MBAで教える「交渉術」

MBA留学先での「交渉」の授業内容を配信。といっても最近はもっぱら刺激を受けた本やMBAについて。

スタバでコーヒー無料にしてもらうネゴをやってみた(2)

2005-06-28 | 雑記
普通に営業している店頭で交渉するつもりなので、言い分はきっちり整理していった方がよさそうです。
二つ挙げた大きな主張の中身を考えていきます。


1.自分はその店に何度も来ている上得意客だから、たまにはお礼をして当然だ

基本的にソフトな路線です。
相手にも「ああその通りかも」と納得させて、譲歩させるのがポイントになりそうです。
だとすると、「そうするのが一般常識にかなう」という雰囲気作りが大切だと考えました。

そこで、こちらの主張をサポートする内容として、簡単な事前リサーチをしておきました。
つまり、周囲の喫茶店がどんなサービスをやっているか逐一調べて行ったのです。
スターバックスも一部やっていますが、フリークエントショッパープログラム、つまり何度も来ているお客さんには特別サービスする仕組みは結構普及しています。
スタバのように誰もが知っていてブランドが確立していればそれほど大きなディスカウントを提供する必要もありません。
が、地元の小さなコーヒーショップでは結構激しい値引きサービスを提供していたりするものでした。

例えば、あるショップでは10万円分くらいその店のレシートを集めると特別会員になれました。
特別会員は何を頼んでも会計30%オフ、しかも有効期限は永遠。

こういう具体的なネタを色々集め、
「近所でもいまどきこの位やるのが当たり前」
「まして自分はほとんど毎日このスタバに来てるでしょ」
「今まで払った金額を考えたらコーヒー一杯なんてほとんど無視できる程度じゃないの」

と攻めていくのを基本戦略にすえることにしました。

2.あまりケチなことを言うようなら、MBAの学生全体で不買運動を広げる

一方ソフトなだけでは交渉には勝てません。
話が進まない時には強気に出るネタを持つことも時には必要です。

そこでBATNAとして不買運動を用意して、交渉決裂なら皆でコーヒー買わないぞと脅すことを考え付きました。
MBA学生だけが店の客層ではありませんでしたが、数をまとめれば結構な商売になるはずです。
それに同じクラスの仲間同士なら団結して運動を起こすのもあながち非現実的ではありません。
(本当にやる気はもちろんありませんでしたが)

まあスターバックスの店員さんは皆親切なのでこの筋を持ち出す必要はあまりないかもしれませんが、念のためどんな言い回しで必要なときにこれを出すか、きちんと準備しておくことにしました。

(この話続く)



スタバでコーヒー無料にしてもらうネゴをやってみた(1)

2005-06-27 | 雑記
-交渉がうまかったら、例えばスタバで交渉してコーヒー無料でもらえないのか?

留学中講義の中でそんな素朴な疑問を持っていた筆者に、願ってもないチャンスが訪れました。
交渉論の授業の課題として、

「不可能だと思えることを実際に交渉してみて、学びをレポートにする」

というものが課されたのです。
欣喜雀躍、筆者はこれしかないと思ってスタバでのコーヒー無料化交渉をやってみることにしました。

交渉の授業では事前にきっちり準備することが常に求められています。
そこでいくつかの要素を整理して紙に書いてみることから始めました。
きっちり戦略を練ってこそ現場で効果的な戦い方ができるというものです。

まず考えたのは、店側が「どうして無料でコーヒーをあげないといけないのか」という理由です。
こちらから何か要求する以上、それが正当(または正当でなくても応じざるを得ない)だと説得する必要があるからです。

ここでは大きく分けて二つの攻め方を考えました。

1.自分はその店に何度も来ている上得意客だから、たまにはお礼をして当然だ
2.あまりケチなことを言うようなら、MBAの学生全体で不買運動を広げる

さらに、それぞれの言い分のサポートロジックを考えていきました。

(この話続く)



