MBAで教える「交渉術」

MBA留学先での「交渉」の授業内容を配信。といっても最近はもっぱら刺激を受けた本やMBAについて。

MBAの進路

2005-03-31 | MBA
MBAが終わって結構な時間がすぎました。
欧米でMBAを取った人たちってその後どうなるんでしょうか。

周囲の友人を見て考えても、なかなか一概には言えませんがまず四択の選択肢があります。
四択というのは、

1.元いた職場に戻る
2.ほかの会社に転職する
3.起業する
4.しばらく働かない

という感じです(当たり前か…)。

どれが多数派なんでしょうか。
たぶん2、なんですが実は結構4の人がいる気がします。

転職先を探していてなかなか見つからない、という人も当然いるんですが、
自発的失業者というか、「しばらく働きたくないもんね」な人もいます。
日本ではそういう人はニートとかなんとか言って毛嫌いされがちですが
欧米(特にヨーロッパかな)ではごく普通に見られているみたいです。

「若いうちはあれこれ迷うもんだ」、とか
「MBAで大変だったんだからしばらく休んでいいんじゃない」みたいな感じです。

似たような話はカヌーイスト野田知祐さんの「北へ」(南へだったかも?)という自伝(的エッセイ)で、
野田さんが若いときに当てもなくヨーロッパへ飛び出した時のエピソードにもあったと思います。
日本では定職につかない自分がどこに行っても受け入れられなかったけど、
ヨーロッパでは金も目的もない自分が「若いときにはいろいろあるさ」と
なんとなく受け入れられた、という感じの話で。

ある友人いわくMBAで一番いいことは、何よりそうしてまとまった時間が取れることだと言います。
そんなに休めるんだったらその通りだわな、と納得してしまいますね。

<6-2>すぐ妥協してしまうのってだめなの?(2・続)

2005-03-30 | 第一部:そもそも「交渉」ってなに?
少し話が脱線してしまいました。

まとめると、以上の研究も参考に「ソフトとハードどっちがいいの?」という疑問に筆者なりの結論(仮説)を出すと、次の三点になると思います。


1. 相手からは基本的に「ソフト派」と思われたほうが有利

調査結果にもある通り、「ソフト派」と「交渉上手」というイメージには正の相関があります。
実際にソフト戦略が有利なのであれ、単に相手がこちらを交渉上手と思うだけであれ、損になることはなにもありません。
相手の感情的な反発を抑える(お互いに「キレあう」事態を避ける)意味でも基本は「ソフトに見せる」べきだと考えます。


2. ただし何が「ソフト」なのかは文脈による

一方で、一口に「ソフト」といっても実は定義があいまいなものです。
必ずしも「考えられる限り最高の思いやりを示す」ことをしなくても、相手の受け取り方によって十分に同じ効果を得ることはできます。
相手の文化や性格、お互いの力関係を考えてどの程度の配慮が必要かを見極め、相手に与える譲歩は最低限に押さえるのがカギだと思います。
「ああこいつは基本的にソフトなんだな」という印象さえ与えれば、あとは自分を親切に見せるためにそれ以上譲歩をする必要はないのです。
多くの場合、そうした印象管理につながるのは言葉遣いや姿勢で相手に最低限敬意を表しているか、また相手の言葉をきちんとリスニングできるか、といったレベルの行動だと思います。


3. 時に応じて「ハード」な戦略も使う

ハード戦略にも長所はあるのですから、必要に応じてこれを使わない手はありません。
「態度は丁寧で公平だが時には大胆な要求もする」のが、交渉に勝つ要諦といっても過言ではないと思います。
特に欧米での交渉などでは、頭からハード戦略を毛嫌いするのでなく、時と状況に応じてこちらからも鋭い要求ができてこそ相手の信頼が得られる傾向があります。
またハード戦略を多用してくる相手に対して、こちらも反撃の手として同じ作戦が使えることを示すことは、圧迫に屈せずに戦う上で非常に重要になってきます。


以上、筆者の感覚的な部分も交えてあるべき交渉スタイルをまとめてみました。
参考までに、上述のWilliams教授は定性的な観察から、すぐれた交渉人の共通項として、「ハード派」「ソフト派」を問わず以下のような資質があるとしています。

-理路整然と準備していること、
 率直で嘘をつかないこと、
 他人をよく観察して理解できること、
 分析的に考えること、
 現実的で説得力があること。

これらの共通項を全てあわせもった交渉人たちは、一種の「ハイブリッド」と言えるでしょう。
これらいずれの資性も、使い方次第で「ソフト」「ハード」のいずれの戦略でも有効に働くからです。
実際に、上の調査で「ソフト派」と同僚に評価されていた交渉人たちにも、実はハード戦略を頻繁に使う者が少なからずいたのです。
「羊の皮をかぶった狼」よろしく、二つの戦略を巧みに使い分け、時に厳しい要求を通しつつ、周囲からはソフト派として信頼されていたわけです。
筆者の挙げた三点と切り口は違えど、こうした資質をもつこともすぐれた交渉人として目指すべきポイントだと思われます。


