MBAで教える「交渉術」

MBA留学先での「交渉」の授業内容を配信。といっても最近はもっぱら刺激を受けた本やMBAについて。

<15-2>キーワード(6):Commitment(続)

2005-05-24 | 第二部:交渉ってどう考えたらいいの?
Commitmentを上手に使う鉄則、残りの二つを見ていきましょう。


鉄則2:仮説を使って話をする

鉄則1でプロセスへのCommitmentが出来上がったら、いよいよ中身の話に入ります。
多くの場合中身の話になると、余計な言質を取られないようにとか、自分の主張ができるだけ一貫して見えるようにと、特定のPositionやInterestに固執してしまいがちです。
お互いがそうした「頭の固い」態度を捨てないと、いつまでたっても交渉は進展しないことになってしまいます。
この原因は、お互いのCommitmentが強すぎることにあります。
「何か言ったら自分がそれに責任をもたなければならない」という前提でモノを考えているわけです。
そこで、この強すぎる責任感をうまく解きほぐしてやる必要があります。
そのための方法が、「仮説を使って話をする」ということです。

「仮説」とは何でしょうか。要は、話を全て「仮の話」にしてやればいいのです。
具体的には、「これから話す中身は全くの仮想アイデアで責任が伴うものではありませんが…」というルールで話し合うことです。
欧米の会議などでよく使われるブレインストーミングと同じ発想です。
「話し手が発言内容にCommitmentをもたなくていい」というルールを明示してやることで、お互い自由に新しい合意案のアイデアを出すことができます。
あくまでも理屈上そういうアイデアがある、というだけで、どれが自分の立場か表明する必要がないからです。
このように書くと当たり前に聞こえますが、実際の白熱した交渉ではまるで競争のようになって、「合意案を一緒にブレインストーミングしよう」という発想は頭から飛んでしまったりするものです。
Commitmentのスイッチを自由にオン・オフ変更する頭の使い方は、現場では非常に重要です。

また同時に、「仮説」にはもう一つ別の使い方があります。
相手がブレインストーミングに応じなかったとしても、相手のアイデアを引き出させてやる方法として仮説を使えばよいのです。
具体的には、「もし私があなただったら、XXという提案をするはずですが…」とか、「もしあなたにとって一番重要なのがAなら、Bという案が魅力的なはずですが…」といった話法です。
こう持ちかければ、相手はYesにせよNoにせよある程度理由を説明せざるを得ず、そこから新しい案の糸口となる情報が引き出せるのです。
仮説はあくまでも仮の話であるゆえに、Commitmentをあいまいにしてその分話を広げることができるわけです。

鉄則3:相手をプロセスに巻き込む

最後に、鉄則2で広げたアイデアから双方が納得できそうな案が見つかったら、後はむしろ合意に双方の強いCommitmentを持たせて、交渉結果を確実なものにする必要があります。
こうしたCommitment強化のためには、相手を最終合意案まとめのプロセスに巻き込むことが重要です。
相手を巻き込むとは、最終合意案の作りこみに相手の力を借りることです。
どんな交渉であれ、話し合いで細部まで完璧な合意案が完成することは少なく、大意が固まった上で細部は契約書などの形に落とし込むのが一般的です。
この作りこみの時点で、双方の細かい思惑が微妙に食い違うことは頻繁に見られることです。
そこでどちらかが一方的な案を通してしまうと、相手側は交渉の結果全体が「歪められている」ように感じ、それを遵守しようとする意欲が薄れてしまいかねません。
後々まで交渉の結果を有効にしたいと思うなら、最後のツメの段階まで気を抜くべきではありません。
人間は自分が言った意見や自分が関わった案件にはより責任感を感じやすい(Commitmentを持ちやすい)性質があるので、相手に関わりをもたせてやることがCommitmentをうまく使うツボなのです。


以上、今回はCommitmentについて説明しました。
重要なキーワードも一通りカバーしてきたので、キーワード編はこれでいったん完結とします。
次回からは交渉の様々なタイプについて考えてみたいと思います。

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