数理論理教(科学教)の研究

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ウイルスとは何か(3)ウイルスの種類、レトロウイルス科 ヒト免疫不全ウイルス(HIV )、 ヒトTリンパ好性ウイルス(HTLV)

2023-06-19 14:12:29 | ウイルス
1.ウイルスの種類
(1)RNAウイルス
(ⅰ)一本鎖RNA
 RNAウイルスで逆転写酵素を持つ種類のもので、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)やヒトTリンパ好性ウイルス(HTLV)などが含まれます。感染するとRNAから逆転写酵素でDNAに変換して、宿主のDNAに紛れ込んでしまうようです。そして長期間潜伏して、宿主に病気を発症させるようですが、中には宿主の生存中まったく発症させないこともあるようです。
 それにしても、宿主を殺してしまうのはウイルスにとってもマイナスなのではないかと思うのですが、飛沫感染でもできなければすぐに他の宿主に乗り移ることも難しいと思います。何か進化上のメリットでもあるのでしょうか?
 なお、ヒトTリンパ好性ウイルス(HTLV)(HIVではありません)のキャリアーは日本人に多くて、約100万人もいるとのことです(縄文人系に多とも言われています)。他にもまだ見つかっていない病気を発症させるウイルスがいて、すでに我々に潜伏感染していているということも考えられるかもしれません。
 なおレトロウイルスが生殖細胞に感染しない限り、遺伝としては引き継がれません。それにしても内在性ウイルスはどのように生殖細胞に感染できたのでしょうか?

「生殖細胞への感染 卵細胞にレトロウイルスが感染した場合、その卵細胞が受精して発生して誕生し た子のゲノムにはウイルスが内在化しています。一方で例えば、体細胞である白血球にレトロウイル スが感染しても、その白血球から子ができるわけではないのでウイルスの内在化は起こりません。ウ イルスの生殖細胞への感染と内在化したウイルスのゲノムへの固定は短期的には非常にまれな現象だ と考えられています。 」

 
「…ヒトに感染するレトロウイルスとして最初に発見されたのが、…「ヒト細胞白血病ウイルス」である。その名の通り、ヒト(成人)のT細胞に感染し、血液のがんといわれる「白血病」をもたらすウイルスだ。
…このウイルスは、T細胞のうち、特に細胞表面に「CD4」と呼ばれるタンパク質をつけているT細胞に感染する。こうしたT細胞は「ヘルパーT細胞」と呼ばれ、私たちの免疫システムの「司令塔」としてはたらく極めて重要な細胞である。
 そして、逆転写酵素を使って自らのRNAからDNAを合成し、それをT細胞のDNAに組み込んでしまう。こうして組み込まれたウイルス由来のDNAを「プロウイルス」という。
 ウイルスが感染してプロウイルスとして細胞中に存在しているにもかかわらず、かなり長い期間(およそ10~50年)、宿主たる本人は病気を発症しないのである。このような状態を「キャリアー」という。
 日本人にはこのキャリアーがじつに多く、およそ100万人ものヒトがHTLVのキャリアーであると考えられている。そして、この多数のキャリアーのうち、年間およそ1000人に1人程度が、実際に成人T細胞白血病を発症するのだあという。
 …飛沫感染などせず、基本的には性行為による男女間感染、授乳による親子感染がメインであるため、HLTVの感染と血縁関係との相関が強く、特に日本人の文化人類学研究に利用されることがある。

…HIVは、後天性免疫不全症候群、いわゆる「エイズ」を引き起こす原因ウイルスである。
…HIVも…HTVLと同様に「CD4」をつけているT細胞、すなわちヘルパーT細胞に感染する。
 ヘルパーT細胞は、「インターロイキン」と呼ばれるタンパク質を分泌することで、これを受け取ったT細胞(細胞傷害性T細胞)や、免疫応答の飛び道具として知られる「抗体」を作るはたらきをもつB細胞が活性化され、免疫反応が促進されるというのだから、ヘルパーT細胞が免疫の司令塔と呼ばれるのもうなずけるものだ。
 HIVはこの「司令塔」に感染し、そのはたらきをブロックしてしまうんだから、宿主としてはたまったものではない。
 しかも、ヘルパー細胞だけでなく、HIVは「マクロファージ」と呼ばれる細胞にも感染する。マクロファージは「食細胞」と呼ばれる白血球の一種で。とにかく何でも喰らう免疫細胞として知られるが、侵入してきた外敵の情報をヘルパーT細胞に提供するという重要な役割をもつため、HIVによるマクロファージへの感染とその破壊は、免疫系にとって大きなダメージとなる。(『新しいウイルス入門』より)」