最後に、ここまでの話を踏まえ、今回のタイトルである「すぐ妥協しちゃうのってダメなの?」に対する答えをまとめてみると、

-妥協しそうな感じを出すのは大事。ただし本当に妥協してはダメ。

こんなところでしょうか。

次回は第二部に進む前に、MBA(ビジネススクール)で交渉をどんな形の授業で教えていたか、参考に紹介したいと思います。

<6-1>すぐ妥協してしまうのってだめなの?(2)

2005-03-29 | 第一部:そもそも「交渉」ってなに?
少し間があいてしまいました。
前回は交渉の仕方、特に協調と競争のバランスのとり方に付いて、ソフトとハード二つの考え方を紹介しました。
今回は引き続き、これらのどちらのスタイルがより良いのか?を考えてみたいと思います。

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前回見てきたように、交渉ではソフト戦略もハード戦略もそれぞれ長所があるが、同時にどちらも欠点があります。
どちらの方向性を取るのが良いのか、例えば弁護士のように交渉を仕事にしている人々はどう考えているのでしょうか。

1980年代初頭、Gerald Williamsという研究者がアメリカの法曹界で行った調査を見ると、面白いことが浮かび上がります。
彼は調査の参加者に対し、参加者の身の周りの同僚たちをそれぞれ「ハード戦略派」か「ソフト戦略派」に区分させ、かつその同僚それぞれが「交渉上手」・「平均レベル」・「交渉下手」のどれにあたるか回答させました。

結果を見ると、「ハード派」と「ソフト派」の差は歴然としています。
同僚に「ハード派」と思われていたヒトをみると、そのうち25%が「交渉上手」、33%が「交渉下手」だと評価されていました。
一方で「ソフト派」だと区分されたヒトの中では、そのうちなんと59%が「交渉上手」とされ、「交渉下手」と評価されたのはわずか3%に過ぎなかったのです。

この調査から何が分かるでしょうか。
少なくともコミュニティの評判の中では、「ソフト派」だと思われているヒトの方が交渉技術を高く評価される傾向がありそうです。
厳しい交渉態度を取るヒトは実は、アメリカの弁護士社会でさえ周囲からあまり評価されないのです。
ただしこの調査はあくまでも評判を比較したもので、実際の交渉結果を厳密に比べたものではないので、「だからソフト戦略の方が有効だ」とは必ずしも言えません。
また「ソフト派だから交渉上手」なのか、「交渉上手だからソフト派(に見えてしまう)」なのか、因果関係が必ずしもはっきりしません。
しかし、少なくとも交渉に携わる人々の頭の中で、「ソフト派」と「交渉上手」が比較的強い結びつきを持っている点は注目されます。

この研究には続きがあり、今度は90年代にAndrea Schneiderという研究者が同様の調査を行っています。
一言で言うと、この追加調査では「ソフト派」と「ハード派」の差がさらに大きく開く結果になりました。
(「ハード派」で「交渉上手」とされたのはわずか9%でした)

なぜでしょうか。
この結果の解釈として、一つの考え方が提唱されています。

-80年代に比べ現代は人々がよりがめつく、礼儀も無視して争うようになっている。
 だから80年代に「ハード派」とされた人も、現代なら「やや厳しいソフト派」位でしかない。
 90年代に「ハード派」とされた人は80年代の「ハード派」以上に極端なやり方をする人たち
 なので、そうした極端にアグレッシブなやり方は度が過ぎて前以上に評価されない。

この意見の当否はともかく、ここで重要な点は「ハード派」「ソフト派」の定義が時代によって、人々のイメージで変化し得る相対的なものだという点だと思います。
ある時代には「やりすぎだ」と思われる態度も、時代が変われば「まあそんなものか」と見過ごされてしまい得るのです。
また交渉人の文化によっても、何が「ソフト」で何が「ハード」かは大きく変わるでしょう。

考えてみればMBAの交渉実習でも、欧米出身の相手は日本人のこちらから見たら無礼で利己的に見える態度や要求をしてきましたが、彼らの間ではそれは「フランクに話しているだけ」と考えられているようでした。

(第六回続く)


プーケットのファンタ

2005-03-29 | フランス暮らし
旅が続いています。
しばらくタイのプーケット島に行ってきました。
津波からの復興キャンペーンで、高級リゾートが半額で泊まれるとのことで
ゆっくり楽しんできました。

島は今では津波の影響もなく、全部普通に営業しています。
ところどころ海岸が崩れたところなどがあるくらいです。

現地ではコンビニが結構多く、セブンイレブンとファミリーマートがしのぎをけずっていました。
そういう店で日本と大して変わらない品揃えで買い物ができるんですが、
商品の多くはタイローカルの珍しいブランドだったりします。

面白かったのが、缶ジュースのファンタ。
赤いのと緑のがあったので赤いのを買ったら、それがファンタストロベリー。
味はカキ氷のシロップに炭酸水をちょっと足したような感じでした。
飲み終わった後しばらくつばが赤くなってしまい、まるで出血してるみたいでした。
こういう経験も新鮮ですね。

北京体験記(4)

