どんな行動様式が受け入れられる(あるいは受け入れられない)のか」を知ることを挙げています(HBR(ハーバードビジネスレビュー)に寄稿された”Cross-border negotiations”を参考)。
交渉の内容そのもの以前に、どんな交渉プロセスを取るべきかを理解すべきだというわけです。

相手の文化でどんな行動様式がどう受け取られるのか。
チェックすべき主なポイントとして、下記のようなリストが挙げられます。

あいさつ:
初対面の相手にどんなあいさつをするのが「常識」なのか。
お辞儀するのか握手するのか。名刺交換をすべきか。

形式さ:
交渉の文脈で、どの位カジュアルに、くだけた服装や態度を示すべきなのか。
どの位フランクに振舞うと礼儀知らずになるのか。

贈り物:
手土産に何か贈り物を渡すべきか。
どんなプレゼントがふさわしいか(あるいはタブーになっているか)

ボディタッチ:
相手の体に触れる(例:肩を叩く)ことが受け入れられるか。
あるいは逆に相手に触れないと失礼になるか。

アイコンタクト:
相手の目をまっすぐ直視することが求められるか。
あるいは逆に失礼に当たるか。

感情表現:
大げさに、正直に感情を表すべきか。
あるいは逆に感情を出すことは失礼に当たるか。

沈黙:
黙っていることは失礼に当たるか。
逆に尊敬や丁重さを意味するか。

食事作法:
食事の際にはどんな食べ方(テーブルマナー)が礼儀正しいとされるか。
タブーにあたる食べ物はないか。

ボディランゲージ:
特定の仕草やジェスチャがどんな意味を持つか。
失礼に当たるものは無いか。

時間の感覚:
時間を守ることがどの位重視されるか。
ある程度ルーズに遅れるのが当たり前とされているか。

これらリストのように非常に細かい点で、文化による違いは数多くあります。
一見どうでもよく見えるこうしたミクロな点が、互いの誤解の源泉になるのです。

注意すべき点は、これら様々な誤解の要素にも二つのレベルが存在することです。

単なるあいさつやテーブルマナーなど、形式だけに関わる点なら、失敗しても「相手はこちらの文化を良く知らないのだろう」とある程度受容されやすいと言えます。
現実に、こうした表面的な儀式が深刻な障害となることは多くありません。
しかし、すれ違いが会話や表現の仕方そのもの、意思決定のやり方に関わる部分となると、そうはいきません。
交渉の進行に直接関わるこれらの要素で互いに根本的なギャップがあると、交渉プロセスが暗礁に乗り上げてしまいます。

現実には、交渉プロセスにおけるギャップはまず不快感、緊張感として表面化します。

-向こうはこちらのメッセージをきちんと理解できていない
-そんな話の進め方をされてはたまらない
-そんなつまらないことにこだわられてはたまらない

といった、「思い通りに話し合いが進まない」感覚がしたら、背景にある文化的なギャップの可能性を考える必要があります。
こうした状況への解決策としては、自分の文化的な背景に基づいた理解を相手に示し、相手の側の理解を共有することが最も有効でしょう。
論理の前提条件を共有することで、「どこで結論の違いが生じているか」を明らかにするのです。

言い換えれば、考え方や文化の異なる相手と上手に合意を作ろうとすれば、協調的な交渉をする技術が通常以上に問われることになります。
交渉にもハードボール戦略、ソフトボール戦略があるとして、後者の技が必要になるということです。
次回からは、この協調的な合意を作るテクニックについて考えていきたいと思います。

<29-1>海外の相手とうまく交渉するには?

