MBAで教える「交渉術」

MBA留学先での「交渉」の授業内容を配信。といっても最近はもっぱら刺激を受けた本やMBAについて。

<17-1>典型的な交渉 -交渉開始から条件提示まで-

2005-07-18 | 第二部:交渉ってどう考えたらいいの?
第二部では交渉を分析的に考える枠組みやキーワードを概観してきました。
今回は第二部のしめくくりとして、一番典型的な交渉の一つである価格交渉を取り上げ、
今までに説明したキーワードを使って交渉を分析的に考えてみたいと思います。

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交渉といえば、一番典型的なのは価格交渉でしょう。
今回は下の例を考えてみましょう。

<例4-1>

Aさんはエジプト旅行でカイロを訪れました。
市場に行くと、色とりどりの綺麗な絨毯を売っています。
Aさんは今度家を改築しようと考えており、間取りが広がると新しい絨毯が必要になるので、ここで買っていくのも悪くないと思いつきます。

気に入った絨毯を探して値段を聞いてみると、19万円だと言います。
Aさんは随分高いなあと驚いてしまいました。
内心、Aさんとしては15万円くらいで買いたいと思っていたし、日本の知り合いの店でも同じような絨毯が20万円で売っているのを知っていたからです。
さて、Aさんはどう交渉すればいいでしょうか。


ここで、まずいくつかポイントを整理してみましょう。

皆さんは第10回で登場した”Walk-away”(または”Resistance-point”)という概念を覚えているでしょうか。
ご記憶のとおり、「それ以上不利な案で合意するくらいなら交渉決裂したほうがマシ」なポイントです。
価格交渉では多くの場合BATNA(交渉に代わる代替策、この場合同じような品を他で買う価格)がすなわち”Walk-away”になります。
他でもっと安く買えるのに高値で合意するのは意味がないからです。
もちろんその品が他で買えないその店独自のものであれば話は違ってきますが、単純にするためここでは他の店の絨毯と質はほぼ同じとしましょう。
したがってこのケースでは”Walk-away”=20万円(日本の店での値段)とします。

また買い手は普通「うまくいったらこの位で買いたい」という希望を持っているはずです。
これがTarget-point(目標価格)です。
この交渉ではTarget-point=15万円です。

一方で交渉相手、このケースの場合売り手も同じくWalk-awayとTarget-pointを持っています。
もちろん交渉では相手の情報が完全にわかるわけではありません。
しかし相手から見ると、Target-pointはかなり高い価格でしょうし(なるべく高く売りたいと思っているはず)、 Walk-awayはそれよりは低い価格のはずです。
このケースでは、売り手の実際のWalk-awayは10万円、Target-pointは16万円だとしましょう(もちろんAさんはこれを知りません)。
つまり、売り手は10万円までならギリギリ値下げできるが、まず16万円くらいで手を打ちたいと思っているわけです。

これらをまとめると、こちらと相手の利害は下のような関係になっているでしょう。

Walk-away(相手)<Target-point(Aさん)<Target-point(相手)<Walk-away(Aさん)
   10万円        15万円       16万円      19万円

この場合、交渉がまとまる「落とし所」になりえるのはこの10万円から19万円の範囲です。
それ以上でもそれ以下でも、当事者のどちらか一方に過度に有利な結果となってもう一方が合意しないからです。
第11回でも出てきたとおり、この範囲をZOPAと呼びます。
交渉の成功とは、このZOPAの範囲内でいかに自分側に有利な合意をまとめるか、にかかっているとも言えるのです。

(第17回続く)

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