2005-03-25 | フランス暮らし
で、近づいてきた彼らはおもむろにふところから水の入ったペットボトルを取り出して言うのでした。

「テンダラー、テンダラー」

なんと… 
要は、疲れたころあいを見計らって水を10ドルで売りつけようというのです!
険しい崖道を一時間以上ひたすら追跡してきて…
長城の上まで来れば店などあるはずもありませんし、道が険しく今の時期でも思いのほか汗をかいてしまいます。
多くの不幸な旅行者にとってはBATNA(ほかの飲みもの)もなく、仕方なく価格交渉をして7ドルくらいで買うしかないのでしょう。

そんなショックの中こちらもおもむろにふところからペットボトルの水を取り出し、にっこり笑ってごくごく水を飲んだのでした。

北京体験記(3)

2005-03-24 | フランス暮らし
で、万里の長城に無事ついたんですがそこでも面白い交渉がありました。

北京市内にある万里の長城といっても切れ切れになっていて3箇所あります。
行政区間としての北京市はかなり巨大なのです。
今回はそのうち一番遠くて観光地化されていないという、司馬台というところに行ってみました。
市の中心部から車で3時間ほどです。

現地について駐車場から歩き始めると、前方に謎の大集団が。
長城は岡(というか山々)の上を延々とアップダウンしながら続いていくんですが、そこまで上るはるか手前、ふもとの所なのです。
入場チケットでも売ってるのかな?と思って近づくと、実は観光客でなく地元の人たちでした。

で、何かモノを売りつけてくるのかなと思っていたら、別に何も売ってこない。
ただしかし、そのうちの何人かが後をついてくるんです。
とりあえず言葉もぜんぜん通じないし意味不明のまま、結構きつい上り道をはあはあ登っていっても、とにかくなぜか至近距離でついてくるんです。

ガイドがしたいのかと思っても言葉が通じないからガイドできないし、かなりの謎でした。
ただ道中長城が崩れている箇所があり、そういう所は迂回しないと通れないので、彼らがそれをなんとなく教えてくれるのです。
1時間くらい歩いて、かなりへとへとになって一休みした頃、ようやく彼らが近づいてきて言ったことは…

(この話続く)

北京体験記(2)

2005-03-23 | フランス暮らし
で、無許可タクシーで万里の頂上に行ってみました。
何かえげつない交渉があるかなと思ったんですが、思いのほかリーズナブル。

一日ドライブしてもらって450元(6000円弱くらい?)でした。
ついでに帰りの空港までの送迎も頼み、高速代こみ80元(1000円くらい?)。
どちらも相場より1~2割くらい安く仕上がりました。

勝因はいくつかあると思いますが、多分

(1)中国系の友人と一緒だったので言葉が完全に通じたこと
(2)携帯番号を聞いて、外国人旅行者仲間にも紹介したこと

が大きいと思います。
(1)はもちろんですが特に(2)は重要で、向こうも非合法でやってるのでその分逆に信用第一。
客は外国人しかいないので、一度外国人の間で「コイツはぼったくり」と評判が立ったら取り返しがつかないわけです。
一昔前の中国なら「どうせ外国人は二度とこないし外国人同士の情報交換もほとんどないし」でボッタくったもん勝ちだったかもしれませんが、ネット時代で市場競争が浸透した今ではそれも過去の話なのかもしれません。
皆さんも白タクに乗るときは現地で知り合った旅行者から紹介してもらったり、団体交渉(乗る旅行者が多い方が向こうの評判リスクが大きくなる)した方が良いと思います。
客引きにそのまま引っかかるのは今でもあまり安全ではないらしいですしね(特に日本人だと思われると)。

ともかくそんなわけで今回は気分よく万里の長城を楽しめたのでした。

北京体験記(1)

2005-03-23 | フランス暮らし
しばらく間が空いてしまいました。
中国から帰ってきました。今回は北京に滞在していました。

いやあ、とても面白かったです。
市内はどこも2008年のオリンピックに向けて、建設ラッシュでした。
今回の滞在ではなんというか、非常にエネルギーをもらった気がします。

ちょうど今、建設ラッシュの中で西洋風の巨大ビルと店が
どんどん古い建物を駆逐しているみたいです。
チェーン店がいっぱいできてました。
スタバとケンタッキーフライドチキンと吉野家。
そういえばバーガーキングは全く見ませんでしたね。欧米には結構多いんですが。

そうしたグローバルチェーンでは、当然のことながら価格交渉もありません。
メニューもほぼ世界共通。
店舗もまあ清潔。
筆者不勉強なため中国にはどうも「全般に汚いかも?」というイメージがあったんですが、
こうした店も増えたせいか思いのほか清潔で非常に良かったです。
簡体字のカンバンが多いせいもあって、東方新天地など新しいショッピングモールはちょうどシンガポールのようでした。

そんなわけで交渉する機会も大してありませんでしたが、唯一あったのが白タク。
万里の頂上まで交通手段がないのでタクシーを雇うしかないんですが、
タクシーの中にはオフィシャルな許可を受けたものと無許可でやってるものがあり、
後者の方が若干安くなっているのです。

(この話続く)

<5-2>すぐ妥協してしまうのってだめなの?(1・続)

2005-03-15 | 第一部:そもそも「交渉」ってなに?
さて、筆者が持っていたような「妥協グセ」はダメなクセなのでしょうか?

