「みなさん、おばんでございます。
社会福祉法人千鈴会の井浦でございます。
月末のご多用の中、またお仕事を終えてのお疲れのところ、このようにたくさんお集りいただき、ありがとうございます。
この令和4年度防災研修会はけせもい市様と福法組との共催とさせていただいており、そんなことから組合長の私が、僭越ではございますが、一言ご挨拶申し上げます。
本日お二人の講師の先生はわざわざセンダード市からお越しいただいており、それぞれご専門の分野について講話を頂戴することを、とても楽しみにしてまいりました。
今後、われわれ民間介護サービス事業者が再び災害に直面した時にどのように行動するのか、どう振舞えばいいのか、その大きな課題への答えを、おのおのがお話の中から見つけらればと考えています。
私事で大変恐縮ですが、私の二人の子供たちは揃って東日本福祉大学総合福祉学部社会福祉学科に進学しており、本日の講師のA先生がそちらに在籍されていると知って、少し驚いています。
娘の方はまだ在学中ですので、本会の後にぜひとも先生へ私の名刺をお渡ししようとたくらんでおりました(笑)
また、浦上社長様におかれましては、当組合の副組合長を長く勤めていただいている、人望厚い経営者様ですが、東日本大震災では大きな被害を蒙られ、筆舌に尽くしがたいご苦労をなさっており、そのような体験を持つ方が策定された避難確保計画はたいへんなリアリティを持ったものになっていることと思います。
3月11日の深夜2時、自分の施設が流失したことを報告しにこのワンテンビルへやって来た私は、おもての八日町通りで被災した自動車のドアを残らず開けて中をまさぐっている、複数組の車上荒らしを目撃しています。
その直前には、施設のあった本吉町大谷地区で、野球バットを持った三人組の自警団に遭遇しています。
そんな日を生き抜く知識と知恵を、本日もまた増やし、大切な利用者様と職員をわれわれの手で守って行けたらと願ってやみません。
長くなりましたが、これを私からの挨拶とさせていただきます。
ありがとうございました。」
来月オープンの事業所の準備を手伝っていた私は玄関でばったりNPO法人なごやか理事長に出くわした。
両手にぶら下げていた大きな紙袋をそっと床に置くと、彼はもう一度車まで戻り、同じ分量の荷物を運んできた。
お持ちしましょうか、と声を掛けると、うん、台所まで運んでほしい、とのこと。
私も先ほどの理事長に倣って荷物を床にそっと降した。
「事業所の茶器集めは僕の担当らしくてね。」
少し言い訳がましく前置きすると、彼は紙袋から次々と品物を取り出し、ダイニングテーブルの上に並べ始めた。
私は目を見張った。
藍色の銘々皿、薄緑の湯飲み茶碗、白い陶製の茶托、色違いのカップ&ソーサ―5客、などなど。
素敵ですね!思わず声が弾んでしまった。
「ありがとう。今回は香蘭社のもので揃えてみた。家からもだいぶ持ち出したので、ずいぶんな量になって、壮観だね。」
そう言いながら、理事長はひときわ大きな茶ひつを取り出した。
「これは見てのとおり津軽塗。見事でしょう?ずいぶん前に頂いた物だけど、高かったろうね。それと、新しく同じ津軽のお盆と急須托を買ってみた。
きみには以前も教えたけれど、『しつらえ』はとにかく大事。お客様がいらした際には、これでハレの日を演出して差し上げようね。」
とある法人の施設長さんがいらして、経営改善のためにお知恵を拝借したい、と言う。
いやー、知恵をお借りしたいのはこちらの方です、と答えてはみたものの、お役に立てばと考え直し、当職でよければ何でも尋ねてくださいと話したところ、本当にさまざま、こまごま尋ねられた。
けれども、それに即答しているうちに面白くなってきて、僕の方からも相手の施設について質問したりと、だんだん剣術の試合のようになって行った。
活動車の台数、福祉車両としての減免申請は行なっているか、購入かリースか。
敷地内外の看板の数、
コピー機とノートを含むPCの台数、
事務機のメンテナンス業者、
各種マニュアルはデータ化されているか、
デイサービスの昼食代、
シーツやタオルなどリネン類の納入業者、
給付管理ソフト、
介護記録アプリ、
食材の購入先、
収支は減価償却後に黒字か(!)
補助金申請は貴職がおもに行なっているのか、
職員の新規採用は?
機械浴装置は新湯式か循環式か?
照明のLED化は?
今年度のケアマネジャー資格試験を受験する職員はいるか。
車両任意保険はフリート契約か?
—などなど、1時間を超えたころには、二人とも揃って肩で荒く息をついていた。
それにしても、相手がとてもいい表情をしている。
玄関で見送りながら僕は思った、経営者は孤独なものだけれど、きっとこの施設長さんも、一人で考えなければならないことが多過ぎるのだろう。
いつでもまたどうぞ。彼の背中へ、僕は本心からそう声を掛けた。
今年度はいつになくたくさんの新卒職員が入職している。
そこに中途採用の職員、さらには産休が明けて戻ってきた職員たちが加わって、どの事業所も一様に賑やかな春を迎えている。
会社を経営していて嬉しいのは、産休の職員が退職することなく、普通に戻ってきてくれることだ。
それから、お預かりしている若い職員たちの、人生の節目にはからずも立ち会うこと。
数年前、こんなことがあった。
成人を迎えた職員へは赤のし袋を手渡すことにしているのだが、ある職員へそれを差し出したところ、私は成人式には出ないので、と後ずさりされた。
僕は言った、式に出なくたって、成人だもの、めでたいことじゃない。かく言う理事長(僕)もね、成人式には出なかった。スーツも買わなかった。きみの気持ちはわかる。30歳になった時、よくなっていればいいさ、この会社にいてね。
彼女はにっこり笑った。
言ったからにはそれを叶える責任が僕にはある。
ちょっと楽しい責任だが。
「短い期間でしたが、ご縁をいただきありがとうございました。
私はこのなめとこデサービスに勤めてはじめて、栄養士・調理員として思うとおりに腕をふるえたように感じています。自由にさせていただきました。
ここ数年チャグチャグ馬コパレードは中止となっていて残念ですが、井浦理事長のように県外から楽しみにしていらして下さっている方がいることを知り、本当に驚きました。
地元民としてはマイナーなイベントだと思っていただけに、驚くとともに嬉しく感じています。
せっかくですので、もうご存知かもしれませんが、チャグチャグ馬コにちなんだ銘菓をご挨拶にお持ちいたします。喜んでいただけたら幸いです。
もしまた夫の転勤で舞い戻ってきたときは、面接の際におっしゃっていた『滝沢村の方は10点プラス』で、どうぞ再雇用願います。それでは、お元気で。」