MBAで教える「交渉術」

MBA留学先での「交渉」の授業内容を配信。といっても最近はもっぱら刺激を受けた本やMBAについて。

<10-2>キーワード(2):BATNA(続)

2005-04-26 | 第二部:交渉ってどう考えたらいいの?
では、BATNAの強弱だけで勝負は決まってしまうのでしょうか?

たしかにBATNAの影響は無視できませんが、交渉はBATNAがあればそれだけで決まってしまうものでもありません。
プロのネゴシエーターはBATNAに対する取り扱い方に細心の注意を払います。
実際のところ、交渉は「水モノ」であり、たとえ自分のBATNAが弱いものでもそれを戦術的に使うことである程度の挽回は可能なのです。
以下に、BATNAを上手に扱うための基本となる三つのガイドラインをまとめてみました。


1. お互いのBATNAを熟知すること

まず何よりも、お互いのBATNAが何なのか把握しないことにはゲームになりません。
交渉の前にあらかじめ頭を捻って、自分にとってもっと良い代替案がないか探すことに十分時間を使うべきです。
今回のケースで言えば、例えば改築と同程度の費用で買える郊外の物件で、富士山の眺めが綺麗なところが見つかれば、AさんはBさんとの交渉で無理な妥協をする必要がなくなりなります。
話がまとまらなければそちらの物件に引っ越してしまえばよいからです(住み慣れた街を離れて郊外に移ることを考えると、交渉がうまくいった場合よりは若干魅力の劣る結果ですが)。
また自分の代替案だけでなく、相手の代替案をしっかり探ることも重要です。
今回のケースで言えば、例えばBさんは本当に条例をたてにAさんの改築をさしとめることができるのでしょうか。
条例を適用するには何か条件があり、もしかしたらAさんのケースはこれに当てはまらないかもしれません。
相手に強いBATNAがある場合でも、詳しくその代替案を調べていけばどこかにほころびがある可能性はあります。

2. 相手のBATNAを弱めること

勝負の鉄則として、相手の武器を無力化することは重要です。
こちらに大きな影響力があれば交渉前から相手のBATNAをつぶすこともできますが(今回のケースで言えば、県に働きかけて条例をなくしてしまう等)、交渉中でも相手の認知に働きかけてBATNAを弱めることは十分可能です。
第一に、相手は自分のBATNAに正しく気づいていないかも知れません。
今回のケースで言えば、実はBさんが県の条例のことをあまりよく知らないことも十分あり得ます。
こうした場合、そのBATNAが存在しない前提で話をできるだけ具体的に進めてしまうべきです。
第二に、相手がBATNAに気づいていてもゆさぶりをかけることができます。
まず相手が自らのBATNAに言及したら、「よく意味が分からないので詳しく説明して欲しい」と情報を出させます。
そうすることで相手が自分のBATNAについてどこまで知っているかが大体分かります。
あとは、説明の中でおかしな点があればそこをついてもOKですし、また相手が言及しなかったその案の欠点を指摘することで、「このBATNAは実はそれほど魅力的でないかも」と思わせればよいのです。
今回のケースで言えば、例えばAさんはBATNAの時間と費用の観点から、「条例による差し止めだとこんなに時間と費用がかかるから、ここで何らかの合意をしてさっさと改築を進める方が現実的でしょう?」と話をもっていくことが出来るでしょう。

3. 自分のBATNAを強めること

2.の逆に自分のBATNAの強みを強調することで立ち場を強くします。
但し、あまり自分のBATNAの話を詳しくしすぎると思わぬボロが出たり、また無用なプレッシャー(イヤなら合意しなくてもいいんだよ、とケンカを売っている感じ)を与えることがあります。
基本的には相手が無茶な要求をしてきたり、こちらのBATNAを低く見下してきた場合に、防衛的にこの手を使うべきでしょう。


このように、BATNAは扱い方次第で武器にもなり弱点にもなります。
ただし、確かにこれらは交渉の非常に重要な一面ですが、BATNAをちらつかせるだけでは交渉はまとまりません。
次回はキーワード編第三回として、交渉をまとめるためのOptions(合意案)について説明します。

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