MBAで教える「交渉術」

MBA留学先での「交渉」の授業内容を配信。といっても最近はもっぱら刺激を受けた本やMBAについて。

<19-1>典型的な交渉(3) -妥協案の出し方-

2005-07-27 | 第二部:交渉ってどう考えたらいいの?
前回まで二回は、価格交渉でお互いの手の内を考えて、最初の条件提示をし、相手の印象をうまくコントロールする駆け引きをするまでを扱いました。
しかし交渉をまとめるにはもう一歩不可欠なアクションがあります。
そう、妥協案を出すことです。
お互いが少しずつでも歩み寄らないと、ふつう交渉はまとまりません。
今回は妥協案の上手な出し方を考えてみましょう。

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交渉では妥協が必要なのでしょうか?

以前第一部では、オープンな姿勢は重要だが妥協しすぎては意味がない、と書きました(「妥協しそうな感じを出すのは大事、でも本当に妥協してはダメ」)。
確かに姿勢としては妥協をできるだけ避けることが必要なのですが、実際問題として、完全に妥協ゼロで交渉をうまくまとめるのは簡単なことではありません。
お互いの歩み寄りなくして交渉が進展しなくなる事態はまま有るといえるでしょう。
むしろ、実践的にはいかに小さな妥協で大きな効果を得るかこそが重要になってくるのです。

ではなぜ合意に至る上で妥協がそんなに大事なのでしょうか。

研究からは、お互いの妥協がなかった交渉に比べ妥協があった交渉の方が、参加者が感じる満足度が高いことが分かっています。
相手からの妥協があったということは、自分の立場に対しても「それなりに正当性がある」と認められたことを意味するからです。
他人に正当だと受け入れてもらうことは非常に強いポジティブな感情を生むものなのです。
こうして満足な気持ちが生まれれば、合意に至るにも関係を維持するにも、また合意したことを破らずに実行する際にもプラスに働きます。

また一方で、交渉者は自分が交渉をきちんとコントロールできていると思いたい欲求があるからだという説もあります。
誰しも自分が馬鹿な振る舞いをして無能だと思われることは避けたいものです。
相手から妥協を得ることは(程度や本当の損得に関わらず)自分が優れた交渉人であることの証のように思えるため、この欲求をストレートに満足させてくれるのです。
つまり何か妥協してやることは相手の自尊心をくすぐるのに効果大なわけです。

これらを考慮すると、妥協の仕方についていくつかの基本的なガイドラインが分かってきます。


(1)重要でない項目について、しぶしぶ妥協することで「貸し」を作る

まず妥協する項目の選び方に留意すべきです。

こちらにとっても本当に重要な項目を妥協してしまっては、たとえ相手は満足するにせよ損が出ることは避けられません。
そこで、交渉の場にあらかじめ「ダミー」の争点を持ち込んでおくのです。
「ダミー」の争点とは、本当はこちらの損得にはほとんど関係ないが、わざとそれが重要なように思わせた項目のことです。
例えばXというダミー項目を作りあらかじめ強く主張しておけば、交渉で妥協が効果的な局面になったら、

「仕方がない。こちらはXはあきらめるから、そちらもYでは妥協してほしい」

と要求できるわけです。
こちらが一歩身を引くと、相手も何か妥協をしなければならない強いプレッシャーが働くものです。
こうした戦術を効果的にするためにも、自分のホンネの損得勘定は交渉相手に簡単に公開してはいけません。

(第19回続く)

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