その答えを考える前に、まず交渉における姿勢について、二つの代表的な立場を見てみましょう。
それぞれ対照的なこれらの立場は、交渉で誰もがどちらかを取りがちなパターンを誇張してまとめたものです。


1. ソフト戦略

上記の筆者に近い考え方です。

対話が何より重要なので、自分から積極的に会話を発展させようとします。
お互いの関係を重視し、関係が壊れないように最大限に配慮します。
交渉では自分から積極的に提案し、自分側の提案はリーズナブルで相手にとっても受け入れやすいところから始めます。
極端に自分にとって都合のいい(相手にとって不利な)提案をすると、関係が壊れてしまうからです。
また相手側からの提案や要求にもできるだけ誠実に対応しようとします。

このような戦略が進化すると、『ハーバード流Yesと言わせる交渉術』のような交渉姿勢にもつながります。
つまり、決まったパイを分け合うのでなくパイをいかに大きくするかに頭を使い、分け前を決めるには客観的で公平な基準を設けようとします。
重要な情報も公開して、お互いの利益が最大になるように論理的に議論を進めていくのです。

この戦略の長所は、交渉が終わった時点で、交渉結果と共に相手との良好な関係も手に入ることです。
対話がなければ交渉は進みませんし、人間関係は確かに重要ですし、相手の要求にフレキシブルに対応すること自体は悪いことではありません。
自分から提案を仕掛けるのも、交渉をスムーズに先に進める上で役に立ちます。

しかしながら、この戦略を突き詰めていくと肝心の交渉結果が自分に不利で相手に過度に譲歩したものになりかねません。
相手との関係を維持するためには、譲歩が最も簡単な方法だからです。
また論理的に考えて相手の言い分の方が合理的な場合(自分の要求が「無茶」と分かっていてなおかつ要求しなければならない場合)、この方法だけでは相手を説得するのは難しいでしょう。


2. ハード戦略

では、全く別の考え方に従うと交渉はどう戦われるべきなのでしょうか。
これは上述の中東勢に近い考え方です。

交渉ではあれこれ話しすぎると損をすることも多いので、必ずしも自分から積極的に話す必要はありません。
話しをする際にはとにかく自分の立場を強く主張します。
具体的な提案をする際はまず極端に自分に有利な案から話を始めます。
その方が後で仮に譲歩した際にでも(多くの場合最後には若干譲歩するのですが)、自分の利益が十分確保できるからです。
相手からの要求は原則的に頑として受け付けません。
基本的な姿勢としては、自分の案を押し、相手にそれで納得するよう要求することです。

この戦略の長所は、成功すれば自分にとって非常に利益の大きい交渉結果が得られることです。
利益の少ない結果しか出ないなら、交渉を決裂させ席を立ってしまうのも確かに一つのオプションです(第三回のルール3です)。
自分の利益こそ交渉の目的なので最も大切にすべきものですし、時には頑なな態度も重要です。

しかしながら、この戦略を突き詰めていくと、交渉がまとまらないというジレンマが出てきます。
お互いが譲歩せず、手詰まりのまま時間だけが過ぎてしまったり、また相手が感情的になって交渉が決裂する可能性もあるでしょう。


さて、あなたはいつもどちらの戦略をとっているでしょうか?

ここで見たとおり、どちらの立場をとってもそれぞれ短所があり、どちらが良いのか一言で言うのは難しいようです。
これら二つのスタイルを念頭において、次回はアメリカの法曹界を対象になされた調査も参考に、「どっちのスタイルがいいのか?」を考えてみたいと思います。

<5-1>すぐ妥協してしまうのってだめなの?(1)

2005-03-14 | 第一部:そもそも「交渉」ってなに?
ここまで何回か交渉に臨む心構えについて書いてきました。
前回も触れたとおり、交渉で一番難しい部分の一つに相手との協調(妥協)と競争(拒絶)をどう使い分けるか、というバランス感覚が挙げられます。
今回・次回は心構え論の最終回として、このバランス感覚について論じたいと思います。
今回はまずこの論点についての二つの代表的な見方を紹介します。

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-ずいぶん強気に無茶な要求をするなあ…

MBAの授業でクラスメートと交渉の実習をしているとき、よくこんなことを思ったものです。

筆者の感覚からすれば、「交渉は持ちつ持たれつ、お互いに冷静に話を聞きあうのが成功のカギ」と思っていましたし、なるべく物分りのいいところを見せてうまく話をまとめようとしたものでした。
しかし相手の中には、一方的に自分の要求を押し付けて全く譲歩せず、こちらの話は途中でさえぎって聞こうとしないヒトがかなり見受けられたのです。
そうした相手にあたるといくら交渉の練習とはいえ説得するのが嫌になってしまい、「もうこの辺で妥協して交渉を終わりにしよう」という誘惑に駆られたものでした。