2006-05-14 | 第三部:実戦で交渉に勝つコツは?
日本人同士なら何となく通じる暗黙の了解も、海外に出ると通じない。
旅行に行くだけでもそうした実感を持つヒトは多いでしょう。
増して利害が絡んだ交渉となると、うまく切り抜けるのは相当なチャレンジになります。

ただしこれは外国人にとっても同じこと。
向こうから見れば日本人と交渉する際には、独特のコミュニケーションが大きな負担と感じられるものなのです。
このように、異文化間の交渉につきまとう難しさにどう対処するかは、交渉論の大きなテーマの一つになっています。
今回はこうした異文化の交渉者への対処の仕方について考えてみたいと思います。

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-普通に交渉するだけでも一苦労なのに、相手が外人では増して大変だ…

日本では、こう思うヒトがほとんどではないでしょうか。
言語の壁の問題もありますが、それ以上に

-外人相手にまともにこちらの意図が通じるか疑問だ
-外人だから変な交渉の仕方をしてきて、こちらが不利になるのではないか

といった、漠然とした不安感が大きな障害になることでしょう。

しかしこれは相手から見ても同じこと。
日本人(やその他東洋人全般に程度の差はあれ共通ですが)のようにYes/Noをはっきり言わない、文脈や信頼関係を重視する、といった交渉の特性は、他の文化圏の交渉者から見ればそれなりに厄介な障害となります。
現に、例えばアメリカでは「東洋人と効果的に交渉するにはどう対処すればよいか」といったハウツーが真面目に議論されたりするのです。

ビジネススクールの交渉論でも、こうした異文化間の交渉特有の問題はCross-cultural negotiationとして特に重視なトピックとされていました。
どうすれば異文化の交渉者相手でも効果的に交渉を進められるのでしょうか。
注意すべきポイントはいくつかあります。
異文化の交渉を扱った研究からは、こうしたポイントが浮かび上がってきます。

興味深い研究のひとつに、中国での様々な異文化間交渉を調査したものがあります(出典:Luo Y, Shenkar O, ”An empirical inquiry of negotiation effects in cross-cultural joint ventures”, Journal of International Management)。
この調査では、海外企業が中国現地企業とジョイントベンチャーを設立する際の155の交渉を事例研究の題材に、交渉の成功にどんな要素が寄与しているかを分析しています。
(交渉の成功度合いは、ジョイントベンチャーのその後の業績で計測)
観察する変数としては、以下の4つに注目しています。

1.合意案の具体性
2.合意案に含まれる条件の網羅性
3.交渉の長さ
4.政府の関与度合い

こうした諸条件によって、交渉結果はどう影響を受けたのでしょうか。

結果から言うと、変数1と2(合意案の具体性、含まれる条件の網羅性)が高ければ高いほど、ジョイントベンチャーが成功する度合いが高くなりました。
互いに誤解のないよう合意を詳細に文書化し、抜け漏れのないよう、しらみつぶしに項目を盛り込むことが成功のカギだったというわけです。
実際にこの調査では、交渉者同士の文化が離れたものであればあるほど、条件を幅広く具体的に盛り込む傾向も見られました。
「はっきり言わなくても分るだろう」と曖昧にすることなく、徹底的に合意内容を”見える化”するよう努力することが、広く行われているわけです。

ちなみに、調査された変数のうち、3と4(交渉の長さ、政府の関与度合い)は交渉結果に意味のあるレベルで影響を与えていないとされています。
それどころかむしろ、3と4は逆に1と2が結果に及ぼす影響を弱める結果をもたらしていたといいます。
交渉が長引くほど、また政府が関わるほど、いくら合意条件を具体的かつ網羅的にしても結果がうまくいかない、ということです。
解釈の仕方はいくつかありますが、あまりに長引いて無理に妥結した場合や、全く違う利害関心を持つ強力な第三者(政府など)がいる場合は、交渉の結果が望ましい方向に行きにくいとも考えられるでしょう。

このように、合意の内容をできるだけ詳細にし解釈の齟齬をなくすことは、異文化間交渉の重要なポイントとなります。

(第29回続く)

<28>典型的なだましのテクニックとは?

