Pの世界  沖縄・浜松・東京・バリ

もの書き、ガムランたたき、人形遣いPの日記

刀に供物を捧げる

2008年06月30日 | バリ
 バリには210日に一度、刀やガムランの楽器などパンデとよばれる鍛冶師が作ったモノに供物を捧げるトゥンペック・ランダップとよばれる日がある。私が滞在中の6月21日がちょうどその日に当った。私は偶然にもその日、タバナンの王族の敷地の中にいて、王家が代々継承してきたクリスとよばれる刀に供物を捧げる儀礼があるから見ていかないかと誘われた。
 タバナンの王家は20世紀の初頭、オランダ軍との戦いで宮廷を消失し、王族の一部は自害して果てた。しかし燃えたのは王の宮殿だけで、広大の敷地の王族たちのすむ建物は大きな被害を受けることなく、今もなおその姿を留めている。今でも王家の所有する敷地は広大である。
 王家が保管するクリスは、その存在そのものが神聖な力を宿している。つまりそこには魂が存在するのだ。普段は神聖な場所に位置するクリス専用の倉庫に保管されていて、この儀礼の日にだけ取り出され、花の香りのする油で刀の部分が清められ、供物が捧げられて儀礼が行われる。このクリスに触れることのできるのは男性だけであり、この刀の保管庫のあるエリアには月経の女性が近づくことすら許されない。
 トゥンペック・ランダップは近年、金属でできている車やバイクに供物を捧げる日になってしまっている。もちろん金属で作られているのだからそれは間違いではないのだが、本来のトゥンペック・ランダップの姿がこうした王宮の儀礼として今なお行き続けていることは驚きだった。供物はモノに捧げるのではなく、そのモノにやどる超自然的な存在に捧げられるものなのだから。