MBAで教える「交渉術」

MBA留学先での「交渉」の授業内容を配信。といっても最近はもっぱら刺激を受けた本やMBAについて。

<1-2>交渉ってがめつい感じで嫌なんだけど…(続)

2005-02-25 | 第一部:そもそも「交渉」ってなに?
結局その後に続く学期では交渉関連の選択科目をさらに二つ取り、交渉に関する科目合計三つ(学校が用意したもの全て)を受講することになりました。
中でも後半二つの交渉科目のうち一つでは、授業での交渉実習における結果と交渉相手からの評価を総合したランキングで、クラスナンバーワンの交渉人として表彰を受けることもできました。50人程度のクラスでの話なのでそれほど大きな成果ではありませんが、最初の講義で感じた不安や挫折感を思うと、自分の中ではとても良い思い出として頭に残っています。

このブログは、自分が上記のような経緯で苦労しあれこれ工夫して得た学びを、整理して多くの人に共有したいと考えて始めました。
なるべく留学生活のエピソードもまじえつつ、分かりやすく書いていきたいと思っています。
最初は留学前の筆者のようにあまり交渉術になじみのない方向けに、交渉に関する「素朴な疑問」を扱って、交渉であるべきスタンス/心構えについて書いていきたいと思います。先々は交渉を分析する際の考え方、現場で使う具体的なテクニックを扱おうと考えています。

最初なので、このブログが目指すもの/目指さないもの、言い換えればこのブログに出来ること/出来ないことについて、以下三点にまとめておきたいと思います。

(1)このブログは「教科書」ではありません

このブログでは交渉論に関する全ての分野を網羅的に扱う予定はありません。例えば交渉における倫理や合法性の問題(例:交渉でどこまで嘘をついても合法なのか)は扱いません。体系的に書いていく予定ですが、あくまで筆者がビジネススクールで習い、関心を持った範囲をアレンジするつもりです。
教科書に関心のある方は、多くの交渉術関連書籍が世の中に出回っていると思いますので、そちらをご参照下さい。例えば『ハーバード流Yesと言わせる交渉術』(原題Getting to yes)は有名ですし、ビジネススクールでも「古典」として参考文献の筆頭に挙げられていました。

(2)が、学問的なバックグラウンドはあります

筆者独自の解釈も含まれますが、内容は基本的にビジネススクールの教材・論文から筆者が学んだことに依拠する予定です。

(3)このブログを読んでも、それだけで交渉上手にはなりません

当然ですが、取り込んだ知識を自分のものにするためには練習が不可欠だとされています。
特に交渉のようにソフトな技術の場合は、最適なやり方は人によって違う面がありますので、このブログはあれこれ自分で試してみるためのネタの情報源と考えて頂けると幸いです。

次回は交渉の基本的な前提に話を進めたいと思います。

<1-1>「交渉」ってがめつい感じで嫌なんだけど…

2005-02-25 | 第一部:そもそも「交渉」ってなに?
皆さんは「交渉」とか「交渉術」と聞くと、どんなイメージがあるでしょうか?

筆者が「交渉術」なるものを初めて意識したのは、MBAもコースなかばを向かえて、選択科目を選ぶ締め切り間際のことでした。
欧米のMBAではどこでもそうですが、コースの前半は必修科目として経営の基本となる科目(マーケティング、ファイナンスなど)が用意され、その後各自の関心に従って自由に好きなものを選べる選択科目が始まります。「やっと自分の好きな授業が選べるぞ」、と開放的な気分に浸りながら選択科目のリストをめくっていくと、リストの中で『交渉分析』なる講座が目に付きました。

-「交渉」ってがめつい感じで嫌なんだけど…

当時の筆者は講座名に何となく惹かれつつも、そう感じました。たしかに交渉術がうまくなれば何となく便利そうだし、何よりいろんな仕事で役立ちそうです。

しかしどうも「交渉」という言葉には、「少しでも自分の取り分を多くしようと巧言を弄し、相手を脅し、なだめすかす」ようなイメージがあってどうもしっくり来ません。
「交渉がものすごくうまいヒト」とか、「プロの交渉人」と言われると、何となくそんなヒトは信用できないし友達になりたくない気がしていました。それにプロの交渉人でもないのに「交渉」なんて実際にいつやるんでしょうか。自分にとって身近な「交渉」というと、例えば映画の『交渉人』あたりでしょうか。一昔前に公開されたサミュエル・ジャクソン主演のハリウッド映画ですが、そこでは「交渉人」は人質を取って立てこもるヤバい犯罪者相手に生きるか死ぬかのネゴシエーションをして生計を立てています。いくらなんでもそんな厳しい状況にはなかなか遭遇しないし、そんなのを闘うのはつらいなあ、と思うと腰が引けてきます。

ところが選択科目の締め切りまでもう時間が無い。他にもそれほど面白そうな科目が無い。それに何より、少し内容に違和感を感じる位な方があれこれ考えさせられるのでかえって勉強した後の成果が大きいのではないか。そんな風に考えて交渉の選択科目を選んだのが、交渉を勉強し始めたきっかけでした。

さて、授業が始まってみると周りとのギャップに驚きます。同じ授業を取っていた欧米やインドから来ているMBA学生の多くは、既に自分なりの交渉スタイルや、暗黙のうちにある交渉の″常識″を最初から持っているのでした。要は、実際に交渉の実習をやってみると自分だけ周りから″浮いて″しまうのです。

これはまずい、何かがおかしいと悪戦苦闘するうちに、周りと差があるのは小手先のテクニックだけでなく、交渉に対する理解(交渉ってそもそも何なのか、交渉が″うまい″ってどんな意味なのか)そのものであると思い至りました。
勿論ビジネススクールでのその講義はテクニックを扱うものでもありましたが、講師の提唱する主旨もHow(交渉をどうやるのか)よりはむしろWhat(交渉とは何なのか)から出発したものだった気がします。頭を冷やし、自分の中にある固まった″常識″を新しいものに入れ替えることで、少しずつ周りのやっていることが理解できるようになって行きました。試行錯誤の結果、講義の終盤にはどうにか周囲についていけるようになり、これをきっかけに筆者の中で交渉に対する興味がふくらんでいったのです。
(第一回続く)

はじめまして

2005-02-24 | 雑記
昔海外MBAに留学した、根越栄太です。

このブログは、筆者が現地で受講した交渉(Negotiation)の授業に感銘を受けて、少しでも学びを共有できたらと思って作りました。
交渉術の話を本編として書き、あとは最近読んだ本の感想など不定期で雑感を書いていこうと思います。

本編は講義のエッセンスを要約して、独自にアレンジしたものを予定してます。
交渉に関する選択科目は三種類用意されていましたが、その全部を受講して統合的にまとめてみたいと思ってます(野心的ですが)。
海外のトップMBA(ランキングトップ10校です)に興味ある方、交渉術に興味ある方にオススメします。

内容は基本的にまじめだけど、分かりやすさをテーマに続けていきたいと思います。
よろしくお願いします。