2006-04-08 | 第三部:実戦で交渉に勝つコツは?
実際に交渉をするとなると、交渉の相手は必ずしもきちんとしたヒトばかりではありません。
中には、様々なだましのテクニックを駆使して交渉相手から最大限の利益をむさぼろうとする輩も多くいるのが現実です。
こうした交渉者に対抗するためには、相手の手の内を予めよく理解し予測しておくことが必要です。

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-交渉相手にするならどんなヒトが信頼できそうでしょうか?

様々な要素が考えられますが、たとえば

+態度がソフトでこちらの話を上手に聞く相手
+世間の相場に合った「適正」な要求をしてくる相手

などは、信頼できそうな印象があるでしょう。

しかしながら、信頼できそうな相手が、本当に誠実で望ましい交渉相手とは限りません。
詐欺師だって、ぱっと見にはウソなど決してつかなさそうな、優しい容貌をしていたりするものです。
交渉で特に注意すべきだましの典型的なテクニックも、上に挙げたような「一見信頼できそう」な姿をしています。

まず、あまりに態度がソフトで過度に聞き上手な姿勢を示す相手は考えものです。
勿論、そうした温和で合理的な姿勢が芯から身についている人もいますが、場合によっては演技(もしくはテクニック)でそうした姿勢を見せている可能性があります。

特に典型的なトリックなのは、ソフトな姿勢で油断させ、こちらの話をうまく引き出させることで交渉を自分に有利に進めさせるものです。
具体的には、必要以上にこちらの手の内(BATNA等、交渉上の機密情報)を話させる技。
またこちらの話を聞いた後にもう一度話をまとめ(アクティブリスニング)、その際に自分に有利なように微妙にニュアンスを変えてしまう技があります。
ソフトな語り口に引き込まれ、いったん相手を受け入れる姿勢を取ってしまうと、普通の人では「ここから先は秘密だから話せない」とか「そんなことは言っていない、訂正しろ」といった、攻撃的な対抗表現を持ち出しにくくなります。
相手の狙いはまさにそこにあり、「なんとなく強くNoと言えない」雰囲気を作り出せばしめたもの。
あとは「いいヒト」の顔で一気に畳み掛けて交渉を自分に有利にまとめようとします。

また、世間の相場に合った「適正な」要求をしてくる相手、というのも無条件に受け入れるべきではありません。
そもそも「適正な」水準とは何なのか、本質的にはどんな交渉でも絶対の基準は存在しません。
何が「適正」なのかを決めることこそが交渉そのものなのですが、だましのテクニックに長けた交渉者の場合、「あたかもこれが適正な水準だ」とこちらの頭に刷り込ませ、それをテコに攻撃を仕掛けてくる場合があります。

典型的には、そうした攻撃は三つの形を取ります。
三つというのは、
1. 罪悪感
2. 脅迫
3. 賄賂
です。

まず「罪悪感」というのは、相手が適正な水準を提示して最大限に努力しているのに、こちらが無理難題を押し付けて交渉を難航させている、という印象を持たせる技です。
実際相手が提示しているのは適正な水準どころか、相当自分に有利な条件だったりするわけです。
具体的にはこんなセリフが当てはまるでしょう。

「この価格でも合意してくれないんですか?
よそのどの業者をあたったって、これ以上にサービスした価格を出せるところなんかありませんよ。
他ならぬあなたのお願いだったから精一杯値引いて、やっとこの価格でどうにか稟議も通してきたのに。
こちらはいつもあなたの要望にお答えしてきたのに、急にそんなことを言うなんて信じられませんよ…」

次に「脅迫」も、この「適正」な水準を受け入れずにNoなどと無茶を言うなら実力行使も辞さない、その位自分の提案は「適正」だ、と「適正」の定義を押し付けるトリックを使用します。
セリフにすればこのようなものが当てはまるでしょう。

