猫の人の猫絵にいただいたコメントから久々に思い出したのが
ウィリアム・モリス。
もう長年アマゾンで本を買っていますが、それ以前は旧市街の本屋に足しげく出掛けたものです。英語本専門店にも良く行きました。
あるとき英語本専門店で見つけたのが、ウィリアム・モリスのデザインを集めた小冊子でした。一目惚れして購入
その表紙
モリスに出会ったのは
T・E・ロレンスの伝記を読んだときだと思います。ロレンスは少年時代モリスに憧れ、美しい本を印刷・出版することを夢見て友人と具体的な準備も始めましたが、結局、考古学(対象は中世の城砦建築)へと進みます。
発見の順序は憶えていませんが、同じ頃「ユートピア:プラトンからモリスまで」という本を見つけました。
その表紙(ドイツの出版社)
大きな本なのでスキャンするとき少し傾いてしまいました
モリスの短編は「News from Nowhere」というタイトルで、一人称の登場人物が、ある日突然未来の世界に迷い込みます。そこには店はあるのですが貨幣はありません。そこの住民の説明によれば、人々は自分の作りたいものを作り、必要なものは店で無料で入手する、従って貨幣はいらない、ということです。店にある品物は全て最高レベルの芸術品です。正しく夢のような世界ですが、一人称の登場人物は、何故か現代(19世紀のロンドン)に戻ってしまうのでした。
産業革命によって安価で質の悪い工業製品があふれ出すと、それ以前の時代への回帰を求める
ゴシック理想主義が広がりました。
ジョン・ラスキンが代表者で、ウィリアム・モリスもロレンスもラスキンに傾倒していました。
ついでに私もラスキンを読みましたが、ゴシック至上主義者の彼は
ルネサンス芸術をけなしています。
労働基準法など全くない産業革命直後は、低賃金の劣悪な労働条件が蔓延していました。
眼前にある悲惨な状況に対する反動として過去を理想化するのは、ひとつの自然な反応だと思います。
脱線しますが、
高山彦九郎も幕府でなく天皇制が復活すれば理想社会が実現すると信じていたように思います。
ウィリアム・モリスに戻って・・・
モリスは美しい本を実現するためケルムスコット・プレスという印刷所を設立し、多くの豪華本を世に送り出しました。
何故か英語ウィキの記事はないので
ドイツ語ウィキです。
ケルムスコット・プレスで画像検索すると、モリスが創造した美しい本の数々が見られます。
モリスの豪華本から影響を受けたドイツの豪華本
フーゴー・フォン・ホーフマンスタールの「皇帝と魔女」
今日の蛇足
上述したロレンスは考古学者として
カルケミシュの発掘調査に参加しています。第一次大戦がなければ、そのまま考古学者であったことでしょう。
戦争が個人の人生を変えてしまう典型的な例のひとつだと思います。