喫茶店アルファヴィルの入り口ドアを開けると、カウンターの隅でNPO法人なごやか理事長が昼食をとっていた。
今日は公休なの?と尋ねられたが、なんだかとってつけたようで照れ隠しに聞こえた。
「オーナーのお母上からホームに自家製のお野菜をたくさんいただいてね、お礼を言いに来たら、それが素材のお昼までごちそうになってしまって。」
へええ、とのぞき込むと、麦飯にとろろをかけ、黒々としたのりをちぎって散りばめた小ぶりの丼と、きつね色に焼けた大根ステーキ、白菜入りの白みそ汁。
「上品ですね。」
私はオーナーへ言った。
いえ、ありもので手早く作ったので、お粗末さまです。
アルバイトのIさんがカウンターの中からにんじんを少々加えてすりおろしたリンゴジュースをそっと添えた。
「おもたせですが。」
「いやいや、心ばかりのものですが。」
ははあ、理事長は例によって、先日のリンゴ狩りで収穫したものを手土産に持参したらしい。
いよいよ、アルファヴィルにアップルパイの季節到来だ。
「おもてなし」とは、客人が気持ちよくそのひとときを過ごせるように接すること、そしてその客人とのひとときを自分自身も楽しむこと。
「しつらえ」はその準備。
「お心入れ」は、相手のための有形無形の配慮で、それは言葉にせず、「以心伝心(心を以って心に伝う)」のもの。
日本人だけが持っているこれらの美しい慣習を、絶やさないように気をつけて行きたいと強く思う。相手が気づいても、気づかなくても。
以前チラッと紹介したことがある、1982年に発表された、ダムド(イギリスのパンクバンド)のリーダー、キャプテン・センシブルのソロシングル「ハッピー・トーク」(ミュージカル「南太平洋」の劇中歌)は、斬新とイロモノ・ゲテモノの境界線ギリギリのゾーンに投げ入れた、見事なストライクボールだと、今振り返っても感心する。
その大ヒットに続けとばかりにカバーのブームが起こったけれど、これを超えるものはなかったと言い切っていい。まぐれ当たりはやはりないのだ。
まずは、映画「南太平洋」(1958年)より。 意外に知られていないことだが、ほとんどの踊り(ダンス)がエモーションを体現するものであるのに対して、フラと日本舞踊だけが歌詞を忠実に表現している。
続いて、チャートのトップに駆け上がり、BBCの長寿音楽番組「トップ・オブ・ザ・ポップス」に出演した際のキャプテン・センシブル。
Happy talk
Happy talk, keep talkin' happy talk,
Talk about things you'd like to do.
You got to have a dream,
If you don't have a dream,
How you gonna have a dream come true?
楽しい話、楽しい話を続けなさい
あなたたちがやりたいことを話しなさい
夢を持たなければだめ
持たなければ
夢はかなわないわよ
Talk about the moon floating in the sky
Looking like a lily on a lake
Talk about the bird learning how to fly
Making all the music he can make
夜空に浮かんでいるお月さまの話をしなさい 湖に浮かぶユリのような 飛び方を学んでいる最中の小鳥の話をしなさい
音楽のようにさえずっている
Happy talk, keep talkin' happy talk,
Talk about things you'd like to do.
You got to have a dream,
If you don't have a dream,
How you gonna have a dream come true?
楽しい話、楽しい話を続けなさい
あなたたちがやりたいことを話しなさい
夢を持たなければだめ
持たなければ
夢はかなわないわよ
Talk about the star looking like a toy
Peeking through the branches of a tree
Talk about the girl talk about the boy
Counting all the ripples on the sea
おもちゃのように見えるお星さまの話をしなさい 木の枝の間からこちらを覗いている 男の子と女の子の話をしなさい
さざ波すべてを数えている
Happy talk, keep talkin' happy talk,
Talk about things you'd like to do.
You got to have a dream,
If you don't have a dream
How you gonna have a dream come true?
楽しい話、楽しい話を続けなさい
あなたたちがやりたいことを話しなさい
夢を持たなければだめ
持たなければ
夢はかなわないわよ
Talk about the boy sayin' to the girl:
"Golly, baby, I'm a lucky cuss."
Talk about the girl sayin' to the boy:
"You an' me is lucky to be us!"
女の子へこう言ってる男の子のことを話しなさい
「わあ!僕はなんてラッキーなんだ!」
男の子へこう答えてる女の子のことを話しなさい
「あなたと私、なんてラッキーな二人なの!」
Happy talk, keep talkin' happy talk,
Talk about things you'd like to do.
You got to have a dream,
If you don't have a dream
How you gonna have a dream come true?
楽しい話、楽しい話を続けなさい
あなたたちがやりたいことを話しなさい
夢を持たなければだめ
持たなければ
夢はかなわないわよ
If you don't talk happy,
And you never have dream,
Then you'll never have a dream come true!
楽しい話をしなければ
それに夢を持とうとしなければ
夢はかなうわけがないわよ
NPO法人なごやかでは二つのデイサービスの稼働率が毎月90%前後で推移している。
きみたちはコツを掴んだようだね、事業所を繁盛店にしてくれた、と理事長はしばしば管理者の私や相談員たちにねぎらいの言葉をかける。
「繁盛店、という表現は決して卑しいものではない。多くの利用者様に選ばれ、活気にあふれている、という意味だ。それに、自分が勤務するお店が繁盛店だったら、誰でも嬉しく、誇らしいよね。またそれが職員たちの働く張り合いややりがいに直結するのだ。」
僕もきみたちが掴んだコツを知りたいものだ、と理事長。
「経営から引退したら、それを携えて事業者向けのセミナーの講師かなにかで全国を回る、悠々自適の生活というのも、なかなかおつなモノじゃない?」
そうですね、と私は笑ったが、アクロバットを続けているあなたはそんなのんびりした生活に到底満足がいかないでしょうね、と内心思っていた。
私のコツはシンプルだ。 新規獲得ももちろん大切だけれど、現在登録されている利用者様のお休み(キャンセル)を減らすことに注力する。そのためには、また行きたいと思っていただける事業所であること。清潔で、明るく、笑顔の絶えない、なめとこデイサービスであり続けたい。
JET
(作詞作曲 ポール・マッカートニー)
ジェット、ジェット
今でもよく覚えてるよ
きみがもうすぐ結婚するって言った時の
みんなのおかしな表情を
ねえジェット、僕もそれまでは月の上がもっとも孤独な場所かと
思っていたんだけどな
ジェット、ジェット
きみの父さんは頑固な特務曹長だったよね?
よくまあ、きみに遠慮なくまだ若いって言えたものだ
ねえジェット、特務曹長は婦人参政権論者だったよね?
ジェット、
とにもかくにもきみに愛されたい
それとも、もう手遅れかい
ジェット、
風になびくきみの髪は無数のレースのよう
二人して空に駆け上がろうよ
ねえジェット、特務曹長は婦人参政権論者だったよね?
それでね、ジェット、
僕はきみも婦人参政権論者だと思っていたんだけどな
可愛いきみ、
きみまでもね