「この価格でも合意してくれないんですか?
どこの業者でもこの水準が精一杯のサービスですよ。
そんな無茶を言っていたら、この業界で今後やっていけなくなるかもしれませんよ。
業者の横のネットワークはあなたが思っているより強いんですよ…」

最後に「賄賂」というのは、文字通り袖の下を送り、こちらを篭絡しようとする技です。
この際は、相手の提案が「適正」だというよりも、こちらにも利益を食わせることで「適正」な合意案を一緒に作った、という印象を与えることが主眼となります。
セリフにすればこのようなものが当てはまるでしょう。

「この価格でも合意してくれないんですか?
じゃあこうしましょう。
あなたに個人的にX%のマージンを渡すことにしましょう。
こうすればあなたにとっても損のない話になりますからね…」

今回は典型的なだましのテクニックを考えてみました。
日本人同士ならこうしただましのテクニックも「ああこれだな」とその場ですぐに分りやすい部分がありますが、これが異なる文化圏の交渉者となると、難しさが格段に上がります。
行動や発言のニュアンスを理解する前提が大きく違うため、同じ交渉内容でも多くの誤解が発生するからです。
そこで次回は、海外の交渉相手と信頼関係を作る際に注意すべきこと見ていきたいと思います。

<27>どうすれば交渉相手と信頼関係が出来るの?

2006-03-22 | 第三部:実戦で交渉に勝つコツは?
「ヒトとヒトとの信頼関係」と言うと曖昧模糊としていて、きっちりした方法論で扱うにはふさわしくないように見えます。
確かにビジネススクールにおいてもこうした分野に完璧な方法論があるわけではありません。
ただし特に交渉においては、いくつか普遍的に重要な守るべきポイントがあります。
今回は交渉相手との信頼関係を高める上で注意すべき点をざっと概観してみたいと思います

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相手から信頼を得るにはどうしたらいいでしょうか?

一般的に言えば、「約束を守る」とか「思いやりを見せる」といった、こちらの姿勢を相手に好感を持って評価してもらうことが必要になるでしょう。
交渉も広義の人間関係の一つなので、普通の人間関係と同じような法則が基本的にあてはまります。

ただ、互いに対立する利害がからむ点で、少し特殊な側面があります。
つまり、自然な状態では互いが対立しあう力学が働くため、信頼関係を高めていくことが普通の会話以上に難しいのです。
そうした状況では、日常の会話以上に意識的に、しかも相手にも分るようはっきりと示して信頼関係を高めていく必要があります。

交渉での信頼関係構築のコツには、具体的には大きく5つのポイントがあります。


1. それまでの経緯の共通理解を作る

まず重要なことは、交渉の背景やそれまでの交渉過程について、互いの理解がきちんと合っているかどうか、時々確認を入れることです。

例を挙げると、「ここまでの話を整理するとXXということですね」、「XXは問題ないが、YYは互いに見解が違うということですね」といった表現です。
条件の厳しい交渉では、どうしても互いに感情的になりやすく、往々にして怒鳴りあいに近い状況が発生します。
そうなると、互いに相手の主張を聞かず、自分の主張を土台に新しい主張を重ねて、話の前提がかみ合わずまともな議論にならない事態になりがちです。

こうした事態を防ぐためにも、「どの点で互いの理解が一致していないのか」という状況理解も含めて、交渉中は常にそこまでの経緯を共有すべきです。
交渉しながら同時に中立の視点で議事進行できることを示せば、こちらが感情に囚われず全体を理解する視点を持っている事を相手に納得させることができます。
そうなれば、交渉相手にとって、話し合いが納得のいく結果につながりやすいと感じさせることができます。

