図書館が28日から休館になるので、本を3冊ほど借りてきていた。読むかもしれないし、読まないかも知れない。なんとなく手元に本が無いと寂しいので借りてきていたのです。その中に、津本 陽の「黄金の海へ」と題する小説がありました。 28日に取り片付けなどが一段落して、昼寝をしようと思い、睡眠薬代わりにこの本を手に取ったのが失敗の元でした。とにかく面白いのです。紀文 紀伊国屋文左衛門が、のし上がっていく有様が、一点の疑念も無くかかれています。この小説は1988年7月から1989年5月に懸けて週刊文春に連載されたものが初出だそうです。年代を見れば分かるように、バブルの絶頂期に発表され、読まれていた小説のようです。しかし今読んでみて自分には違和感を混じることはありませんでした。勿論、紀伊国屋文左衛門が、引き立てられた数々の人たちとの付き合いが、ここに書かれているような、きれいごとだけだったとはとても想像することは出来ません。しかし、それにも関わらず、紀文が引き立てられたのはなぜか、気に成るところではあります。例えば、二隻しかない持ち舟の一隻が沈み。節季には、家屋敷はもとより、父親の代から受け継いだ残りの1艘の船を取られてしまう苦境の中、妻の実家へ、借財の交渉に行く。そのときの妻の父親の考えが凄い。弐千両の借財申し込みに対して、もし婿の目論見が成功すれば何の問題も無い。もし婿もろとも死んでしまっても、娘と、かわいい孫は手元に、来る。自分にとって損は無いと・・大博打が成功し、参萬五千両と言う、巨額の金を得た文左衛門は、本来敵役の、蜜柑方元取締りの神保市右衛門に松坂城代に引き合わされ、名前も紀伊国屋と変え、河村瑞賢を紹介され、江戸における材木商への端緒を掴んでゆく。文左衛門が関わるを持つ河村瑞賢にせよ、杉山検校にせよ、荻原重秀にせよ、従来評判の良い人物ではない。どちらかと言えば、賄賂を取り、私服を肥やしたと言われている人たちではある。これはその対抗者たる新井白石の著書に影響されることが多いのかも知れない。しかし、見方を買えれば、この小説の最後に出てくる文左衛門が話したと言う、萩原重秀の言葉「萩原様は小判や銭は、その値打ちがどげな物でもええ。御公儀の威光さえあれば、一両小判は一両として立派に通用すると言われた。いま、白石とか言う奴は、小判に値打ちが無けりゃ通用せんと思いくさって、良貨とやらをこしらえたが、そのおかげで金銀相場があがったり下がったりするたびに、小判の値打ちも上がったり下がったりや。ほんまに素人ちゅうもんは、仕方が無いのう」。現代から見ればこの考えに、誤りは無い。この小説で初めて知ったのだが、紀伊国屋文左衛門は、自ら商いをたたみ、隠居して、俳人として過ごしたと言う。この時代、為政者が変わると、前任者に取り入っていた商人は、牢に入ったり、死罪に成ったりすることが多い。その中でこの時代66歳まで生き、老後も全うした紀伊国屋文左衛門は、もう少し見直されて良いのかも知れない。
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