続いてつまずきやすいポイントの残り二つを見ていきましょう。
ポイント2:感情に関する会話
感情は微妙な問題です。
たとえば相手の言い回しにむっとする、態度に腹が立つ、誤解にイライラする。
人と話をすれば、時には何かしらネガティブな感情が生まれるのが自然です。
ところが多くの場合、特に交渉が少し上達した中級者には、あえてこうした感情を押し殺してしまうヒトがよく見られます。
感情は問題の解決には関係ないし、いちいち相手と共有しても意味がない。むしろ相手に手の内を読まれてしまうだけなので、無理にでも隠すべきだ。
こうした前提で、感情に関する会話はむしろ避けようとするのです。
確かに、感情を押し殺すことは一見合理的に見えます。
しかし、それがかえって問題解決を妨げることもあります。
というのも、時には押し殺した感情そのものこそが、問題の核心と深く結びついていることがあるからです。
例のケースを振り返ってみると、Bさんが自分の感情を押し殺し、Aさんのノートの清書を引き受けています。
問題をノートの清書だけに限定すれば、Bさんが我慢することで問題は解決したと言えるかもしれません。
しかしながら、広く考えれば本当の問題は
(1)AさんBさんとも自分のコミュニケーションの癖に気づいていないこと、
(2)AさんBさんの間で十分に情報が共有されていないこと、
(3)結果としてAさんBさんの関係が破綻の危機に瀕していること、
(4)このままでは同じような事件が別の人との間でAさんBさんそれぞれに起こりかねないこと、
とも言えるでしょう。
理想的には、すっきりしない感じが残る会話になった際には、互いの感情もきちんと俎上に載せて話すべきです。
感情は取るに足らない気分の問題ではなく、時には問題をより複雑にする元凶になると想定しましょう。
もちろん、誰もが心理カウンセラーではありませんから、完璧に感情のしこりを取ることはできないかも知れません。
それでも、互いがどう感じたのかを(良否の評価は置いて)まず伝え合うことで、どこからどこまでが感情のもつれで、どこからが利害の問題なのかを仕分けることが出来ます。
その上で、既に説明した「事実認識」の話し合い方を活用して、事実とそれにまつわる感情を整理し、共有するわけです。
相手に感情が伝わっただけでも、多くの場合気分がさっぱりするものですし、どうすれば感情的な対立を抑えられるか、話し合いのルールを話し合うことが出来ます。
特に相手が合理的な交渉者であればあるほど、感情を仕分けることで感情以外の問題に集中して効率よく交渉が進められるでしょう。
ポイント3:自己防衛
注意すべき三つ目のポイントは、自分の立場を守ることに過剰に意識が向くことです。
自分の感情が満たされない場面に直面すると、多くの人は自分の立場が危機に陥っていると感じます。
例えば、自分の言い分がうまく聞いてもらえない場合、依頼した内容だけでなく自分自身そのものが否定されたと感じるものです。
自分の提案が上司に一顧だにしてもらえなかったら、自分の能力が否定されていると感じるでしょう。
こうした、自分に対する相手の反応が、自己評価に直結してしまう傾向は誰もが持っているものです。
交渉や感情がからむ会話で危険なのは、それが過剰な自己防衛に向かうことです。
つまり、誰しも自分が優秀なのか無能なのか、勝っているのか負けているのか、好かれる人なのか嫌われる人なのか、といった自己イメージを守ろうとする意識があり、それが感情を余計にヒートさせてしまうことがあるのです。
例えば、上司にした提案が無視された時、「自分は優秀だ」とする自己イメージが強ければ強いほど、「こんなのはおかしい」「上司が悪い」と感じるでしょう。
しかし感情の矛先が上司に向かっていては、状況はむしろ悪化し、提案が受け入れられる可能性もますます下がりかねません。
提案を受け入れてもらうのも交渉だと考えれば、相手が「No」といったからといっていちいち腹を立てていても、有利な結果に結びつかないのです。
例に挙げたケースでも、BさんはAさんの態度、特に自分を専属のタイピストのように扱う態度を自分の立場を軽んじる攻撃と見て、感情を悪化させているのが分ります。
こうした背景には、自己イメージをゼロイチで捉える短絡的な視点があります。
自分が「良い」か「悪い」かのどちらかと捉え、極端に二元化するとどうなるでしょう。
誰しも自分が可愛いので「良い」自己イメージを死守しようと、それに合わない状況・相手を感情的に攻撃してしまいます。
しかし普通に考えれば、人間である以上お互い少しは不適切なことを言ってしまうものです。
自分も失言をするし、相手もこちらの気に入らないことを少しは言ってしまうのが自然でしょう。
完全無欠な自己イメージなど、人との会話の中で維持することはほとんど不可能です。
そう考えれば必要なことは、自己イメージをより柔軟に捉えることと言えるかもしれません。
-誰だって正しいことも言うが、不適切で癇に障ることも言ってしまうものだ
-だから発言の一つ一つでいちいち自分のプライドが影響される必要はない
-ただ引っかかりがあるのであれば、そのこと自体を相手に伝えることは意味がある
といったところでしょうか。
ここまで感情をきちんと伝える方法を何回かにわたってみてきました。
このようにきちんとしたコミュニケーションができれば、きちんとした関係が構築されていくはずです。
しかしながら交渉で求められる相手との関係は、友人や恋人同士の関係と全く同じでもありません。
協調と競争の微妙なバランスを考慮しなければならないからです。
次回から何回かは、交渉相手との人間関係に焦点をあててみたいと思います。
