『チェルノブイリ人民法廷』緑風出版 ソランジュ・フェルネクス[編]竹内雅文[訳]を読みました。
内容は以下のようです。
「チェルノブイリ事故の10年後、救援活動と被害の実態を調査してきたチェルノブイリ国際医療委員会(IMCC)の提案を受けて、オーストリアのウィーンでチェルノブイリ人民法廷が開催された。
国際原子力機関(IAEA)が、甚大な被害を隠蔽し、矮小化し、原発推進を正当化しているなかで、この法廷では、現場の医師、研究者達が次々証言に立ち、事故後の被害の緻密な統計、とりわけ子どもたちの被害実態を明らかにした。事故後、死亡者は数十万人に及び、様々な健康被害、畸形や障害などが多発していることも明るみに出た。
本書は、この貴重なチェルノブイリ人民法廷の全記録である。(2013.2)」
内容構成は以下のうようになります。
「序文 武藤類子
聴聞
フランソワ・リゴ裁判長/フレダ・マイスナ= ブラウ判事
証言開始にあたって
ジアンニ・トグノーニ博士/裁判長/ロザリー・バーテル博士
裁判長
第一部 事故と、他所の原子炉への影響
第二部 チェルノブイリと犠牲者の諸権利
第三部 環境と人体の毀損に関する証言
第四部 チェルノブイリに帰因できる直接的な健康被害
第五部 日本の体験。広島、長崎
第六部 国家機関および国際機関の対応
第七部 結論
裁判長/ヌアラ・アハーン氏/裁判長/ロザリー・バーテル博士
フレダ・マイスナ= ブラウ判事
判決
前文
一 訴訟手続/二 本裁判と常設人民法廷の過去の諸判決との関係
三 事実/四 国際社会側の隠蔽/五 科学界の責任
六 核兵器と原子力発電所/七 責任を問う権利と賠償を受ける権利
八 原子力エネルギー生産の経済的諸要素
九 人間の諸権利の新たなるヴィジョンへ
判決
当法廷は弾劾する/勧告と提案
半世紀にわたる核の迷走による、過去、現在、未来の犠牲者たちへ」
この法廷はチェルノブイリ原発事故から10年後、現在から約20年ちょっと前に行われたようです。
もちろん国際法的な拘束力はないようですが、WHOなど公的な国際機関にもその判決内容は伝えられるようです。この法廷がどのような法的根拠があるのか分かりませんが、そこで証言された内容は現場で医療や調査を行った科学者や医師などによるものが多く、非常に信頼できるものです。医学・生物学的に豊富な研究・臨床データの発表もありました。
そしてIAIE(国際原子力機関)やICRP(国際放射線防護委員会)が、放射能の健康被害に対して、いかに杜撰で間違っているか、何度も何度も証言されています。そして世界的に言論弾圧が行われており、科学者・医者などが放射能の健康被害のデータを発表する機会が奪われており、それを犯すと研究費がストップされるとのことです。
約20年も前に、放射性物質の内部被爆による健康被害はほぼ実証されていた訳です。
どうして国際的な公的な機関が、「1+1=3」のような非常識なこと(内部被爆は一切健康被害に関係ない)を臆面もなく言い張れるのでしょうか。原子力関係の国際機関は限りなく不合理で矛盾しており、人類の敵のようにも見えます。
どうしてそうなるのか私なりに考えてみました。
1.原子力関係は安全保障に決定的に関わるため、その推進を邪魔するものはすべて排除するという「鉄の意志」がある。原子力=核兵器保有国(潜在保有も含む)は、その放射能の健康被害により国防が弱まることを恐れる。
例えば、米国で放射能の内部被爆による健康被害を認めれば、莫大な損害賠償の負担に国家財政は潰れ、核兵器も維持できなくなる。情報統制の強いロシア・中国が核兵器で脅かせば、米国は完全にアウト(無条件降伏)になる。
中国・ロシアなどの旧共産国も、核兵器は安全保障上絶対維持しなければならない。
イスラエルも潜在核が必須、イラン、パキスタン、インド、フランスも核兵器は手放せない。
強迫観念が渦巻き、核を持っていないと安心して眠れない。
例え数百万人に健康被害があったとしても、原子力の安全保障は守らなければならない。
つまり世界の主要なプレーヤーはすべて核兵器が必要な訳です。内部被曝を認めることとは、その保有・維持に最大の障害になります。
2.原子力は科学技術の頂点であり、まだまだ研究の余地がある。こんなこと(数百万人の知的レベルの低い人間たちの健康被害)で、科学の研究がストップしてしまうのはもったいない、許せない。我々は科学技術をますます発展させていかなければならない。地球環境がますます悪化していった場合(想像を絶する天変地異など)、頼りになるエネルギーは原子力しかない(最悪の場合、地下都市で自給自足しなければならなくなるかもしれない)。
原子力を反対する奴らは猿の時代にでも戻れ。
3.原子力関連は、ウラン鉱山から原発、核兵器生産、再処理施設、放射性廃棄物管理
と利権の宝庫だ。原発はどの国でも国策で、電気料金という税金でいくらでも取ることができる。まったく安定した収入が入る、推進すればすれほど儲かる。原発炉メーカーや建設会社も儲かる、何せ超大型工事だ。マスコミ・諜報組織も利益を得られる。
また放射能による健康被害を隠蔽するためにアンダーグラウンドの組織も多く利権構造に入っている。胡散臭い違法紛いなところには、文字通りのマフィアなども巣食う。原子力はまるでアヘンの商売のように儲かる産業だ。数百万人死のうがこの利益を失うことはできない。
4.結局、内部被爆による健康被害は安全保障上、財政上、利権的にも絶対認められない。内部被爆による健康被害は医学・生物学的には大虐殺(ホロコースト)の意味合いがあるが、政治的には疫学データ的(数十年かけて癌などの様々な病気で亡くなる確率が高まる)な被害に終われば、それが数百万だろうが数千万だろが許容範囲ということなのだろう(人間の感性というのは、見かけの状況にひどく左右されてしまう)。
下手に避難させても、カネはかかるし、被害先で避難民はストレスを抱え苦しむ。内部被爆は認められないのだから、疫学データ的な被害に終われば、避難させない方が良い。科学技術の社会への貢献の代償だと割り切ればよい。内部被爆による健康被害については、いっさい議論しない(議論すればボロが出る)。「被害はない」の一点張りで対応する、細かい議論は絶対にしない。
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