MBAで教える「交渉術」

MBA留学先での「交渉」の授業内容を配信。といっても最近はもっぱら刺激を受けた本やMBAについて。

<27>どうすれば交渉相手と信頼関係が出来るの?

2006-03-22 | 第三部:実戦で交渉に勝つコツは?
「ヒトとヒトとの信頼関係」と言うと曖昧模糊としていて、きっちりした方法論で扱うにはふさわしくないように見えます。
確かにビジネススクールにおいてもこうした分野に完璧な方法論があるわけではありません。
ただし特に交渉においては、いくつか普遍的に重要な守るべきポイントがあります。
今回は交渉相手との信頼関係を高める上で注意すべき点をざっと概観してみたいと思います

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相手から信頼を得るにはどうしたらいいでしょうか?

一般的に言えば、「約束を守る」とか「思いやりを見せる」といった、こちらの姿勢を相手に好感を持って評価してもらうことが必要になるでしょう。
交渉も広義の人間関係の一つなので、普通の人間関係と同じような法則が基本的にあてはまります。

ただ、互いに対立する利害がからむ点で、少し特殊な側面があります。
つまり、自然な状態では互いが対立しあう力学が働くため、信頼関係を高めていくことが普通の会話以上に難しいのです。
そうした状況では、日常の会話以上に意識的に、しかも相手にも分るようはっきりと示して信頼関係を高めていく必要があります。

交渉での信頼関係構築のコツには、具体的には大きく5つのポイントがあります。


1. それまでの経緯の共通理解を作る

まず重要なことは、交渉の背景やそれまでの交渉過程について、互いの理解がきちんと合っているかどうか、時々確認を入れることです。

例を挙げると、「ここまでの話を整理するとXXということですね」、「XXは問題ないが、YYは互いに見解が違うということですね」といった表現です。
条件の厳しい交渉では、どうしても互いに感情的になりやすく、往々にして怒鳴りあいに近い状況が発生します。
そうなると、互いに相手の主張を聞かず、自分の主張を土台に新しい主張を重ねて、話の前提がかみ合わずまともな議論にならない事態になりがちです。

こうした事態を防ぐためにも、「どの点で互いの理解が一致していないのか」という状況理解も含めて、交渉中は常にそこまでの経緯を共有すべきです。
交渉しながら同時に中立の視点で議事進行できることを示せば、こちらが感情に囚われず全体を理解する視点を持っている事を相手に納得させることができます。
そうなれば、交渉相手にとって、話し合いが納得のいく結果につながりやすいと感じさせることができます。

2. 小さくても目に見える成果を段階的に作る

次に、いきなり最後の合意を目指す前に、「小さな成功」を積み重ねることも重要です。

話し合いのルールや交渉の日時、または上に述べたそれまでの経緯の共通理解などなど、交渉結果そのものでなくても、互いが合意できる小さな要素は沢山あるはずです。
こうした小さな合意が数多く生まれれば生まれるほど、たとえ最後の本丸の部分で合意に至っていなくても、交渉相手の満足度や期待は高まります。
「一緒に一つ一つ問題を解決している」という感覚ができることで、交渉の結果にもポジティブな期待が生まれるからです。

3. 互いの共通項を見つけ共有する

ヒトとヒトとの信頼関係には、好き嫌いも大切な役割を果たします。
そして互いが何か共通の要素を持っていると、親しみがわいて好意が高まる傾向があります。
そのため、たとえ交渉と直接関係ない事柄でも、共通の属性/経歴/趣味などがある場合はそれを話題にしていくべきです。
共通の特性(例えば同じ出身地、同じ高校出身、趣味がゴルフ、等)を共有すれば、親近感が生まれるため、相手がこちらの主張の意図を汲み、一定の配慮をしようと考えやすくなります。
一見遠回りな方法ですが、案外こうした一言があるかないかで大きく反応が変わる場合もあり、探りの意味でも打って損のない一手と言えるでしょう。

4. 交渉に関わるリスクを話し合い、一緒に対処する

さらに重要なことは、交渉には必ずリスクがつきまとうことを認め、それをはっきりと話し合うことです。

交渉には様々な落とし所(合意のオプション)がありますが、交渉の参加者にとってはそれぞれオプションごとに利益と損失があります。
また交渉の結果によっては、交渉に参加していない第三者が利益や損失を被り、結果として交渉の参加者に影響を与えてくる場合があります。
交渉相手のことだけ考えていても、社会的に認められない合意をしても、結局絵に描いた餅になってしまうのです。
こうした様々なインパクトを隠さず明らかに話し合い、リスクを最小にするために一緒に何が出来るか考えることは信頼関係の構築に非常に有用です。

5. 利益のバランスを取る

最後に、話し合いの結果としての利益と損失について、相手とこちらの間である程度帳尻を合わせてあげることも重要です。

具体的には、こちらが交渉で予想以上の利益を手にしたら(相手はこちらの交渉スキルに負け、合理的な結果だと思い込んでいても)、いつも全部をわがものにしてしまわずに時々譲歩してあげるのです。
もちろん、一回限りの交渉や短期的な利益が重要な場合は、こうした要素を強く考える必要はありません。
しかし、色々な交渉相手から信頼される存在であるためには、自らの交渉者としての評判リスクも念頭においておくべきなのです。
交渉者として「強気」であることは良い評判として受け入れられますが、「強欲」な交渉者は受け入れられにくいので、注意が必要です。

今回は交渉相手と信頼関係を作るために必要な要素について考えてみました。
次回は視点を少し変えて、「信頼できる交渉者」に見せかけて悪い交渉者が使ってくる、典型的なだましのテクニックについて見ていきたいと思います。


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