2. 小さくても目に見える成果を段階的に作る

次に、いきなり最後の合意を目指す前に、「小さな成功」を積み重ねることも重要です。

話し合いのルールや交渉の日時、または上に述べたそれまでの経緯の共通理解などなど、交渉結果そのものでなくても、互いが合意できる小さな要素は沢山あるはずです。
こうした小さな合意が数多く生まれれば生まれるほど、たとえ最後の本丸の部分で合意に至っていなくても、交渉相手の満足度や期待は高まります。
「一緒に一つ一つ問題を解決している」という感覚ができることで、交渉の結果にもポジティブな期待が生まれるからです。

3. 互いの共通項を見つけ共有する

ヒトとヒトとの信頼関係には、好き嫌いも大切な役割を果たします。
そして互いが何か共通の要素を持っていると、親しみがわいて好意が高まる傾向があります。
そのため、たとえ交渉と直接関係ない事柄でも、共通の属性/経歴/趣味などがある場合はそれを話題にしていくべきです。
共通の特性(例えば同じ出身地、同じ高校出身、趣味がゴルフ、等)を共有すれば、親近感が生まれるため、相手がこちらの主張の意図を汲み、一定の配慮をしようと考えやすくなります。
一見遠回りな方法ですが、案外こうした一言があるかないかで大きく反応が変わる場合もあり、探りの意味でも打って損のない一手と言えるでしょう。

4. 交渉に関わるリスクを話し合い、一緒に対処する

さらに重要なことは、交渉には必ずリスクがつきまとうことを認め、それをはっきりと話し合うことです。

交渉には様々な落とし所(合意のオプション)がありますが、交渉の参加者にとってはそれぞれオプションごとに利益と損失があります。
また交渉の結果によっては、交渉に参加していない第三者が利益や損失を被り、結果として交渉の参加者に影響を与えてくる場合があります。
交渉相手のことだけ考えていても、社会的に認められない合意をしても、結局絵に描いた餅になってしまうのです。
こうした様々なインパクトを隠さず明らかに話し合い、リスクを最小にするために一緒に何が出来るか考えることは信頼関係の構築に非常に有用です。

5. 利益のバランスを取る

最後に、話し合いの結果としての利益と損失について、相手とこちらの間である程度帳尻を合わせてあげることも重要です。

具体的には、こちらが交渉で予想以上の利益を手にしたら(相手はこちらの交渉スキルに負け、合理的な結果だと思い込んでいても)、いつも全部をわがものにしてしまわずに時々譲歩してあげるのです。
もちろん、一回限りの交渉や短期的な利益が重要な場合は、こうした要素を強く考える必要はありません。
しかし、色々な交渉相手から信頼される存在であるためには、自らの交渉者としての評判リスクも念頭においておくべきなのです。
交渉者として「強気」であることは良い評判として受け入れられますが、「強欲」な交渉者は受け入れられにくいので、注意が必要です。

今回は交渉相手と信頼関係を作るために必要な要素について考えてみました。
次回は視点を少し変えて、「信頼できる交渉者」に見せかけて悪い交渉者が使ってくる、典型的なだましのテクニックについて見ていきたいと思います。

<26-2>交渉相手と親しくなるのはいいことなの?

2006-03-15 | 第三部:実戦で交渉に勝つコツは?
「無条件に建設的に」式のアプローチには、誤解されやすい重要なポイントが二つあります。
これら二つのポイントに注意することは、日本人が交渉する際に最も大切なこととも言えるでしょう。


(1)「建設的になる」ことと「へりくだる」ことは異なる

まず最も間違えやすい点が、「建設的になる」ことの意味です。
「建設的」であることは、相手に迎合したり、自分のミスを自分から認めたり、必要以上に厚意を見せることとは全く違います。

この点、日常生活でもタフな交渉が当たり前の国に育った人の行動を見ると、違いが良く分かるでしょう。
欧米(特にラテン系の国)や中東で育った人の多くは、交渉中に絶対に謝りません。(普段でも謝ることは少ないと言えますが)
自分のミスや主張の支離滅裂さが明らかになっても、まるで何もなかったかのように次の話題に進みます。

