「捜索者」より
「映画の巨人 ジョン・フォード」(2006年)は故ピーター・ボグダノビッチが1971年に撮影したドキュメンタリー映画を、テレビ用に新たな証言等も加えて再編集したものだ。
著名人が大挙登場してフォードに関するとっておきのエピソードを披露するのだが、とりわけ面白かったのが、15歳の映画小僧時代にフォードのオフィスを訪ねたというスティーブン・スピルバーグ監督の回想談だ。
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オフィスで待っていると、フォードが騒々しく現れる。
映画監督志望だと話したスピルバーグへ、フォードは言った。
「壁に絵が掛かってるだろ。」
西部の絵だった。
「あの絵に何が見えるか言ってみろ」
「馬に乗った先住民がいます 」
「そうじゃない、地平線(ホライズン)はどこだ? 地平線が見えんか? 」
地平線を指さすと、
「さすな。どこにある? 絵全体を見て地平線は?」
「絵の一番下です」
「よし、次の絵だ」
次の絵の前に立つと
「地平線はどこだ?」
「絵の一番上にあります」
こっちへ来いと言われ、彼の机のそばに行った。
彼は言った。
「つまり地平線の位置を画面の一番下にするか、一番上にする方が真ん中に置くよりずっといい。そうすればいつか良い監督になれるかもしれん 。以上、終わり!」
フォードの作品と地平線については、このドキュメンタリーが製作される以前から批評家たちがさかんに論じていたし、僕を含むフォード映画の愛好家たちも気づいてはいたが、こうしてはっきり証言されたのは初めてだった。
それだけに、(気難しいフォードがこんな大事なことを初対面の子供に話すか?と)かえって眉唾なのだが、フォードの口真似を交えて語るスピルバーグが心底楽しそうで、信じることにしよう。
20分15秒から。
「怒りの葡萄」
「荒野の決闘 いとしのクレメンタイン」
ボグダノビッチの「ペーパー・ムーン」