キム・ノヴァク。なんとなく自分と名前が似ているという、きっかけはただそれだけなのだけれど、昔からひいきの女優である。コロンビア社がリタ・ヘイワースに代わる看板スターにすべく総力を挙げてプッシュしたことで、「ピクニック」、「黄金の腕」、「愛情物語」、「夜の豹」、「逢う時はいつも他人」などよく知られたヒット作も多い。
このキム・ノヴァクと、ジェームス・スチュアートがコンビを組んだ作品が、二本ある。ヒッチコックの「めまい」(57年)と翌年の「媚薬」だ。
ニューヨーク、グリニッヂ・ヴィレッジのクリスマス・イヴ。小さなプリミティヴ・アート・ショップの女主人(ノヴァク)は魔女。恋に恋する彼女は階上の住人で出版社を経営するスチュアートをお相手に選ぶ―。
「媚薬」はなんとも他愛のないラヴストーリーで、実際、今ではすっかり忘れ去られてしまっているけれど、隅から隅までとにかくしゃれててチャーミング。一度観たら愛さずにはいられない佳品である。パーカッシヴでユーモラスなタイトル曲は妙に耳から離れないし、名手ジェームズ・ウォン・ホウ独特の、陰影に富んだ濃い目の色調の映像はストーリーによくマッチしている。スチュアートの上品な大人の着こなしも素敵だ。さらに、当時売り出し中だったジャック・レモンがノヴァクの弟のダメ魔法使いを演じていて、これまたいい味を出している。次作に「お熱いのがお好き」があり、「アパートの鍵貸します」(59年)、「酒とバラの日々」(60年)と傑作が続く。
一方はサンフランシスコを舞台にしたダークで精緻な心理サスペンス、もう一方はブロードウエイのヒット戯曲を映画化したソフィスティケイテッド・コメディと180度、タイプも設定もまったく異なるこの二本がなぜ同じ二人で続けて作られたかというと、パラマウント社で「めまい」を撮るヒッチが主演女優にコロンビア社専属のノヴァクを望んだため、貸し出しの代償として同社はスチュアートで二本映画を撮るという条件を提示した。「媚薬」はそのうちの一本なのだ。
ところで、理由は不明なのだがヒッチは「めまい」、「裏窓」、「ハリーの災難」、「ロープ」、「知りすぎていた男」の五本の権利を自ら買取り門外不出にしてしまったため、これらは彼の死後の1984年にリバイバル公開されるまで、映画館はおろかテレビにすらかかることはなかった。
この時「めまい」を観に行って驚いた。それまで自分の記憶の中で「めまい」だと思っていた映像の断片は結局ほとんどスクリーンに現れなかった。それらは「めまい」ではなく、「媚薬」だったのだ!現在のように市販ソフトが簡単に手に入る状況からは考えられない、マヌケな話である。
「めまい」。衣裳はもちろん、イディス・ヘッドだ。
恋のまじないをかけられてしまうスチュアート
やっぱり50年代はハリウッド全盛期の終りの始まりみたいな時期でしたね。
ホント、どっち?ですね。
今後書く予定ですが、アルドリッチというかブライナ・プロの「ガンファイター」と、ダグラス・サークの「風と共に散る」、「翼に賭ける命」も、子供の頃は、どっち?でした。