ビジネススクールには数十カ国から色々なバックグラウンドの参加者が集まっていましたが、
そこでの見聞を振り返ってみると、文化的なバックグラウンドによって交渉の仕方もずいぶん違ったように思います。

日本人(及び程度の差はあれ東洋人全般)の場合を考えてみると、自分も含めて強く感じられたのが、「激論になるくらいならつい妥協してしまう」クセでした。
これにはお互いの関係を重視する文化的な背景が影響しているように思います。
お互いの関係やその場の文脈が話し合いの内容に大きな影響力を持つため、相手を尊重するとどうしても強い要求がしにくいのです。
また特に現代の日本人の場合、例えば買い物をする際の値段の交渉経験すらほとんどないため、交渉慣れしていないことは大きく不利に働きます。
結果として、「あまり強くこちらから要求ばかりするのも失礼で品がないし、相手とケンカになってしまうかもしれない」という遠慮が頭から離れない傾向が筆者にはありました。

一方で、海外からの多くの参加者、特に中東出身者にはそういった遠慮がほとんどありません。
彼らの場合、日常生活でも交渉が不可欠で、強い要求をしなければろくに自分の取り分が得られない環境に生きているため、傲慢に見えるほどの要求をすることが自然に身に付いているのです。
ちなみに筆者が一位を取ったクラスの交渉結果ランキングでも、二位以下はベストテンの多くが中東勢、他は欧米系でした。

さて、筆者が持っていたような「妥協グセ」はダメなクセなのでしょうか?

<4-2>プロの交渉人はどんなことを意識して交渉するの?(続)

2005-03-11 | 第一部:そもそも「交渉」ってなに?
残る二つの質問への回答を見てみましょう。


2. ダメな交渉人ってどんな交渉人のことなの?

逆に、交渉人としてダメなのはどんな姿勢なのでしょうか?
彼の答えは少し変わっていて、実際にその通りにするのは少し難しい話かもしれません。

-交渉人として最悪なのは相手から拒絶されるのを嫌がること。

勿論、Noと言われたり怒鳴られたりするのが好きなヒトはほとんどいないでしょう。
しかしながら、どんな交渉であれ”No”と言われるのを恐れていては、”No”と言われないように相手に有利な提案しかできません。
意見や立場の違いを明らかにすることは、互いの利害を調整する第一歩となります。

そうはいっても相手によっては強硬に譲歩を拒み、時には怒鳴りつけて脅してくる場合もあるでしょう。
普通のヒトから見ると、そんな時は相手をなだめようと腰が引けてしまうか、逆にこちらも腹が立って怒鳴り返したくなるものです。
しかしDominickによると、相手の感情が激したときこそ交渉の上手下手が分かれる分水嶺だと言います。
交渉人が二流な場合は、怒鳴ってきた相手に対して自分が攻撃されたように感じ、自分も感情を害し、やたらと下手に出たり逆に自分の側も頑固な態度に出るものです。

一方優れた交渉人であれば、相手の拒絶が自分に対する個人的なものでなく、立場の違いに対するものであることをよく理解しています。
彼は相手が「キレた」時は、感情が収まるまでとりあえず言いたいことを言わせるそうです。
一人で怒鳴り続けていても数分が限度で後が続かなくなるものですし、言いたい事を一通り言って頭が冷めれば、「キレる」前より気持ちがさっぱりしているはずです。
それに、黙って聞いてやった交渉人に対しては「冷静で信頼できる相手」というプラスのイメージがついているものだからだそうです。

前回書いた「ルール」の一つともつながりますが、このように(話している)内容と感情を分けて処理することは理性的に議論をコントロールする上で重要なようです。


3. 交渉で勝つために、最も重要だと思うことはなに?

最後に、彼の長年の経験から交渉で最も大事な要素は何かを聞かれて、彼はこう答えています。

-交渉に勝ちたければ、相手の面子がたつように相手を助けてやらなければならない。

「相手の面子」というのも何だか東洋風で、ニューヨーク市警のイメージとは少しちぐはぐな感じもします。
しかし多くの場合、交渉の結果は交渉したヒト一人が胸にたたんでおくものではなく、周囲にも知れ渡り影響を与えるものです。
従って、例えそれが合理的であってもあまりに簡単に妥協したり、また過度に相手に有利な合意をしてしまうと、交渉したヒトが交渉の下手な「負け犬」のように見えてしまうことがあります。
そのため自分の評判に傷がつく恐れがあると、たとえその合意案がベストなものであっても、ムキになってそれを拒絶しまとまるものもまとまらないことがあるわけです。

こうしたことから、相手が合意案を呑んでも「恥」にならないように助けてやることはお互いにとってメリットになります。
「助けてやる」というのは、交渉の当事者間であれ外部に対してであれ、他に良い代替案がないことをほのめかし、「ここで合意するのはおかしなことではないよね」という雰囲気を作ることです。
Dominickによると、ニューヨークの凶暴な犯罪者でも、ギャング仲間に対しての面子さえ立てば(あっさり警察に降参したのではない、と演出できれば)驚くほど素直に投降してくることがあることを例に挙げています。


