坂野直子の美術批評ダイアリー

美術ジャーナリスト坂野直子(ばんのなおこ)が展覧会、個展を実際に見て批評していきます。

保井智貴「Tranquil Reflection]

2011年07月02日 | アーティスト
保井智貴さん(1974年~)の昨年に続く個展が、現座のMEGUMI OGITA GALLERY(2日まで)開催されました。
ベルギーで生まれた保井さんは幼いころから他民族に接し、人間の姿や行動とその背景にある文化の関係性を意識するようになりました。国内では中原悌二郎賞を受賞するなど気鋭のアーティストとして注目されてきました。
彼が生み出す人物像の独特の雰囲気が一つの特徴となっています。遠いまなざしを向けた、どこか仏像を感じさせる正面性の立像。それは伝統的な手法とつながりがあります。興福寺の阿修羅像などに代表される乾漆という、石膏型の内側に何層にも漆と麻布を張り合わせて本体を作りあげていく工程を踏むことで得られる光沢感や質感を大事にしています。そして今回の装飾性は、前回が琳派的な和の美学を融合させていたのに対し、色彩のアラベスク的な構成と細やかな袖などのレース的な工芸性がより緻密に高まっていました。
材質的には、半気石、螺鈿、色漆、蒔絵、岩絵の具などが細かに繊細に組み合わされています。今回は3体の人物像が空間に配置され、この空間だけは銀座の雑踏とはかけ離れた静かで遠い記憶に誘ってくれるような気配を感じました。