 なおエドワード・フーパーEdward HooperのThe riverという本では、HIV
の起源はポリオワクチン作成中に誤ってチンパンジーのサル免疫不全ウイルス(SIV) が混入してしまったのではないかと推論をしているようです。
「 …さまざまな方法で調べてみた結果、人間が最初にHIV-1に感染したのは1950年代で、その場所はコ ンゴのキンシャサ・レオポルドビルであること、そしてそこでは1957年から1960年にかけてポリオワクチンの接種試験が実施されていたこととドラマチックに関連するということです。ワクチン接種の行われた場所と初期のエイズ患者の発生地域を比較した地図も示されています。
 ポリオワクチンにチンパンジーのSIVが入りこんだ経路については、ワクチンの製造用のサルの腎臓細胞の中には チンパンジーの腎臓も含まれていて、それに潜在感染していたSIVcpzがポリオワクチンに入った可能性をとりあげています。そしてチンパンジーの腎臓が実際に使用されたかどうかについては、徹底的に事実関係を調べています。 しかし、記録が不十分ではっきりした結論は得られていません。一方、チンパンジー の腎臓が使用されなかったという具体的証拠も関係者から示されてはいないことをフーパーは強調しています。」

「レトロウイルス科(Retroviridae)とは、RNAウイルス類の中で逆転写酵素を持つ種類の総称。プラス鎖ゲノムの一本鎖RNA(ssRNA)から成る。単にレトロウイルスと呼ばれることも多い。
 尚、逆転写酵素を持つものは、必ずしもRNAウイルスであるとは限らず、DNAウイルスであるB型肝炎ウイルス (HBV)がその一例である。 B型肝炎ウイルスは転写でプレゲノムRNAを生成したのちに逆転写によってDNAを合成している。
…レトロウイルス科のウイルスは直径約100nmの球状の形をしており、脂質のエンベロープに覆われている。ウイルス粒子のコアには逆転写酵素と通常2組の同一なRNAゲノムを持つ。共通の遺伝子としては、プロモーター活性のある2つのLTR(long terminal repeat)と呼ばれる塩基配列の繰り返し領域に挟まれて、gag(構造タンパク質をコード)、pro(プロテアーゼをコード)、pol(逆転写酵素などをコード)、env(エンベロープのタンパク質をコード)を持っている。 」


「逆転写酵素(ぎゃくてんしゃこうそ、英: reverse transcriptase、EC 2.7.7.49)は、RNA依存性DNAポリメラーゼ (RNA-dependent DNA polymerase) のこと。逆転写反応 (reverse transcription) を触媒する酵素。1970年、ハワード・マーティン・テミンとデビッド・ボルティモアによるそれぞれ別の研究により見出された。
 この酵素は一本鎖RNA を鋳型として DNA を合成(逆転写)するもので、レトロウイルスの増殖に必須の因子として発見された。それまで、DNA は DNA自身の複製によって合成され、遺伝情報は DNA から RNA への転写によって一方向にのみなされると考えられていた(セントラルドグマ)が、この酵素の発見により遺伝情報は RNA から DNA へも伝達されうることが明らかとなりセントラルドグマの例外とも言われていた…」

 このレトロウイルスは過去頻繁にヒトの遺伝子に混入していて、痕跡を残しているようです。このレトロウイルスのゲノムは、ヒトにおいて、生命活動に必須のタンパク質発現に関わるゲノムの約5倍もあるとのことです。

「実はヒトのゲノムのうち、およそ8%がレトロウイルスに由来する「内在性レトロウイルス」、すなわちウイルス由来の遺伝配列である。これに対してヒトゲノムでタンパク質の発現に関わる「遺伝子」領域は、全ゲノムの約1.5%に過ぎない。単純計算でヒトゲノム上でウイルス由来の配列が占める領域は、遺伝子領域の5倍以上もあるわけだ。 」

  ヒト免疫不全ウイルス (HIV: human immunodeficiency virus) -1,2
  サル免疫不全ウイルス (SIV: Simian Immuno-deficiency Virus)
  猫免疫不全ウイルス (FIV: feline immunodeficiency virus)
  馬伝染性貧血ウイルス(EIA: Equine infectious anemia virus)

「レンチウイルスは、ヒトおよび他の哺乳類において、長い潜伏期間を特徴とする、慢性で致命的な疾患を引き起こすレトロウイルス科のー属。エイズを引き起こすヒト免疫不全ウイルス(HIV)もこの属に含まれる。レンチウイルスは世界中に分布し、類人猿、牛、山羊、馬、猫、羊のほか、近年、サル、キツネザル、マレーヒヨケザル、ウサギ、フェレットで発見され、いくつかの哺乳類を宿主とすることが確認されている。
 レンチウイルスは、宿主細胞のDNAにウイルスcDNAを大量に組み込むことができ、非分裂細胞にも効率よく感染できるため、最も効率的な遺伝子導入法の1つである。また、レンチウイルスは宿主の生殖細胞系列ゲノムに組み込まれ、内在性(ERV)になり、ウイルスは宿主の子孫に受け継がれることもある。」

