MBAで教える「交渉術」

MBA留学先での「交渉」の授業内容を配信。といっても最近はもっぱら刺激を受けた本やMBAについて。

<20-2>デキル人の交渉ってどんな感じ?(続)

2005-09-30 | 第三部:実戦で交渉に勝つコツは?
7つのポイントの続きです。

4.基本的に協調路線だが、必要に応じて脅しも辞さない

国際政治の場などを考えるとイメージしやすいものですが、優れた交渉人は交渉と脅迫との微妙なバランスを利用することに長けているものです。
例えば六カ国協議のような交渉の場を考えてみましょう。
そうした場では「話し合いに応じる」ことが大前提ですが、だからといって「実力行使も可能性ゼロでない」という姿勢がないと、相手に妥協を迫るプレッシャーが不足することになるわけです。

そのために優れたネゴシエーターが得意とする点は、(暗黙のものも含め)脅しを現実的なものに見せるスキルです。
ただし実際に脅迫の内容を実行してしまえば、たいてい大きなコストが発生しますし相手も絶望的な反抗手段に出る可能性があります。
従って、相手を追い詰めすぎないようバランス感覚が非常に重要とされるのです。

5.相手との摩擦を予め予期し、冷静に対処する

特に日本人の場合、話し合いの中で相手との摩擦が大きくなることを極力避けようとするクセがあるようです。
確かに、交渉相手との関係が良好なほうが、何かと話し合いも円滑に進むでしょう。
しかし、交渉のもともとの目的はこちらのInterestを実現することなのであり、多くの場合相手側のInterestはこちらと相反するものなので、むしろ摩擦や衝突は必然と考えるべきです。

優れたネゴシエーターはどこで意見がぶつかるか、予め予期して準備することを重視します。
ある意味では、交渉に準備して臨むのはそうした摩擦に効果的に対処するためなのです。
冷静な対応をする力があれば、感情がエスカレートしたり一方的に相手につけこまれたりすることもありません。
むしろ交渉の枠組みを再定義したり、利害の対立しないイシューで合意を形成するなど、摩擦と合意のバランスをコントロールしながら交渉を進展させることができるのです。

6.合意へ向かう「流れ」を作る

交渉が合意に至るまでには、長い道のりがあります。
互いに自分の主張を出し合い、妥協する必要が感じられてもできる限り粘る。
一通りのせめぎ合いが終わらないと、「では合意しよう」という納得が生まれないものなのです。

優れた交渉人はそうした交渉者の心理的な動きを深く理解しています。
そこで、例えば序盤から無理に交渉を終わらせるような発想をせず、常に相手が心理的にどのステップにあるか観察を続けます。
共通のビジョンの提案や進捗の確認など、最終的な合意に至る前の途中の目標点を用意して、まずそれらを橋頭堡として確保します。
しかる後に、合意に至る勢いを醸成するわけです。

7.仲介の立場から交渉をリードする

最後に、交渉する際に重要なことは、交渉の参加者だけでコトが決まると思わないことです。
一見何のことか分かりにくいですが、要は交渉ではこちらに相手にも、背後に利害関係者(例えば交渉国の国民、交渉者の雇い手、上司など)がいるものです。
こうした背後の「黒幕」が納得して動ける合意案でない限り、たとえ交渉人個人がよしと思っても彼らサイドがその案をよしとすることはできないのです。
ある意味で、交渉人は常に仲介役に過ぎないのです。

そこで優れた交渉人は、自らのこうした「仲介役」としての役割を理解し、それに基づいて最大の価値を生み出そうとします。
例えば、相手の交渉者も同様に仲介役としての側面を持っていると考えれば、仲介者同士で協力して双方が納得する案を考えようとするアプローチも有効かもしれません。
時には、合意できそうな案について、相手の交渉者が背後の黒幕に「この案が良い」と説得する手助けを一緒に考えることもありえるでしょう。
互いの立場を必要に応じて中立化できることは、交渉を上手に進める上で必須の技術なのです。


以上、今回は歴史的なケーススタディから優れた交渉者の基本となる動き方を7つの原則として紹介しました。
第三部は交渉の実践に重きをおこうと考えており、今回の原則は総論としての心構えの再確認といえます。
次回は、実践上まず第一に必要となる、交渉の準備をどのようにしたら良いのか、を考えてみたいと思います。

<20-1>デキル人の交渉ってどんな感じ?

2005-09-22 | 第三部:実戦で交渉に勝つコツは?
今回から第三部、いよいよ交渉の実践的なテクニックに話を移します。
第三部では交渉する上で典型的な悩みを順次取り上げ、それぞれどう対処すべきかを色々な視点から考えていきたいと思います。
本題に入る前に、最初となる今回はネゴシエーターの「あるべき姿」について、著名な教授の論をもとにおさらいしておきたいと思います。

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-どんな話し方をしたら交渉で有利になるんだろう?

