坂野直子の美術批評ダイアリー

美術ジャーナリスト坂野直子(ばんのなおこ)が展覧会、個展を実際に見て批評していきます。

よみがえる神話と芸術 没後100年 青木繁展

2011年07月19日 | 展覧会
日本の近代洋画の発展期に異才を放った青木繁(1882-1911)。代表作「海の幸」や「わだつみのいろこの宮」は、教科書に掲載されるなどよく知られています。これまであまり展覧会が開かれなかったのは寡作だったということがあげられます。29歳の若さで亡くなった稀有な逸材はこれまであまりその全貌が明らかにされてきませんでした。
本展は、代表作を含む油彩60点を集め、素描類も併せて240点の展覧で、39年ぶりの本格的な回顧展となります。
青木繁は、伝説的な画家といわれますが、それは、自分の感情を同時代の他の画家よりストレートに絵画に表わすことができ、写実的な画風にロマン主義的傾向の要素が付け加えられている特徴があります。
青木家は代々久留米藩に仕えた武家の家系であり、17歳で絵の道に進むにあたり、父親の猛烈な反対にあいます。それを押し切って上京し、明治33年に東京美術学校に入学、同期生に熊谷守一らがいました。
3年後の黒田清輝らが率いる白馬会に初出品し、白馬賞を受賞し鮮烈なデビューを果たします。そのときに発表された作品の一つが、青木が愛読していた『古事記』を題材とした作品で、神話のシリーズの原点となります。
「海の幸」は、その翌年白馬会に出品した作品で、房総の布良に写生旅行したときに、その海岸で見た大漁陸揚げの光景を元に、虚構的なイマジネーションの力が魅力となっています。裸体画は当時センセーショナルで特別室に展示されたといいます。

◆青木繁展/開催中~9月4日/石橋財団ブリヂストン美術館(東京・八重洲)