「アルファレトロウイルス属(Genus Alpharetrovirus)とはレトロウイルス科の1属。アルファレトロウイルス属は形態学的にC型粒子に分類される。 アルファレトロウイルス属のウイルスは野生鳥類や家禽、ラットに肉腫やその他の腫瘍、貧血を引き起こすことがある。 」
 
 ガンマレトロウイルスは、遺伝子治療や遺伝子導入のためのベクター(外来遺伝物質を別の細胞に人為的に運ぶために利用されるDNAまたはRNA)として利用されているようです。 
「ガンマレトロウイルスは、レトロウイルス科の一属。マウス白血病ウイルスやネコ白血病ウイルスが含まれ、哺乳類、爬虫類、鳥類にさまざまな肉腫、白血病、免疫不全を引き起こす。 
…ガンマレトロウイルスは、実験研究で非常によく用いられるレトロウイルスベクターであり、遺伝子治療や遺伝子導入に不可欠である。ガンマレトロウイルスが非常に有用である理由は、ゲノムが非常に単純で使いやすいことと、宿主細胞のゲノムへの組み込み能力が非常に高いことからゲノムの長期発現が可能なことによる。特にレトロウイルスベクターとして一般的に使用されているガンマレトロウイルスは、モロニーマウス白血病ウイルスである。
 遺伝子治療に利用可能なベクターとして、ガンマレトロウイルスは、レンチウイルスベクターとして用いられるHIVに比べていくつかの利点を持つ。具体的には、ガンマレトロウイルスのパッケージングシステムは、gag、polやアクセサリー遺伝子のコード配列と重複する配列を組み込む必要がない 」 

デルタレトロウイルス属(Genus Deltaretrovirus)とはレトロウイルス科オルトレトロウイルス亜科レトロウイルス科の1属。デルタウイルス属のウイルスにはいくつかの哺乳類の群に水平感染するものが含まれる。
デルタレトロウイルス属のウイルスとして牛白血病ウイルスやヒトTリンパ球好性ウイルスなどがある。」
「ヒトTリンパ好性ウイルス(ヒトティーリンパこうせいウイルス、Human T-lymphotropic Virus、Human T-cell Leukemia Virus、HTLV)は、レトロウイルスの一種。1型から4型(HTLV-I, II, III, IV)までがある。1型は成人T細胞白血病 (ATL) の原因ウイルスである。 ヒトT細胞白血病ウイルス、ヒトTリンパ球向性ウイルス、ヒトTリンパ向性ウイルスとも表記される。
…HTLV-1は腫瘍ウイルスのひとつで、ウイルス保持者(キャリアと呼ぶ)は生涯の何れかの時点でATL(=adult T-cell leukemia, 成人T細胞白血病)を発症する可能性がある。
 1977年に、京都大学の内山卓、高月清らによって、日本の九州出身の白血病患者には特有のT細胞性白血病が多いことから成人T細胞性白血病 (adult T-cell leukemia; ATL) という疾患概念を提唱した。その後、1981年に、京都大学の日沼頼夫らによってレトロウイルスが分離され「ATL virus (ATLV)」とした。これは1980年にアメリカ国立衛生研究所のロバート・ギャロらが菌状息肉症患者から分離した、ヒトから初めて発見されたレトロウイルスと同一のウイルスとのちに判明し、名称はHuman T-cell leukemia virus type 1 (HTLV-1) と改められた。」

「…ATL(成人T細胞白血病)のウイルスキャリアが日本人に多数存在することは知られていたが、東アジアの周辺諸国ではまったく見出されていない。いっぽうアメリカ先住民やアフリカ、ニューギニア先住民などでキャリアが多い。日本国内の分布に目を転じると、南九州や沖縄、アイヌに特に高頻度で見られ、四国南部、紀伊半島の南部、東北地方の太平洋側、隠岐の島壱岐島壱岐島、五島列島などの僻地や離島に多いことが判明している。九州、四国、東北の各地方におけるATLの好発地域を詳細に検討すると、周囲から隔絶され交通の不便だった小集落でキャリアは高率に温存されている。東京、大阪、名古屋、福岡などで観察される患者の90%以上は沖縄県・南九州・長崎県などのATL好発地帯からの移動者で占められていた。 以上より、日沼頼夫はこのウイルスのキャリア好発地域は、縄文系の人々が高密度で残存していることを示していると結論付けた[23]。HTLVはかつて日本列島のみならず東アジア大陸部にも広く分布していたが、激しい淘汰が繰り返されて大陸部では消滅し、弥生時代になってウイルス非キャリアの大陸集団が日本列島中央部に多数移住してくると、列島中央部でウイルスが薄まっていったが、列島両端や僻地には縄文系のキャリア集団が色濃く残ったものと考えられる。 」
 

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