日本人なら、「すみません間違っていました。でもこうしてわざわざ自分から誠実にミスを認めたから私を信頼してくれるでしょう?」と考える所ですが、こうした姿勢は逆にこちらを軽んじる見方を生んでしまいます。

すなわち、タフな交渉で重要なことは、「結局これからお互いにどんなメリットを提供できるか」に集約されます。
「建設的になる」こととは、過去ではなく、これからの展開に貢献することなのです。
いわば、「ここまでの経緯がどうだったか」」を蒸し返したり、相手の情緒に訴えることで好意を期待することは、内容がどうあれ建設的な姿勢と直結していません。それまでの経緯がどうあれ、そこまでどんな無茶を言っていようが、結局のところ交渉を最後に互いのメリットがある形に導く発言ができること。
それこそが「建設的」な交渉姿勢として評価される部分があるのです。

(2)前提は性善説ではなく性悪説

一つ目のポイントは、文化によってコミュニケーションの捉え方が違うことに起因していました。
二つ目のポイントはそのさらに深層とも言えますが、日本人の場合、特に性善説に基づいて行動する人が多いようです。
言い換えれば、基本的に「みんな根はいいヒトだ」という前提で、好意や譲歩を見せれば相手も最低それと同じ程度には好意を返してくれると考えるわけです。

しかし交渉の場でこの発想は非常に危険な場合があります。
相手にいいように出し抜かれて、自分だけ損をすることになりかねないからです。

多くの国では、少なくとも交渉の場においては、逆に性悪説を取ることが常識のようです。
つまり相手に必要以上の好意を求める考え方をせず、相手はあくまで相手の利害で動くと考えるのです。
利害の対立する立場で交渉する場合、交渉者同士はかなり競争的・敵対的な関係になりますし、それが当たり前で特に不快なものではないと考えるのがこの立場です。
言い換えれば、世界は自分勝手なならず者であふれていて、自然に思いやりで物事が解決することはない、という前提で話し合いに臨むわけです。

日本人にとっては違和感の大きい考え方ですが、この性悪説に正面から対峙できるかどうか、エゴにまみれた絶望的な世界で最善の解決策を作り出す努力ができるか、それがネゴシエーターにとって最も重要な覚悟だと思います。

以上のポイントを考慮すると、結局のところ

交渉相手と親しくするのはいいことなのか?

は「親しい」ことの意味によると考えるのがベストなようです。
交渉を円滑に進めるために意思疎通がスムーズに図れるようにすることは重要ですが。
しかし、「親しい」からといって見返りや甘えを期待するようでは、厳しい交渉を勝ち抜くことはできないでしょう。
また逆の発想をすれば、相手が「性善説」的な発想で交渉に臨んでいる場合、相手の誤解を利用してこちらが相手を出し抜くことも可能なのです。

今回は交渉相手とのあるべき距離の取り方を考えてみました。
とはいえ、交渉相手と信頼関係を作ることが全く必要ないわけではありません。
そこで次回は、どうすれば交渉相手と信頼関係が作れるのか、を考えてみたいと思います。

<26-1>交渉相手と親しくなるのはいいことなの?

2006-03-05 | 第三部:実戦で交渉に勝つコツは?
交渉相手との人間関係をどう作るか、は難しい問題です。
第一部でも紹介したとおり、典型的な日本人の発想で「とりあえずへりくだって、礼儀正しく、愛想よく」しても、交渉では相手につけこむスキをあたえかねません。
かといって、最初からケンカ腰で交渉に臨んでも、話し合いがうまく進まないことは容易に想像できます。
今回から何回かはこうした交渉相手とのあるべき人間関係を考えていきたいと思います。
今回はまず、相手との距離感の取り方を考えてみましょう。
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-交渉相手と親しくなるのはいいことなのか?