まとめると、今回はプロの交渉人のインタビューから面白い視点を三つ紹介しました。

1. 特別なスキルより常識を応用しろ
2. 相手から拒絶されるのを嫌がるな
3. OKしやすいよう相手の面子をたててやれ

いずれの点を見ても、一つ共通しているのは「相手の出方を考えて動く」ことだと思います。
交渉は相手があり、一種の競争という側面もあるので、競争に勝つ(自分の望みを通す)ためには当然「敵を知り己を知る」必要があるのでしょう。
またこうしてあらためて並べてみると、まるで女性を口説き落とすためのコツを並べているようにも見えます。
MBAでは恋愛も交渉の一つだと主張する講師もいましたが、人情の機微としてはビジネス交渉も恋愛(お見合い?)に近い部分があるように思います。

次回は今回のポイント2と関連して、相手との協調(妥協)と競争(拒絶)のあるべきバランスについて考えてみたいと思います。

<4-1>プロの交渉人はどんなことを意識して交渉するの?

2005-03-10 | 第一部:そもそも「交渉」ってなに?
今回はこれまでと話題を少し変えて、プロの交渉人はどんなことを考えて交渉に臨んでいるのか、有名な人のインタビューを参考に考えてみたいと思います。
筆者も含めて、交渉の素人にとってはそのまま真似るのも難しい話ですが、「スゴイ人」の考え方を知るのも良い刺激になるかもしれません。

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-プロの交渉人も、交渉では緊張したり腹が立ったりするんだろうか?

ビジネススクールの授業で悪戦苦闘する中、筆者の頭に時々そんな素朴な疑問が浮かびました。

交渉を仕事にしているヒトは少なくありませんが、特に注目を集める極端な存在が、テロリストや犯罪者を相手とした交渉人でしょう。
これまでも何度か話題に挙げてきましたが映画『交渉人』の世界です。
そうしたネゴシエーターの中で有名な人の一人に、アメリカのDominick J. Misinoという交渉人がいます。
彼はニューヨーク市警で20年以上犯罪者相手の交渉人としてキャリアを積んでいます。
出版などメディア露出も比較的多く、数年前Harvard Business Review誌上で「交渉術」についてインタビューを受けたこともあります。
ビジネススクールでも教材としてそのインタビュー記事が取り上げられており、「交渉の心構え」について面白い示唆を与えてくれます。
大きく三つのカテゴリーに分けて、交渉についての彼の考え方を見てみましょう。

(さらに興味のある方には、下に紹介されているように彼の著書があります)
http://blog.goo.ne.jp/eliesbook/e/a6d64f7cb6415a1728c2a10f24bea92c


1. 優れた交渉人になるにはどんなスキルが必要なの?

まず誰もが一番聞きたい質問がこれでしょう。
あれもこれも…と特別な技術が並ぶのかと思うと、彼の答えは予想に反してとてもシンプルです。

-交渉に特別なスキルはいらない。必要なのは常識の応用。

「常識」って何でしょうか?
たてこもっている犯罪者との交渉を例にとると、彼は次のようなことだと述べています。

-相手に丁寧に接しリスペクトを見せる。…まず相手に「何か必要なものはないか」を尋ねる。
 …早い段階で「ぶっちゃけて本当のことを話してもいいか」と尋ねる。

常識的に考えて、丁寧な姿勢や気配りを見せることは、対話の糸口をつかむことにつながります。
「こいつとなら話をしてもいい」と思うことがコミュニケーションの第一歩だからです。
また「本当のことを話していいか」と聞くことは、一見何の意味があるのか良く分かりませんが、これは相手にYesと言わせることに価値があるのだそうです。
Yesと言わせる事は、たとえその対象がどんな小さなことであれ、お互いに合意ができたことを表すからです。
犯人からすれば生きるか死ぬかの極限状況で、常識的に考えて「嘘を言ってくれ」と言っても仕方が無いので、情報を得る意味でもとりあえず「「本当のこと」とやらを言ってみろ」と反応する。
そこには交渉人が何かを話して、犯人はとりあえずそれを聞くという暗黙の合意ができるわけです。
うまくいく交渉というのは、こうした小さな合意が寄り集まって大きな合意ができることを指す、とも彼は指摘しています。

(第四回続く)

<3-2>交渉で一番大事なことってなに?(続)

2005-03-06 | 第一部:そもそも「交渉」ってなに?
続いて第二の視点として挙げたいのは次のようなものです。

-ムキになる必要は無い

上の「どう交渉するか」についての話は並べて書いてみると当たり前に見えるものばかりですが、現実の局面でこうした話を持ち出すのは案外難しいものです。
例に則して言えば、Bさんが穏やかな話し合いに応じていれば別ですが、もし居丈高にこちらを非難して怒鳴りつけてくれば、こちらもその場で相手をやり込めたくなるものでしょう。
人間は機械でなく感情をもった生き物であるため、どうしても話し合いに感情が入ってくるのは避けられません。
多くの場合、親切な相手には親切な、敵対的な相手には敵対的な態度をとってしまいがちです。

