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ミューズの声聞こゆ

なごみと素敵を探して
In search of lovable

このたびの東日本大震災で被災された多くの皆様へ、謹んでお見舞い申し上げます。

大震災直後から、たくさんの支援を全国から賜りましたこと、職員一同心より感謝申し上げます。 また、私たちと共にあって、懸命に復興に取り組んでいらっしゃる関係者の方々に対しても厚く感謝申し上げます。

「女の中にいる他人」

2025年09月08日 | 日本映画

 

 三船敏郎の「侍」(1965年)は、桜田門外の変当日をクライマックスとして物語が進んで行くのだが、中盤、東野英治郎と新珠三千代の長い会話の中に、三船演じる粗暴な浪人の来し方に関する回想シーンが挟まれる一風変わった作りになっていた。
当時の観客が退屈しなかったか、少し心配になる。
その二人の会話、東野英治郎の昔語りは新珠の白いうなじ(白黒映画)越しに撮られていて、岡本喜八監督がこの構図を気に入ったのだろうな、と勝手に想像する。
新珠は公家の姫様と宿屋の女将の二役を自在に演じ分けて、本当にうまい。
三船の親友役を演じている小林桂樹は、同じ岡本作品「江分利満氏の優雅な生活」(1963年)で新珠と夫婦役を演じているし、その前には小津監督の「小早川家の秋」(1961年)でもやはり夫婦役だった。
 成瀬巳喜男監督の「女の中にいる他人」(1966年)も、小林桂樹と新珠三千代が夫婦役で、三橋達也が親友役。
日常の中のサスペンスというか、精神的にひりひりする映画だった。
原作がパレスチナ出身でイギリス在住の作家エドワード・アタイヤの小説「細い線」で、邦訳もある。
のちに瀬戸朝香と尾美としのり主演でテレビドラマ化されている。
所属する松竹から東宝へ一人出向いて「小早川家の秋」を撮った小津監督は新珠の演技をとても気に入り、次があることを願ったそうだが、「女の中にいる他人」の新珠はどこにでもいそうな清楚で快活な主婦から受動的な理由で徐々に逸脱し凄みを増して行くさまを、ほんのわずかの表情や目の動きで表現していて、心底感心した。
 この作品はとても気に入っているけれど、一点違和感がある。それは主人公の家族が一男一女と夫婦、夫の母親の計5人で落ち着いた文化的生活を、鎌倉の一軒家で営んでいる。男の子はたぶん僕と同い年くらい、そうすると大正生まれの小林がとても老けた父親ということになる。自分が小林をあまり好まないこともあるが、「私は二歳」(1962年)や「秋刀魚の味」(同年)で描かれている、若い夫婦(船越英二と山本富士子、佐田啓二と岡田茉莉子)の団地暮らしのほうが、より親近感が湧くのだ。
とはいえ、半ズボンの男の子、遊園地のコーヒーカップ、芋洗い状態の海水浴場、普段も和服の母親、消防はしご車のお土産など、まるで自分の古いアルバムを眺めているかのようだ。

 

 

 

 

2017年、NHK。

 

クロード・シャブロル監督による映画化作品「一寸先は闇」

(1971年、日本劇場未公開、テレビ放映)

 

 

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女房詞 (にょうぼうことば)

2025年08月22日 | 日本映画

 これは割とよく知られていることだが、「おいしい」は元々女性語、女房詞 (にょうぼうことば、室町時代、御所などに仕える女官の用語)だった。
小津安二郎監督の「お茶漬の味」(1952年)、「東京物語」(1953年)、「秋日和」(1960年)では、男優(鶴田浩二、中村伸郎)が「うまい」と言い、女優(津島恵子、杉村春子、岡田茉莉子)が「おいしい」と言って、厳密に使い分けられている。
もちろん時代背景もあるものの、小津の厳格さ、几帳面さが垣間見られるような気がしている。 

 昔も今も上品さとは無縁の瘋癲老人の僕は不思議なことに、生まれてこのかた食べ物を「うまい」と言い表したことがない。
いつも「おいしい」だ。
母親の影響だろうか。
テレビでクズ芸人などが料理やその土地の特産品を口に入れるなり「うまっ!」と発声するのを、内心苦々しく観ている。 

 何度か取り上げた「乳母車」(1956年)にも使い分けのシーンがある。
鎌倉材木座在住の会社重役の令嬢で、K大(原作者の石坂洋次郎は慶応大文学部)に通う女子大生の芦川いづみが、アルバイト学生の裕次郎と築地の大衆中華料理店にいる。
出てきた焼きそばを見て、芦川は怪訝そうな顔をし、食べない、とかたくなに宣言するのだが、裕次郎はせっかく僕が奢るのだから食べてごらんよ、と割り箸を割って持たせた。
「うまいだろ?」と裕次郎。
うなずいて「おいしい」と芦川。
「ホントおいしいわ。おいしいっていうよりうまいってカンジね」と笑顔で言った。
「ってカンジね」がいい。本当に素敵なお嬢さんだ。
うまいとおいしいの境界線があるのだとしたら、このへんから変わって行ったのかもしれない。