ビジネススクールでの交渉演習で、筆者はいつもこんな悩みを抱えていました。
というのも、演習で世界各国から来た他の参加者と実際に交渉してみると、自分が「当然だ」と思うやり方がほとんど通用しなかったからです。
振り返ると、自分が前提としていた人間関係に対する見方が、文化的な背景に大きく依存していたのが原因だと思います。
つまり、日本人である筆者は、日本以外ではあまり通用しないような、相手との話し方・関係の作り方をしていたということです。
当時自分が「当たり前」だと思っていたことを書き出してみると、次のようなものでした。

1.相手への信頼や譲歩を見せれば、相手との仲は良くなる
2.相手との仲が良ければ良いほど、話し合いはうまくいく
3.話し合いさえきちんとできれば、お互いハッピーな「最適解」が必ず見つかる

これらは正しいと言えるでしょうか。間違っているでしょうか。

上記のような考え方は、基本的に物事をポジティブに捉えていると言えます。
交渉一般について、本人がきちんと努力すれば問題は解決すると考えているわけです。
また交渉相手との人間関係についても、こちらが誠意をもってきちんと接すれば相手もわかってくれることを前提にしています。
言い方を変えれば、性善説に基づいて交渉に臨む姿勢だと言えるでしょう。

実際のところ、こうした姿勢は多くの場合効果的に働くと言えます。
相手が東洋人であれ西洋人であれ、こちらが誠実だと分れば、相手もある程度誠実に接しようとする傾向は普遍的だからです。
欧米の交渉ハウツー本でも、典型的なもののほとんどはこうした姿勢を推奨しており、

-相手がどうあれこちらは無条件に建設的な対応をすべき

と書いてあります。
そうしたものを読むと、日本人にとっては何だかなじみのあるガイドラインに見えるので、

-そうか、やっぱり誠意を見せて関係を作ることが大事なのは万国共通なんだ

と思ってしまいがちです。

しかしながら、日本人にとっての交渉の落とし穴はまさにこの点にあると言っても過言ではないと思います。
というのも、こうした「無条件に建設的に」式のアプローチには、誤解されやすい重要なポイントが二つあるからです。

(第26回続く)

<25-4>感情をきちんと伝えるには?(4)

2006-01-22 | 第三部:実戦で交渉に勝つコツは?
続いてつまずきやすいポイントの残り二つを見ていきましょう。


ポイント2:感情に関する会話

感情は微妙な問題です。

たとえば相手の言い回しにむっとする、態度に腹が立つ、誤解にイライラする。
人と話をすれば、時には何かしらネガティブな感情が生まれるのが自然です。
ところが多くの場合、特に交渉が少し上達した中級者には、あえてこうした感情を押し殺してしまうヒトがよく見られます。
感情は問題の解決には関係ないし、いちいち相手と共有しても意味がない。むしろ相手に手の内を読まれてしまうだけなので、無理にでも隠すべきだ。
こうした前提で、感情に関する会話はむしろ避けようとするのです。

確かに、感情を押し殺すことは一見合理的に見えます。

しかし、それがかえって問題解決を妨げることもあります。
というのも、時には押し殺した感情そのものこそが、問題の核心と深く結びついていることがあるからです。

例のケースを振り返ってみると、Bさんが自分の感情を押し殺し、Aさんのノートの清書を引き受けています。
問題をノートの清書だけに限定すれば、Bさんが我慢することで問題は解決したと言えるかもしれません。
しかしながら、広く考えれば本当の問題は
(1)AさんBさんとも自分のコミュニケーションの癖に気づいていないこと、
(2)AさんBさんの間で十分に情報が共有されていないこと、
(3)結果としてAさんBさんの関係が破綻の危機に瀕していること、
(4)このままでは同じような事件が別の人との間でAさんBさんそれぞれに起こりかねないこと、
とも言えるでしょう。

