今日はNPO法人なごやか理事長の職員面接に立ち会うことになった。
相手は市内の法人で事業所管理者まで務められた方だそうで、私の方が緊張している。
今春、念願の社会福祉士資格を取ったのでそれを活かせる部署への異動を願い出たものの却下されたため退職、当法人へ履歴書を出したのだという。
理事長の面接には何度か同席していてパターンは把握していたつもりだったのだが、今回はまったく違った。
「いただいていた履歴書からすると、もしかして震災発生当時は『やすけく』が会場の、福法組(福祉施設等運営法人組合)の管理者会議に出席していらしたのではありませんか?」
相手はそうだと答えた。
少しの間があって、理事長が口を開いた。
「あの日から七年たっていますが、私は常に惨めな気持ちです。
そういったことを大声で主張すべきではないと思っているので、心の中にしまっているだけですが。
時には高揚したり、冗談を言ったり笑ったりすることもあります。
でも、やはり惨めです。」
相手は私もそうだとうなずいた。
「わかりました。それでは採用で結構です。
これからお互い心の底から笑えるよう日々努力して行きましょうか。
よく僕に履歴書を出してくれましたね。」
NPO法人なごやかには私が管理者を務めるやまねこデイサービスともう一つ、なめとこデイサービスがある。
このデイサービスはもともとなごやか理事長個人の不動産だったのを、法人に寄付して改築したものなのだが、今春、その裏の土地建物を法人で購入していた。
それが今月、さらにその隣の空地を同じ持ち主から駐車場として借りたことで、結果として約320坪の広大な正方形の土地が出現した。
私は半分呆れて思った、理事長は戦国大名か。
ウチの子もそうだが、男の子はとにかく陣地・領土を広げたがる。
なにか持って生まれたものなのだろう。
けれども、なごやか理事長は時々こんな話をする。
これは実話なのだそうだが、ある町に強欲な夫婦がいた。
狭い敷地に建っている小さな家をいつも嘆いていた二人は裏山の崖のすそ野を少しずつ削って奥行50センチほど土地を広げ、わがものとしていた。
ところがある台風の夜、大雨で崖が崩れ、二人の土地に奥行1メートルほど土砂が流れ込んでしまった。
しかし二人は反省などしないだろう。なぜ厄災を招くようなことをしたのだと尋ねられたら、彼らはきっとあの『サソリとカエルの話』のように答えるに違いない、
「仕方ない、それが私たちの性分(キャラクター)なのだから」と。
地元紙に年5、6回程度、介護サービス法人の特集広告が掲載されることはこれまで何度か書いた。
当法人は事業所名をずらりと並べた、やや威圧的で嫌味なスタイルなのだが、だいぶ前から飽きてきていて、内心変えたいな、と思っていた。
それがひょんことから職員に当市出身で在京のプロの漫画家さんを紹介され、挿入するイラストを描いていただけることになった。
数点届いたラフ画はどれもチャーミングで選ぶのに一苦労したのだが、季節にふさわしい浴衣姿のものにしてみた。
第1稿は男のコも浴衣だったのが、この二人は恋人同士ではなく、当市の夏の風物詩であるみなとまつりに揃って出かけてきた当法人の同僚職員という設定にしたいので、別の画にあった半袖ボタンダウン姿に変更を依頼した。
すると先方から、シャツはタックインかアウトかとの問い合わせが来た。
僕はすぐさま答えた。
「シャツはタックインで、ベルトは添付した写真のような、いわゆるアイビーベルト、パンツはクリーム色のコットンパンツでノータック、プリーツ有でお願いします。」
要望が細かいクライアントだと思われなければいいな、と念じていると、すぐに第2稿が届いた。
おー、と僕は思わず満足げな声を上げた。
これはまさしく1978年のけせもい高生じゃないの。
当時男子高だったけせもい高校は服装自由で、生徒たちは少ない小遣いをやりくりして精いっぱいのおしゃれを楽しんでいた。
この男のコがくるりと振り返ると、シャツの背中にはVANのTシャツのバックプリントが透けて見えるに違いない。
なんだかちょっと面白くなってきた。
次回は敬老の日特集だが、これもセンセイに依頼し、バックにけせもい市の名所を入れていただこうかな、などとニヤニヤ笑いながら考えている。
遊び心でうちわに市章を入れていただいた
「きみが言うその事業所さんは忙しすぎるのだろう。
でも、『備品の乱れは事業所の乱れ』、割れ窓理論で、そこからどんどんモラルダウンして行く。
当法人だとカーテンは、以前は普通のものをまとめて購入し、それをクリーニング店で防炎加工に出していたのが、その店が採算面から外注するようになって料金が跳ね上がったことから、その後は防炎加工済みのリーズナブルなものを各事業所がネットで購入するようになっている。
グループホームは厚手のものとレースがセットなので、定員9室を毎月3室ずつ交換。
古いホームだとすでに2周しているところもある。
きみのところはデイサービスなのでレースのみだろうから、イスの買い替えが終わったら取り掛かるといい。
デイサービスは特に、行くのが楽しい、行く日が待ち遠しい事業所にして行こう。
お箸、ランチョンマット、コースター、タオル、ちょっとした工夫でひとはくつろぎや安心を感じるものだ。
よれよれになったものや色あせたものは果敢に?買い替えて。
うん、これからの季節、ウッドデッキを利用した屋外でのお茶もいいね。
先日、気分転換に大船渡市まで足を延ばしたところ、初めて入った小さなカフェは、自分も愛用しているデュラレックス社製の大小ガラスコップで統一されていた。
たぶん、女性オーナーさんのこだわりなのだろうね(笑)」
「本日、グループホームポラーノは無事開所9周年を迎えることができました。
昨年からのコロナ禍で誰もが目に見えない脅威に悩まされており、利用者様・職員ともに不安な毎日を過ごしてまいりました。
また、利用者様も入退居があり、落ち着かない日々が続いたかと思いますが、本日、利用者様9名と揃って開所記念日を迎えられたことを、とても嬉しく感じています。
こうして9年目の記念日を祝うことができましたのも、NPO法人なごやか理事長をはじめ、歴代管理者、ご家族様、それに職員のみなさんのご支援とご協力の賜物と、心より感謝申し上げます。
9周年を一つの節目として、心新たに、利用者様お一人お一人が安心して笑顔で過ごしていただけるよう、これからに向けてさらに職員一丸となって尽力する所存です。
今後とも、よろしくご支援賜りますよう、お願い申し上げます。
本日は誠におめでとうございます!」
NPO法人なごやか理事長にお供して、開所記念のお茶会に参加した。
ショートケーキにコーヒーやお茶で乾杯。
昨年夏にホームへ着任したオーツマ管理者がとつとつと読み上げたスピーチに私は胸を打たれた。
額に汗を浮かべながら着席した管理者へ、私は心からの拍手を贈ったのだが、理事長は素早く腕を伸ばすと、驚いた表情の彼女から二つ折りの原稿を譲り受け、さりげなくポケットにしまった—。