ジュリーがTVから姿を消した90年代。90年代の後半にはもうヒット曲を出すことは、とうに諦めたようにみえた。50歳になろうとする、もう若くないジュリーはこれからどうするのだろうか? 歳をとったアイドル歌手のロールモデルなど、当時は無かった。
ジュリーだけは歳を取らないに違いない、という根拠のない観測はファンの子供っぽい勝手な思いで、幻想に過ぎないと知った。このままジュリーはヒット曲もなく、歳を重ねるだけなのだろうか。ファンとしてどうしようもない悔しさを抱いて、テンションの上がらない日々を送っていた1999年。
50代になったばかりのジュリーが、奥様の裕子さんと漫才師役で共演するという。夫婦で共演?ジュリーが漫才師?しかも売れない・・・なんやそれ その映画を大阪まで、何の期待もせずに見に行った。その気持の上がらない、ドヨンとした気持ちを いとも簡単に打ち砕いてくれたのが「大阪物語」だった。ショボくれた漫才師役のジュリーの演技の上手さ、何よりその「まさに崩れようとする手前の、大人の色気」に目の覚める思いがした。私は、何にもジュリーのことをわかっていなかったと、やっと気がついた。
かつて、演じている隆介のような人間と対極のところにいたはずのジュリーが、何でこんなに役に無理なくハマるのか。ジュリーの演技しているように見えない、まったく自然な演技に、期待せずに見に行った1999年の私は、ジュリーに心の中で許しを乞うた。
3年ほど前?CSで数回繰り返し放送されたので、その時はジュリーのところだけ注目して観たが、全編を通しては最近は観ていなかった。昨日は久しぶりに大きなスクリーンで全部を観た。
最初、画面いっぱいにドアップになった、ジュリーの茫洋とした髭面の緊張感のまるでない顔を見て、わ!太ってる (-_-;) 50歳くらいなのに今と変わらない・・と、いささか焦った。しかし見続けていたら、これは歌手で大スターで、ナイフのようにエッジの鋭かった、あの沢田研二ではない、とジワジワ思えてくる。スクリーンの中にいるのは、紛れもなく売れない夫婦漫才の霜月隆介そのものなのだ。
隆介のダメさ加減と言ったら、女にだらしがなく、金にもだらしなく、ついでに酒でも失敗し、もうにっちもさっちも 立ち行かなくなってしまうアカンタレ。ステテコ姿の、どうしようもないダメダメ男のやるせなさ、哀しさ、哀愁が、丸めたジュリーの背中から たち上ってくるようだ。
隆介が家族を見る眼差しや、ふと目を配らせる その視線、ふとした瞬間の目になんともいえない光と色気が宿って、そのチラリと一瞬濃くなる目元を目撃した私は 平静ではいられない。ギラギラした若さなんか、とうの昔に失った隆介なのに、この情けなさ全開の いい加減な男が限り無く愛おしいと思える。
この映画にはいくつもの、私の心の琴線に触れる お気に入りの場面がある。冒頭の家族で布団に入って寝ているシーン、子供たちとの触れ合いの温かさ、人前で見境なく夫婦喧嘩をする場面とか。しかし改めて昨日観て、それ以外にもジュリーのあんな表情や、こんな表情。脱力した風情のジュリーの口からポロポロ ポツポツと力なく漏れるような、自然体の大阪弁の台詞の数々の魅力に、はぁーーっと熱いため息が漏れそうだった。 ジュリーの口からもれる大阪弁が大好き!
舞台では、よく通る声に歯切れの良い台詞まわしが魅力のジュリーだけど、この映画のジュリーの台詞はそれとは全く違う。例え小さな呟きのような声にも、色気と気持ちがこもって 私がこの映画のジュリーを愛する所以です。
いつもジュリーばかりに注目していたが、それ以外の出演者も たいそう魅力的。冒頭、1人で自分や家族のことを語る、池脇千鶴さん。これがデビュー作と思えない。あどけない幼さの残る顔で信じられないほど上手い、上手すぎる!初めて見たとき、こりゃ新人賞間違いなしやな・・と思ったら、キネマ旬報や日本アカデミー賞など、この当時の新人賞を総嘗めにした。きっと「朝ドラ」の主役になると思ったら、やっぱりね!選ばれていました。
裕子さんの諦めたような翳りのあるハルミも素敵だ。最初、夫婦で演じるなんて・・ファンとしては見たくないと思わないでもなかったが、映画に実際の夫婦だからこそのリアリティも感じられて、そこが良かった。何より、こっちが照れずに見られるのは、まさに二人の演技力のせいだろうと思う。
しかしよくわからないのが、トオル。登校拒否など何か屈折があるらしいが、ナイーブそうでいながら あまりにも凶暴。何が彼をそうさせるのか、どうして「この世の中に意味のないものはない」という考えに至ったのか、その意味は??彼だけは最後まで謎だった。
ツイッター上で、この映画の再上映を希望するものがあったけど、そういう方々は 京都シネマで見ることができたのだろうか? 関東での上映がご希望だったのだろうか。もしご覧になれたのなら、50歳のジュリーの「大阪物語」のご感想を伺いたいと思います。
京都シネマのある、COCON KARASUMAとは⇒ http://www.coconkarasuma.com/
昭和13年築 戦後、連合国軍最高司令官総司令部(GHQ)に接収され事務所として使われていたもの。リニューアルして、複合商業施設に生まれ変わりました。壁や階段、床面に往時を偲べる 長く京都で生き続ける 幸せな建築物です。