理想的には、すっきりしない感じが残る会話になった際には、互いの感情もきちんと俎上に載せて話すべきです。
感情は取るに足らない気分の問題ではなく、時には問題をより複雑にする元凶になると想定しましょう。
もちろん、誰もが心理カウンセラーではありませんから、完璧に感情のしこりを取ることはできないかも知れません。
それでも、互いがどう感じたのかを(良否の評価は置いて)まず伝え合うことで、どこからどこまでが感情のもつれで、どこからが利害の問題なのかを仕分けることが出来ます。
その上で、既に説明した「事実認識」の話し合い方を活用して、事実とそれにまつわる感情を整理し、共有するわけです。
相手に感情が伝わっただけでも、多くの場合気分がさっぱりするものですし、どうすれば感情的な対立を抑えられるか、話し合いのルールを話し合うことが出来ます。
特に相手が合理的な交渉者であればあるほど、感情を仕分けることで感情以外の問題に集中して効率よく交渉が進められるでしょう。


ポイント3:自己防衛

注意すべき三つ目のポイントは、自分の立場を守ることに過剰に意識が向くことです。

自分の感情が満たされない場面に直面すると、多くの人は自分の立場が危機に陥っていると感じます。
例えば、自分の言い分がうまく聞いてもらえない場合、依頼した内容だけでなく自分自身そのものが否定されたと感じるものです。
自分の提案が上司に一顧だにしてもらえなかったら、自分の能力が否定されていると感じるでしょう。
こうした、自分に対する相手の反応が、自己評価に直結してしまう傾向は誰もが持っているものです。

交渉や感情がからむ会話で危険なのは、それが過剰な自己防衛に向かうことです。
つまり、誰しも自分が優秀なのか無能なのか、勝っているのか負けているのか、好かれる人なのか嫌われる人なのか、といった自己イメージを守ろうとする意識があり、それが感情を余計にヒートさせてしまうことがあるのです。

例えば、上司にした提案が無視された時、「自分は優秀だ」とする自己イメージが強ければ強いほど、「こんなのはおかしい」「上司が悪い」と感じるでしょう。
しかし感情の矛先が上司に向かっていては、状況はむしろ悪化し、提案が受け入れられる可能性もますます下がりかねません。
提案を受け入れてもらうのも交渉だと考えれば、相手が「No」といったからといっていちいち腹を立てていても、有利な結果に結びつかないのです。
例に挙げたケースでも、BさんはAさんの態度、特に自分を専属のタイピストのように扱う態度を自分の立場を軽んじる攻撃と見て、感情を悪化させているのが分ります。

こうした背景には、自己イメージをゼロイチで捉える短絡的な視点があります。
自分が「良い」か「悪い」かのどちらかと捉え、極端に二元化するとどうなるでしょう。
誰しも自分が可愛いので「良い」自己イメージを死守しようと、それに合わない状況・相手を感情的に攻撃してしまいます。
しかし普通に考えれば、人間である以上お互い少しは不適切なことを言ってしまうものです。
自分も失言をするし、相手もこちらの気に入らないことを少しは言ってしまうのが自然でしょう。
完全無欠な自己イメージなど、人との会話の中で維持することはほとんど不可能です。
そう考えれば必要なことは、自己イメージをより柔軟に捉えることと言えるかもしれません。

-誰だって正しいことも言うが、不適切で癇に障ることも言ってしまうものだ
-だから発言の一つ一つでいちいち自分のプライドが影響される必要はない
-ただ引っかかりがあるのであれば、そのこと自体を相手に伝えることは意味がある

といったところでしょうか。

ここまで感情をきちんと伝える方法を何回かにわたってみてきました。
このようにきちんとしたコミュニケーションができれば、きちんとした関係が構築されていくはずです。
しかしながら交渉で求められる相手との関係は、友人や恋人同士の関係と全く同じでもありません。
協調と競争の微妙なバランスを考慮しなければならないからです。

次回から何回かは、交渉相手との人間関係に焦点をあててみたいと思います。