ポイント2:感情に関する会話
感情は微妙な問題です。
たとえば相手の言い回しにむっとする、態度に腹が立つ、誤解にイライラする。
人と話をすれば、時には何かしらネガティブな感情が生まれるのが自然です。
ところが多くの場合、特に交渉が少し上達した中級者には、あえてこうした感情を押し殺してしまうヒトがよく見られます。
感情は問題の解決には関係ないし、いちいち相手と共有しても意味がない。むしろ相手に手の内を読まれてしまうだけなので、無理にでも隠すべきだ。
こうした前提で、感情に関する会話はむしろ避けようとするのです。
確かに、感情を押し殺すことは一見合理的に見えます。
しかし、それがかえって問題解決を妨げることもあります。
というのも、時には押し殺した感情そのものこそが、問題の核心と深く結びついていることがあるからです。
例のケースを振り返ってみると、Bさんが自分の感情を押し殺し、Aさんのノートの清書を引き受けています。
問題をノートの清書だけに限定すれば、Bさんが我慢することで問題は解決したと言えるかもしれません。
しかしながら、広く考えれば本当の問題は
(1)AさんBさんとも自分のコミュニケーションの癖に気づいていないこと、
(2)AさんBさんの間で十分に情報が共有されていないこと、
(3)結果としてAさんBさんの関係が破綻の危機に瀕していること、
(4)このままでは同じような事件が別の人との間でAさんBさんそれぞれに起こりかねないこと、
とも言えるでしょう。
理想的には、すっきりしない感じが残る会話になった際には、互いの感情もきちんと俎上に載せて話すべきです。
感情は取るに足らない気分の問題ではなく、時には問題をより複雑にする元凶になると想定しましょう。
もちろん、誰もが心理カウンセラーではありませんから、完璧に感情のしこりを取ることはできないかも知れません。
それでも、互いがどう感じたのかを(良否の評価は置いて)まず伝え合うことで、どこからどこまでが感情のもつれで、どこからが利害の問題なのかを仕分けることが出来ます。
その上で、既に説明した「事実認識」の話し合い方を活用して、事実とそれにまつわる感情を整理し、共有するわけです。
相手に感情が伝わっただけでも、多くの場合気分がさっぱりするものですし、どうすれば感情的な対立を抑えられるか、話し合いのルールを話し合うことが出来ます。
特に相手が合理的な交渉者であればあるほど、感情を仕分けることで感情以外の問題に集中して効率よく交渉が進められるでしょう。
ポイント3:自己防衛
注意すべき三つ目のポイントは、自分の立場を守ることに過剰に意識が向くことです。
自分の感情が満たされない場面に直面すると、多くの人は自分の立場が危機に陥っていると感じます。
例えば、自分の言い分がうまく聞いてもらえない場合、依頼した内容だけでなく自分自身そのものが否定されたと感じるものです。
自分の提案が上司に一顧だにしてもらえなかったら、自分の能力が否定されていると感じるでしょう。
こうした、自分に対する相手の反応が、自己評価に直結してしまう傾向は誰もが持っているものです。
交渉や感情がからむ会話で危険なのは、それが過剰な自己防衛に向かうことです。
つまり、誰しも自分が優秀なのか無能なのか、勝っているのか負けているのか、好かれる人なのか嫌われる人なのか、といった自己イメージを守ろうとする意識があり、それが感情を余計にヒートさせてしまうことがあるのです。
例えば、上司にした提案が無視された時、「自分は優秀だ」とする自己イメージが強ければ強いほど、「こんなのはおかしい」「上司が悪い」と感じるでしょう。
しかし感情の矛先が上司に向かっていては、状況はむしろ悪化し、提案が受け入れられる可能性もますます下がりかねません。
提案を受け入れてもらうのも交渉だと考えれば、相手が「No」といったからといっていちいち腹を立てていても、有利な結果に結びつかないのです。
例に挙げたケースでも、BさんはAさんの態度、特に自分を専属のタイピストのように扱う態度を自分の立場を軽んじる攻撃と見て、感情を悪化させているのが分ります。
こうした背景には、自己イメージをゼロイチで捉える短絡的な視点があります。
自分が「良い」か「悪い」かのどちらかと捉え、極端に二元化するとどうなるでしょう。
誰しも自分が可愛いので「良い」自己イメージを死守しようと、それに合わない状況・相手を感情的に攻撃してしまいます。
しかし普通に考えれば、人間である以上お互い少しは不適切なことを言ってしまうものです。
自分も失言をするし、相手もこちらの気に入らないことを少しは言ってしまうのが自然でしょう。
完全無欠な自己イメージなど、人との会話の中で維持することはほとんど不可能です。
そう考えれば必要なことは、自己イメージをより柔軟に捉えることと言えるかもしれません。
-誰だって正しいことも言うが、不適切で癇に障ることも言ってしまうものだ
-だから発言の一つ一つでいちいち自分のプライドが影響される必要はない
-ただ引っかかりがあるのであれば、そのこと自体を相手に伝えることは意味がある
といったところでしょうか。
ここまで感情をきちんと伝える方法を何回かにわたってみてきました。
このようにきちんとしたコミュニケーションができれば、きちんとした関係が構築されていくはずです。
しかしながら交渉で求められる相手との関係は、友人や恋人同士の関係と全く同じでもありません。
協調と競争の微妙なバランスを考慮しなければならないからです。
次回から何回かは、交渉相手との人間関係に焦点をあててみたいと思います。