 

裕次郎は映画出演三作目で、まだ芦川の方が格上。

 

「お茶漬けの味」

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終戦の日に

2025年08月15日 | 日本映画

「お茶漬けの味」(昭和27年)撮影時。小津安二郎監督(中央)の隣に木暮実千代。

 

 昭和20年8月、ソ連が日ソ不可侵条約を破棄して日本に宣戦布告し、翌9日にはソ連軍が満洲へ侵攻する。敗戦を覚悟した満州映画協会理事長の甘粕元大尉(宮城県仙台市出身)は、満映の社員とその家族千名以上を会社の講堂に集めて映画を鑑賞させ、その最中に爆薬で全員を爆殺(集団自決)し、幹部たちは服毒自殺するという計画を立案する。
幸いにもこのトンデモ計画は幹部の諫言によって取りやめとなり、甘粕は20日早朝、青酸カリで自決した。
夫が満映の常務理事で現地に居た女優木暮実千代も、危うく難を逃れた一人だった。その後、彼女は一家で艱難辛苦を乗り越えて帰国し、戦後はそのキャリアをさらに花開かせることになる。
すごい女性だな。
甘粕も、木暮の夫も、日本でやらかして(失敗して)、満州での再起というか、キャリアロンダリングを図った男たちだ。
当時はそんな空気が国内にも、あちらにもあったのだろう、海外雄飛などと称して。

 県北の呉服屋の跡取り息子として生まれた母方の祖父は、クラーク博士にのぼせて北大農学部に進む。
卒業後は戻って家業を継ぎ、家庭も持ったものの落ち着かず、店を畳むと妻子を仙台市に残して単身満州に渡り、農園を経営する。
ただしほどなく体調を崩して内地に戻り、昭和20年、終戦の年の12月に疎開先で亡くなって、妻子を戦後の混乱と貧困の真っただ中に置き去りにしている。
なんてひとでしょうね。

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新珠三千代

2025年08月04日 | 日本映画

 市川崑監督による「こころ」(1955年)の映画化作品は、お嬢さんの現在と過去を演じ分けた新珠三千代も、インテリ森雅之もいいのだけれど、目ヂカラを消したニヒルな三橋達也が全部持って行く。

K(三橋達也)とお嬢さん(新珠)。

 

奥さん(未亡人、田村秋子)と若き先生(森雅之)、お嬢さん。

 

「精神的に向上心のないものは馬鹿だ。」

「馬鹿だ。僕は馬鹿だ。」 

 

 少し前に書いた川島雄三監督の「風船」は翌1956年の作品。

Kと先生が親子、Kとお嬢さんが愛人関係って。

 

 川島の次回作で、彼の代表作となった「洲崎パラダイス 赤信号」(1956年)も、三橋と新珠のコンビで撮られている。

駆け落ちしたダメ男(三橋)と元娼妓。

初めて観た時(国立フィルムセンターでの川島雄三特集)は、三橋のダメっぷりに驚愕した。

 

そば屋の店員(芦川)と洲崎に流れ戻った元娼妓(新珠)。

 

同じ年の「乳母車」(田坂具隆監督)。いい映画だった。

女子大生(芦川いづみ)、父親の愛人(新珠)、その子、その弟(石原裕次郎)。ちなみに父親は宇野重吉が演じている。

 

「死の十字路」(1956年、井上梅次監督)。

江戸川乱歩原作で、時々思い出したようにリメイクされている。

この作品を最後に新珠は東宝へ移籍する。

想像でしかないが、愛人役ばかりで嫌になったのかもしれない。

 

時の権力者も美女とのツーショットに破顔一笑?

 

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「小早川家の秋」

2025年07月14日 | 日本映画

 新珠三千代が東宝へ移籍する前の、初期の日活作品について書くつもりが、小津安二郎(松竹)が東宝に乞われ単身出向いて撮った「小早川家の秋(こはやがわけのあき)」(1961年)に、彼女も出演していたことを思い出し、予定を変更した。

この映画は何と言っても、原節子と新珠、それに浪花千恵子が着こなす浦部理一デザインの和服が素敵だ。

宝塚出身で姿勢のいい新珠にとって、小津が俳優たちに強いた前傾姿勢の三角形の構図は難しかっただろうな、とスチール写真を見ながら勝手に想像する。

 

 

 

 

 

 

 黒柳徹子が言うには、森繫は「一回どう?」が口癖だったそうだが、原節子を見つめる目つきはそれそのものだ。

さりげなく小津が間に入ってガードしているかのように見える。

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