MBAで交渉実習をしているときにいつも悩んだ点です。

誰しも上手に交渉するには試行錯誤があります。
英語でやる難しさがあるのはもちろんですが、それ以上にどんな態度や姿勢が「勝ちパターン」なのか、感覚をつかむまではどうしても自分の交渉にしっくりこないのです。

そこでビジネススクールではあれこれ異なる交渉のアプローチを教えてくれます。
最適のやり方は一つだけではなく、自分に合ったスタイルをその中から抽出しましょう、というわけです。
色々な方法論の中でも、理論的な枠組みだけでなく実際に誰かがやってきた経験からの示唆が面白かったりします。
今回はそうした経験から結晶化した交渉の「黄金律」の中で、特に面白かったものを、実戦用ガイドラインとして紹介します。
今回紹介するのは、ハーバードビジネススクールのMichael Watkins 教授の議論です。
(同じ内容は「Breakthrough International Negotiation: How Great Negotiators Transformed the World’s Toughest Post-cold War Conflicts」という本にまとめられています)

教授は著名なネゴシエーターのやり方や歴史上大きなインパクトのあった交渉を”Breakthrough Negotiation”と定義し、それらを振り返って7つの大原則にまとめています。
”Breakthrough Negotiator”になるための原則を一つずつ順番にみていきましょう。


1.交渉の枠組みを自ら定める

まず、優れたネゴシエーターの条件として、交渉の状況を所与で固定されたものとは捉えない姿勢が挙げられます。

受身になって相手(あるいは周囲)が言うことを鵜呑みにしていては、創造的な解決策など浮かぶはずがないからです。
優れた交渉人は、交渉が始まると同時に交渉の基本的な枠組みを自分に有利なように定義しようと試みます。

基本的な枠組みとは何でしょうか。
具体的には、誰が交渉に参加すべきか、何が争点なのか、何が制約条件なのかといった、話し合いの前提条件です。
同じ交渉でも、捉え方一つで大きく進展が変わってくるものです。
例えば、互いが敵同士で妥協を要求しあっているのか、大きな共通の敵に向かって共闘するために必要な調整をしているのか、見方次第で同じ妥協も違った見え方をしてくるわけです。
多くの場合、優れたネゴシエーターは交渉そのものが始まる前から、こうした枠組み設定のために交渉相手(や影響力ある第三者)にアプローチします。
テーブルに着く前から交渉は始まっているのです。
話し合いが始まれば、交渉人は

-話し合う議題をコントロールする
-相手に妥協を強いるような具体的アクションをとることをほのめかす
-他の交渉とこの交渉とがリンクしていることを強調する(またはその逆)

といった手段で話し合いの枠組みに影響を及ぼします。


2.相手から体系的に学ぶ

次に、優れたネゴシエーターは交渉中に相手のホンネを学びとることに全力を尽くします。

勿論、交渉が始まる前に必要な準備は徹底的に行います。
しかしながら、どんなに優秀なスタッフが情報収集し交渉の準備をしたとしても、必ずそこには限界があるものです。
だからこそ、交渉中に仮説を立ててそれを試し、相手の反応をうかがって、相手がおかれている状況の理解を常に最新のものとするよう努力するわけです。


3.交渉プロセスを支配する

交渉では、プロセスを制する者が結果も制するものです。
交渉の日時、参加する人数、参加者が囲むテーブルの形、といった非常に細かな要素でさえ、交渉の雰囲気、ひいては話し合いの内容に馬鹿にならない影響を及ぼすものなのです。
例えば、協調を求めているのに、交渉の場やプロセスが相手に不快なものであれば、それだけ相手が協力的な考えに傾く可能性も限られてきます。
一方こちらが強い立場にあって、プレッシャーを与えることで即決を狙っているのであれば、相手の心理を追い込むためにも、用意すべき環境も異なってくるでしょう。
優れた交渉人はこうした交渉の細かいプロセスにも最新の注意を払うものなのです。

(第20回続く)

帰国してみると

2005-09-19 | フランス暮らし
日本に帰ってきました。
短い間とはいえ、久しぶりのヨーロッパでした。

日本に帰ってきてみてやはり気になるのは、飲み物自動販売機です。
(以前もそんなこと書きましたが)
量が多いし、皆きれいできちんと稼動しているものばかり。
どうしても目に付いてしまいます。

といっても筆者は必ずしもネガティブに感じているわけでもなく、ついつい帰国すると成田空港で早速缶コーヒーを買って飲んでしまいます。
あの甘い(かといってヨーロッパの缶コーヒーに比べたら甘さも控えめで香りもきちんとしている)コーヒーを飲むと、そしてそれがキンキンに冷えていると、

-ああ日本に帰ってきたんだ

という気持ちになります。

+いつでもどこでも
+清潔で(自販機の機械自体が)
+安全で(欧州では盗難防止に自販機にぶっとい鎖と金属の錠をかける)
+選択肢が多様で(同じコーヒーでも異様に多く種類がありますね)
+きちんと準備された(キンキンに冷えた)
+そこそこの質のサービスを(間違いはないけど本格喫茶店には勝てない)

提供してくれる缶コーヒー。
いい意味でも悪い意味でも現代日本の象徴みたいな感じもするのです。

久しぶりの欧州

2005-09-06 | フランス暮らし
あっという間に9月ですね。

少し間が開いてしまいましたが、また欧州に行くことになりました。
(といっても数日です)

向こうに住んでいたときはアジアまで行くと考えただけでも、
「そんな地球の反対側まで面倒な・・・」
と思ったものでしたが、逆に今も
「ヨーロッパくんだりまで行くのは面倒だな・・・」
という感じがします。
やはり「限界耐久フライト時間」みたいなものがあって、それを超えるフライトは「大変」なイメージがぬぐえないんでしょうね。
(筆者の場合は限界耐久時間=6時間くらいでしょうか)

このブログの本編も第二部まで完結してそこからしばらく止まってますが、また第三部を少し書き溜めたら掲載していきますので、よろしくお願いします。