しかしながら、感情に支配されては自分にとって望ましい合意案を導くことは難しくなります。
多くの場合こちらの感情を見て相手もまたムキになり、たとえ合意できる案でも感情的な反発から全てを突っぱねることになりかねないからです。
また例の場合で言えば、AさんがBさんに対して持っている見返してやりたい気持ち(潜在的な感情)も地雷原になり得ます。

では感情が激してしまう場合に備えてどうすればいいでしょうか。

大切なことは常にお互いの感情に気を配り、もしもの時には一つ目の視点で指摘した交渉プロセスを上手に使うことです。
具体的には例えば、話が熱くなってきたら間を置く(短時間でも休憩時間を取って頭を冷やす)、初めから中立の仲介者を参加させておく、場合によって食事の席などリラックスして話せる場を用意する、などの工夫です。
上級者になれば話を続ける中で上手に感情を抑えることもできるようですが、基本的にはプロセスを物理的に変える方が簡単で効果もあるようです。


最後に三つ目の視点として次の点を指摘しておきたいと思います。

-必ずしも交渉する必要はない

これは少し逆説的に聞こえるかもしれません。
しかしながら、どんな交渉でも参加者が必ず持っている普遍的な選択肢は、「交渉をこれ以上しない/やめる」というものなのです。
なぜこの点が重要かと言えば、「あまり変なことを要求するならもう交渉をしない」というプレッシャーこそが、交渉で最も重要な役割を果たすからです。
このプレッシャーこそ相手から譲歩を引き出すカギになるのです。
この部分は先の回(第二部)で詳しく紹介しますが、ともかく「何が何でも交渉/合意しなくてはいけない」と思い込まない方が話し合いの立場が強くなるものなのです。
強い姿勢を押し出しすぎると逆効果になりますが、例に則して言えば「うちとしては望んでないがそちらの要求が無理な場合は出る所(裁判所)に出てもかまわない」という姿勢は時に重要です。


今回は、どんな交渉でも大切になってくるルールとして下の三つを紹介しました。

1. 交渉の中身と交渉プロセスは分けて考える(いきなり中身の話をする必要は無い)
2. 自他の感情を理解する(ムキになる必要は無い)
3. 「交渉しない」というオプションを持つ(必ずしも交渉する必要は無い)

これらは交渉の中身や相手に関係なく、普遍的に大事になってくるルールです。
このように交渉を冷めた目で捉える力は交渉が上手になる上で必須の土台になってきます。

次回はここから話を少し飛躍させて、プロのネゴシエーターがどんなことに留意して交渉に臨んでいるのか、いくつか紹介してみたいと思います。

<3-1>交渉で一番大事なことってなに?

2005-03-05 | 第一部:そもそも「交渉」ってなに?
前回は、交渉について考えるそもそもの前提として、交渉が特別なことでなく誰もが日常やっていることだとする考え方を説明しました。
では、その毎日の「交渉」の中で一番大事なことは何でしょうか。
前回から続く交渉の基本的前提を説明する一環として、今回は『メタ交渉』とも言える、どんな交渉でも常に念頭に置くべきルールについて考えてみたいと思います。

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今回は以下のような架空の例から考えてみましょう。
皆さんがAさんだとしたらどうするか、想像してみてください。

<例1>
Aさんは一軒家の改築を考えており、このたび設計案が固まりました。
平屋建てだった古いマイホームを最新式の三階建てホームに建て直す計画です。
今度待望の赤ちゃんが生まれるので古い家では手狭になるし、三階建てにすれば今まで西隣のBさん宅に隠れていた富士山が綺麗に望めるようになるはずです。
AさんはBさん宅に改築をする挨拶に出向きました。
すると驚いたことに、Bさんも改築の設計を進めていると言うではありませんか。
BさんもAさん同様に三階建てにして、これまでAさん宅にさえぎられていた日当たりを良くする計画だったというのです。

AさんもBさんも互いの計画を何も知らされていなかったため、困ってしまうとともにお互い腹が立ってきました。
お互いが今の計画で改築を進めたら、日当たりも富士山の眺めも今までと何も変わらなくなってしまうのです。
それにAさんからすればBさんが日頃から事あるごとに富士山の眺めが美しいことを自慢してくるので、見返してやるつもりがあったのでした。
丁寧に挨拶するつもりが、双方ともすっかり険悪な雰囲気になってしまいます…

さて、皆さんならこの後どうするでしょうか?

けんか腰でBさんに改築を中止するよう怒鳴るでしょうか?
法律の知識を持ち出してBさんの非をなじるでしょうか(この場合本当にBさんに非があるかどうか疑問ですが)?
お互い部分的にでも富士山と日当たりが楽しめるよう、それぞれの設計を変更しようと提案するでしょうか?
それともお互い改築を中止しようと提案するでしょうか?

