MBAで教える「交渉術」

MBA留学先での「交渉」の授業内容を配信。といっても最近はもっぱら刺激を受けた本やMBAについて。

<16-1>交渉のタイプ

2005-05-30 | 第二部:交渉ってどう考えたらいいの?
前回まで、第二部では交渉を分析的に考える上で必要な考え方とキーワードを概観してきました。
こうした概念を理解することは、交渉の現場や準備の際に、必要なことをモレなくムダなく考えるための助けになります。
第二部のしめくくりとして、今回は交渉にはどんなタイプのものがあるのか、基本的な分類について見てみましょう。

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-今回の交渉はちょっと難しすぎるなあ…

ビジネススクールでの交渉の実習で時々感じたことです。
MBAでの授業ではほぼ毎回のように実習をするため、筆者が取った三つの講義累計で30個以上の交渉ケースがありました。
その中で時には冒頭のように難しさに頭を抱えてしまうものもあり、また時には

-今回の交渉はずいぶん簡単だなあ…

と拍子抜けしてしまうものもあったのです。
交渉にもいろんなタイプがあり、またこちらの得手不得手もあるので、毎回ケースの難易度がまったく違って見えたのでした。
こうした交渉のタイプによって、前提となる考え方や交渉の「定石」が変わる部分があります。
そこで今回は最も典型的な分類について考えてみたいと思います。

交渉の内容に関して最もわかりやすいタイプ分けとしては、まず第一に次のものが挙げられるでしょう。


1.Distributive negotiationとIntegrative negotiation

簡単に言うと、お互いの利害が相反したり、決まったパイを分け合う競争的な交渉です。
たいていの場合、こうした交渉の結果は勝ち負けで考えられます。

典型的な例としては例えばバザールでの価格交渉や冷戦下の米ソ交渉が挙げられるでしょう。
バザールの例で言えば、片方はとにかく安く買いたいと考えているし、もう一方はできるだけ高く売りつけたいと考えています。
売り手にせよ買い手にせよ、望みに近い値段で妥結できれば「してやったり、ざまあみろ」と内心勝ち誇るでしょう。
こうした交渉では往々にして、ウソすれすれの情報操作や相手の心理をつく駆け引き、それにBATNAをちらつかせるパワーゲームが展開されます。
バザールの買い物の例であれば、売り手は商品についてウソすれすれに美化して宣伝するでしょうし、買い手は「高ければ別の店に行けばいい」というBATNAをちらつかせて交渉するわけです。

一方でIntegrative交渉とは、お互いの協力によって新たなバリューが発生する(分け合うパイが増える)、協調的な交渉です。
お互い協力した方が得をするとわかっているので、話し合いは穏やかで理解のあるものになりがちです。
交渉人はお互いを敵同士というよりパートナーと見るでしょう。典型的な例としては企業の友好的な提携交渉(場合によってはDistributiveになりますが)が挙げられるでしょう。
こうした交渉では駆け引きのスキルというよりも、相手の話を上手に聞くスキルや話をわかりやすく整理する技術が物を言ってきます。
情報も基本的にできるだけ共有し、不安があれば納得いくまで話し合って合意点を探ることになるでしょう。

皆さんはどちらのタイプの交渉が好きでしょうか?

筆者などは、どうしてもIntegrativeな交渉の方が好きだしより簡単だと考えてしまいます。
しかしビジネススクールでの経験から言うと、これは文化的なバックグラウンドによるところが大きいみたいです。
統計を取ったわけではないんですが、やはり中東系は前者、東洋系は後者を好む傾向があるように思います(欧米系は前者後者どっちも嫌いでない、という感じでしょうか)。

ただし、賢明な読者の方にはご推察のとおり、この分類ははじめから決まっているものではありません。
交渉人の捉え方次第で、同じ交渉もDistributiveにもなりIntegrativeにもなる側面を持っています。
基本的にはDistributiveな要素の強い交渉でも、できるだけIntegrativeなものだと捉えて相手とある程度協力するのが交渉の王道です。
しかしながらモノによってはIntegrativeにするのが非常に難しい交渉もあるので、どちらにも対応できるスキルを備えることが一流の交渉人には求められるようです。

(第16回続く)

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