フランス車事情(3)

2005-06-26 | フランス暮らし
フランスの車生活で恐るべきなのは、やはり周囲のドライバーの運転マナーです。
(以前も少し触れましたが)
あるとき実験をしてみた事がありました。

よくフランスの田舎道では、後ろから地元の車が超高速で走ってきて、こちらがもたもた前を走っているとバーバークラクションを鳴らしたり危険な追越をされることがあります。

-彼らはとにかく自分の好きなスピードで走っていたくて、邪魔が許せないんだろうな…

と私なりに彼らの「個人主義」と結びつけて考えていました。
で、あるとき森の道を時速80キロ位で走っていたら、後ろの方に120キロ位の速度で近づいてくる車が見えました。
そこで私は考えました。

-ずいぶん早いけど、あの車はあの位の速度で走りたいんだろうな…
-邪魔にならないように先に行ってあげれば、お互い不愉快な思いをしなくてすむだろう…

で、こっちは140キロくらいに速度を上げて走り去ろうとしてみました。
(後ろの車とはまだずいぶん距離がありました)
そしたらなんと、向こうは急にわざわざそれ以上に速度を上げてぐんぐん近づいてくるではありませんか。
轟音を上げてこちらの車を追い抜き、その車はその後少し速度を下げて走り去っていきました。
こちらは予想外の反応にあっけにとられてしまいました。

そして、よく考えてみたらこちらが彼らの文化について大きな勘違いをしているのではないかと思い至ったのです。

日本人から見ると、

「ヨーロッパは個人主義で、他人のやっていることなど気にせず皆わが道を行っている」

と考えがちです。
確かに一面の真理はありますが、ここには大きな誤解があると思います。
何かと言うと、少なくとも例えばパリ以外のフランスでは、みんな「他人のやっていることをものすごく気にしている」からです。

例えばフランスでレストランに行ったとしましょう。
一流レストランでなくとも、向こうはこちらを常に観察して品定めしてきます。

-こいつは日本人なのか?中国人なのか?
-フランス語が話せるのか?
-食事のマナーをまともに理解できているのか?

こうした基準をきちんとクリアできていれば「上客」として扱うし、できていなければそれなりに(悪い方向へ)対応を変えてきます。
車の例も同じで、「人がどうだろうと関係なく120キロが快適だからそれで走りたい」のではなく、「周りの連中より早く走ろう/自分の前に他の車がいるのは嫌だ」という気分があるのではないかと感じました。

これは同じ個人主義でもアメリカとは大きく違う部分だと思うのですが、そのあたりはまた書こうと思います。

フランス車事情(2)

2005-06-14 | フランス暮らし
で、出発して早速困るのがエンスト。
(当然ですね)
何度も止まりながらなんとか発信していったんですが、パリのドライバーのマナーは東京の比ではありません。大阪よりえぐいでしょう。
少しでも遅くなればクラクションは鳴りっぱなし、割り込みは当然、死んでも人に道は譲りません。

そんなわけで信号で止まるのが恐怖でした。
一度止まるとまた発信しないといけないので、そこでエンストすると後ろからバーバークラクションが鳴って罵声を浴びせてくるのでものすごいプレッシャーなのです。
日本だったらまだ周囲の思いやり(まあこいつはまだ初心者なのかな・・・)みたいなものがある程度期待できますが、そんな甘い世界ではないのです。

結局パリの環状高速の外側に出たところで集中力が切れ、信号でエンスト連発になって30秒くらい発信できない状況になりました。
後ろからはものすごいプレッシャーで頭がパニック。
無理やり急発進して信号横に(!)止めてあった車に激突したまま爆走して逃げました。

