坂野直子の美術批評ダイアリー

美術ジャーナリスト坂野直子(ばんのなおこ)が展覧会、個展を実際に見て批評していきます。

ポール・セザンヌ「赤いチョッキの少年」

2011年07月12日 | 展覧会
現在、国立新美術館で開催中のワシントン・ナショナル・ギャラリー展は、数日前に入場者数10万人を突破ということで、やはり印象派・ポスト印象派のビッグネームが並ぶ展覧会は根強い人気だと感じました。
コローの〈うなぎを獲る人々〉の深い森の川辺で漁をする家族の様子をとらえた作品から、ゴッホの〈薔薇〉の緑の筆線と白の対比が鮮やかな作品など、ほぼ50年の間に印象派の誕生から絵画の近代化が進み、次なる新しい視覚への冒険であるモダニズムの歴史がひも解かれます。
絵画は対象のイメージを再現するだけでなく、線と色彩の自律したコンポジションへと20世紀の橋渡しをしていきます。その大きな存在となったのが、ポール・セザンヌです。富裕な銀行家の息子として生まれたセザンヌは、プロヴァンスに引きこもりエクスの山のシリーズや夫人の肖像画をもとに、印象派の光の移ろいを重視した方法論を土台に、より構築的な絵画構成を目指していきます。
掲載の「赤いチョッキの少年」1888-1890年。この作品は、美術史上においても重要なポイントになる作品です。イタリア人少年をモデルにパリに滞在していたときに制作した4点の油彩画の中でもっとも大きな画面の作品です。鮮やかな赤のチョッキが周囲の寒色系の色調にアクセントとなしています。片方の足に重心を置き、腰に手をあてたポーズは古典的なスタイルの肖像画のものでありながら、平面化された室内空間における色彩のタッチとほとんど抽象化された背景は、抽象化が進むリンゴの静物のシリーズへと展開していく要素をはらんでいます。
同展は、美術史的な重要な作品というだけでなく、好きな作品を1点選ぶとなると困ってしまうほど、見どころの多い内容となっています。

◆ワシントン・ナショナル・ギャラリー展/開催中~9月5日・国立新美術館 
 9月13日~11月27日・京都市美術館