坂野直子の美術批評ダイアリー

美術ジャーナリスト坂野直子(ばんのなおこ)が展覧会、個展を実際に見て批評していきます。

生誕100年記念 瑛九展 多様な画業の回顧展

2011年07月27日 | 展覧会
油彩、水彩、版画、フォトデッサンなど、画家・瑛九が手掛けた絵画世界は多岐にわたります。瑛九は1911年(明治44年)に宮崎に生まれ、1951年に埼玉の浦和に転居した後も、たびたび帰郷するなど、宮崎は縁の深い土地で、生誕百年の節目の年に開催される同展は、宮崎県立美術館の核となっている瑛九の作品群と全国の収蔵状況などの調査を踏まえ、また埼玉県立近代美術館の瑛九の収蔵作品、資料などを併せて戦前、戦後のデモクラシーの魂を貫いた画家の全貌に迫っています。
瑛九の作品の中に「フォトデッサン」というのがあり、それは彼の独自の制作手法によるものです。マン・レイやモホリ=ナジが用いたフォトグラムは、カメラを用いずに、印画紙の上に直接物を置き、光を当てて像をえる技法ですが、瑛九はその影響をうけつつも、そこに人の形に切った型紙を印画紙に置いたり、透過性のある素材に描画を行い、それを転写するなど絵画的なイメージを付与していきました。
1951年に浦和に転居してからは版画に打ち込み、晩年は点描による油彩画のシリーズへと進みます。
・掲載作品は、「黄色い花」1958年 愛知県美術館蔵です。同時代に岡本太郎がいて、当時のキュビスムや、アンフォルメルなどの線と色彩が自律した抽象化の時代の波を自己の絵画へと応用していきます。
48歳という若さで亡くなった画家の最晩年に行きついた試みは大小の点を色彩鮮やかに無数に描くということでした。ミクロ的なまたはマクロ的な大局的なイメージのヴィジョンを映し出しています。

◆生誕100年記念 瑛九展/開催中~8月28日/宮崎県立美術館
 9月10日~11月6日/埼玉県立近代美術館 ・うらわ美術館