衝撃が走った後向こうの車のクラクションが壊れたらしく「バー」と鳴りっぱなしになってましたが、そんな騒音を背後に必死で車を走らせて逃げたのでした。
しばらく走って車を止めてみたら、タイヤのホイールカバーが取れてなくなってただけでこっちは無傷でした。
しかし歩いて事故現場に戻り様子を伺うと、なんかレッカー車が来てその車を運び去った後らしく、散らばった金属片の清掃作業が行われてました。
大変なことかと思った割りに皆平穏だったのは、たぶんそういう事故が日常茶飯事だからなんだろうな、と妙に納得しつつ近くの路地で発進の練習を2時間くらい繰り返したのでした。

(この話続く)

フランス車事情(1)

2005-06-12 | フランス暮らし
フランスでは車を持ってました。
フランスに限らずヨーロッパ全般そうだと思うんですが、電車の本数が日本より少なめなので車は必須アイテムな感じです。
特に学校がパリから車で30分くらい離れた田舎にあったので、車なしでは生活できない環境でした。

そんなわけで向こうではルノーのクリエという小さめの車を持ってました。
とはいっても買ったのではなく、短期リース。
多少初期費用はかかりますが一日10ユーロ(1400円くらい)で保険諸経費込み。
期日が来たらそのまま返せばいいというレンタカー方式で、結構便利でした。

が、そこはフランス。
大きな問題がありました。

まず何より、車がマニュアルしかありません。
「マニュアルとオートマどっちがいいですか?」みたいな発想があるはずもなく、
「オートマなんてあるわけないでしょ」
な感じです。
おかげで免許取ったとき以来はじめてマニュアルを運転する羽目になりました。
まして車は左ハンドル。
道路は右側通行。
最初の日は初めてづくしで恐怖を感じるままパリの街中に車を出したのでした。

(この話続く)



<16-2>交渉のタイプ(続)

2005-06-04 | 第二部:交渉ってどう考えたらいいの?
もう一つ交渉のタイプを考えて見ましょう。


2.一対一/複数パーティ

次に、交渉のやり方と難易度を大きく変えてしまう要素として、参加者の人数が挙げられます。
一対一の交渉であれば自分と相手の利害だけ考えていればよいのですが、複数の当事者の交渉となるととても難しいファクターが出てきます。
それは「アライアンス」(連携)です。

たとえばA、B、Cという三つの石油会社があるとしましょう。
彼らはある油田の開発で提携関係にあり、共同で試掘をしようとしているとします。
もし彼らが試掘にかかる費用の分担割合を決める交渉をしたら、その交渉で何が一番重要な要素になるでしょうか。
いろいろなファクターが関係してきますが、おそらく彼らのうち誰と誰がグルになって残りの一社を押し切るか、という組み方もひとつの鍵になるでしょう。
三社の交渉なら、そのうち二社が密かに手を握っただけでマジョリティになってしまいます。
圧倒的に強い発言権(この場合魅力的なBATNAや、試掘に必要な資源を独占していること、など)があれば別ですが、チームになった二社と一人だけで対抗するのはとても難しいことです。
交渉をまとめようとすれば、何らかの妥協をしなければならないプレッシャーが強くかかるでしょう。

あらかじめアライアンス関係が交渉前から決まっていることもありますが、多くの場合、交渉のプロセスを通じて誰が敵か味方かが決まってきます。
序盤でお互いの利害をそれとなく探り、味方にできそうな相手を見つけて、交渉の合間に密かに手を組もうと話し合う。
マルチパーティの交渉ではそうした互いの関係に関する駆け引きが重要になってくるのです。

もちろんそれに加えて、人数が多いと議題について全員の同意を取り付けるのが難しく、また発言が散漫になりがちになります。
このため、人数が増えれば増えるほど話し合いのプロセスをきちんとまとめるのが難しく、しかし重要になってきます。
多人数交渉は上級者向けの交渉と言えるでしょう。

次回は交渉のパターンに関する話の続きとして、典型的な交渉である価格交渉について、定石とも言える考え方を見てみたいと思います。