もちろん交渉に正解はありませんし、場合によっては上に挙げた選択肢がそれぞれうまくいくこともあるでしょう。
しかし上の選択肢だけを見ると、抜け落ちている視点が三つほどあるように思います。一つには、

-いきなり中身の話に入る必要は無い

ということです。
言い換えると、上に挙げた選択肢はどれも「結局どこで妥協するか」の核心(中身の話)に入っていますが、本当はまず「どう交渉するか」のプロセスを決めることもできるのではないでしょうか。
この例に即して言えば、「どう交渉するか」とは次のような三点を決めることです。

(1) 交渉のタイミング

今すぐに交渉を始めず、例えば「日をあらためて来週の土曜日に話合いませんか」と期日を決めることです。
時間があれば情報収集(相手がどこまで計画を進めているか、法的にはどう解釈されるか)も準備(交渉で何を主張すべきか)も可能になります。
交渉ではこうした準備が非常に大切なため、何でもすぐに決めるのが得策とは限りません。

(2) 交渉の参加者

自分だけで話をせず、こうした話し合いに一番向いた人をうまく使うことです。
例えば焦点になっている問題について専門知識をもった味方(弁護士など)がいれば有利になります。
同様に、話をする相手として理性的な話し合いが出来る人を選ぶことも有効です。
この例で言えば耳が遠くて頑固で有名な高齢のBさんより、分別盛りの息子さんの方が相手として適当かも知れません。

(3) 交渉の場所

お互いが落ち着いて話せる場所を用意することです。
この例で言えばBさん宅の玄関で立ち話の続きとして交渉するよりも、場をあらためてお互いがきちんと座って対面する方が、深い話合いを長時間できるでしょう。

(第三回続く)

<2-2>「交渉」って特別なことなの?(続)

2005-03-02 | 第一部:そもそも「交渉」ってなに?
この違和感はどこから来ていたか、お分かりでしょうか。

彼ら海外のMBA学生も、「家族や友人の間なら人間関係が大きく話し合い(交渉)に影響してくる」ことには当然同意します。
ただ、筆者が「家族・友人との話し合い」と「交渉」とを完全に別モノと考えていたのに対して、交渉の上手な連中はそれらを連続的なものだと捉えていたのです。

言い換えれば、どんな話し合いにも相手との人間関係(情)と交渉している内容(理屈)が影響するが、家族など親しい人との対話では情の方が大きく作用する(交渉内容も関係するが影響は弱い)。
一方で関係の薄い相手との話し合いでは情よりも交渉内容が重要になる(ただし人間関係も多少は関係する)。
そのような共通理解があったのです。
そう考えれば、普段から情も理屈もどちらも上手に使えるよう準備しておくことができるし、また状況に応じて必要な方を取り出して使い分けることも可能なわけです。
一方こちらはそもそも関係重視の話し合いが文化的に染み付いており、「交渉」は何か特別なものでよく分からないと身構えていたため、得意な関係重視型の手法に必死にしがみついていたのでした。

まとめると、ビジネススクールの交渉論で最初にはっとさせられたのは、「交渉をすること自体は特別なことではない」ということでした。
親しい人に何か頼む会話にだって、人間関係が影響する度合いは違えど、交渉としての要素そのものは全て揃っているのです。
私たちは誰でも毎日何度もあれこれ「交渉」を繰り返しているわけです。
そう考えてみれば、交渉というものは必ずしも「自分の利益を図る利己的な戦闘行為」というだけでなく、「互いの利害を調整し人間関係を円滑にする技術」という側面もあると言えるでしょう。

こうした考え方から派生して、ビジネススクールでは「交渉とは何か」という問いに対していくつかの前提をおいていました。
最後にそれらを列挙して、「交渉は特別なことではない」という考え方の含意を補足できればと思います。


1.「交渉」はどこにでもある

既述の通りです。
友人や家族であれ、その相手に何かを望む際に発生する話し合いでは、「交渉」で作用する諸々の要素が程度の差はあれ関係してきます。
従って、交渉論を深く知ることは周囲の人との関わり合い方を考えるヒントになります。

2.何でも「交渉」の対象になる

交渉が日常のどこにでもあるということは、言い換えればとりあえず何でも交渉してみることができるということです(ある講師は極論を言えば恋愛も交渉だと言っていました)。
勿論TPOに応じてものの言い方は考える必要がありますが、「何事もあきらめずまず周囲を説得しよう」という姿勢は優れたネゴシエーターの基本のようです。

3.「交渉」は才能ではなく、習得可能なスキルである

交渉がどこにでもあり、誰でもやっていることだとすれば、方法論さえあれば特別なヒトでなくてもある程度のレベルまでは到達できるはずです。
交渉のようなソフトな分野は科学的検証が難しいのですが、アメリカなどでは相当に専門研究が進み、一つの学問分野になっています。

4.「交渉」に唯一の正解は無い

ヒトそれぞれの性格/個性/適性があるため、交渉のある方法論もあるヒトには不自然でうまく合わないケースが当然あります。
自分にあったやり方を見つけてそれを磨くのが最善の道だと考えられます。


このブログでもこのような前提に立って、交渉の方法論を考えていく予定です。
次回はズバリ、交渉で一番大事なことは何か?を考えてみたいと思います。