Toll様受容体(Toll-like receptor、TLR)は動物の主に細胞表面にある受容体タンパク質であり、様々な病原体を感知して自然免疫(炎症性サイトカインやインターフェロンの産生・放出など)を作動させるセンサーとしての機能があります。その病原体を認識する方法は、パターン認識といって、病原体のある程度共通している構造を識別するものです。その反応時間は獲得免疫(T細胞やB細胞による反応)より早く、真っ先に自然免疫反応が始まります。自然免疫反応によって病原体が排除されれば、獲得免疫が働くことはありません。
なおToll様受容体が認識するのは抗原などのタンパク質ではなく、多くは細菌やウイルスなどの核酸や脂質(アジュバンド)です。樹状細胞が抗原提示する際にアジュバンドの違いにより、ヘルパーT細胞の性質(1型・2型)が決まるようです。
また、TLR3、TLR7、TRL8のように細胞内の小胞にあって、ウイルスのRNA(免疫細胞などにより分解された断片)を認識できるものもあります。
Tollとは、1980年代にドイツ人生物学者のクリスティアーネ・ニュスライン=フォルハルトによりショウジョウバエの発生において背と腹の軸を決定する遺伝子として発見されたものです。
1996年、ジュール・ホフマン(2011年ノーベル生理学・医学賞受賞)がそれが真菌に対する免疫としても働いていることを発見。
1997年、イェール大学のCharles Janewayやルスラン・メジトフらが哺乳類にもToll遺伝子と同様の遺伝子を発見して、これをToll-like receptorと命名しました。
1998年、ブルース・ボイトラー(2011年ノーベル生理学・医学賞受賞)がTLR4によってリポ多糖が認識されることを発見しました。その後には、他のTLRによって認識される病原体が続々と発見され特定されました。
TLRは哺乳動物で10から15種類が確認され、ヒトでは10種類(TLR1からTLR10と呼ばれる)が見つかっています。
なおTLRの発見には大阪大学免疫学フロンティア研究センター特任教授の審良静男教授の貢献が大きいようです。
「2011 年Gairdner 国際賞における審良静男の受賞理由の解説
…審良らは、哺乳動物で約10 種類あるTLR の機能解析を通じ、自然免疫が極めて特異的に病原体を認識することを発見した。その病原体とは、種々の細菌の表面成分、腸内細菌の鞭毛成分、バクテリア・ウィルスに特有のDNA・RNA などである(Fig. 2)。
TLR4 が病原体膜構成成分を認識することの証明
リポ多糖(LPS) は、グラム陰性菌の細胞表面に存在し、敗血症ショックの中心的な原因物質である。審良はTLR4 ノックアウトマウスとTLR2 ノックアウトマウスを作製し、これらマウスの細菌細胞膜成分に対する反応性を比較した結果、TLR4 がLPS 受容体であり、 TLR2 は関係しないことを証明した。現在、TLR4 を阻害することにより敗血症ショックを抑える薬の開発が進んでいる。
TLR5 が鞭毛の構成成分を認識することの発見
鞭毛は細菌が水中を動きまわるための装置である。審良らは米国のAlan Aderem との共同研究により、TLR5 が、鞭毛の構成タンパク質であるフラジェリンを認識する受容体であり、腸内細菌の体内(腸の外側)への侵入を感知して炎症反応を引き起こすことを明らかにした。
TLR5 が鞭毛の構成成分を認識することの発見
鞭毛は細菌が水中を動きまわるための装置である。審良らは米国のAlan Aderem との共同研究により、TLR5 が、鞭毛の構成タンパク質であるフラジェリンを認識する受容体であり、腸内細菌の体内(腸の外側)への侵入を感知して炎症反応を引き起こすことを明らかにした。
TLR7 が抗ウィルス剤イミダゾキノリン誘導体とウィルス由来一本鎖RNA の受容体であることの発見
審良らはTLR7 がイミダゾキノリン(imidazoquinolines) に属するImiquimod とR-848(Resiquimod) を認識し、その後のサイトカイン誘導や免疫反応誘導に必須であることが明らかにした。イミダゾキノリンは、現在、新たな抗ウィルス剤として臨床応用されている合成化合物である。この結果は、TLR を介した自然免疫系の活性化が合成化合物でも誘導でき、種感染症、ガンなどの免疫療法に応用できることを直接証明したものである。その後、TLR7 が細
胞内のエンドソームにおいて、ウィルス由来の一本鎖RNA を認識することを明らかにし、TLR7が体内へのウィルス侵入を感知する受容体であることを証明した。
TLR9 が細菌およびウィルスのDNA(CpG DNA) を認識する受容体であることの発見
審良らはTLR9 のノックアウトマウスを作製し、その役割を調べた結果、エンドソームにおいて、TLR9 が細菌やウィルスに特有のDNA (CpG-DNA) に対する応答に必須の受容体であることを証明した。この研究成果はNature 誌に掲載されたが、同論文の被引用数は2700 を超え(2011年3 月現在)、記録的となっている。(引用終わり)」
審良らはTLR7 がイミダゾキノリン(imidazoquinolines) に属するImiquimod とR-848(Resiquimod) を認識し、その後のサイトカイン誘導や免疫反応誘導に必須であることが明らかにした。イミダゾキノリンは、現在、新たな抗ウィルス剤として臨床応用されている合成化合物である。この結果は、TLR を介した自然免疫系の活性化が合成化合物でも誘導でき、種感染症、ガンなどの免疫療法に応用できることを直接証明したものである。その後、TLR7 が細
胞内のエンドソームにおいて、ウィルス由来の一本鎖RNA を認識することを明らかにし、TLR7が体内へのウィルス侵入を感知する受容体であることを証明した。
TLR9 が細菌およびウィルスのDNA(CpG DNA) を認識する受容体であることの発見
審良らはTLR9 のノックアウトマウスを作製し、その役割を調べた結果、エンドソームにおいて、TLR9 が細菌やウィルスに特有のDNA (CpG-DNA) に対する応答に必須の受容体であることを証明した。この研究成果はNature 誌に掲載されたが、同論文の被引用数は2700 を超え(2011年3 月現在)、記録的となっている。(引用終わり)」
「…RNAウイルスの場合には、特に異物レセプターのTRL7、RIG-1やMDA-5などが重要な働きをします。
これらの異物レセプターによってウイルスRNAが認識されると、レセプターの下流に存在する転写因子とよばれる一群のタンパク質が活性化されて、その結果、感染細胞の中でウイルス防御に関連した遺伝子の働きが始まります。
…RNAを認識する異物レセプターの一つTLR7にウイルスRNAが結合すると、TLR7の下流に存在する転写因子複合体のNFκBが核内に移動して、炎症性サイトカイン遺伝子のプロモーターに結合します。炎症性サイトカイン遺伝子の転写が始まります。
このようにして、炎症性サイトカインが細胞内で作られて、細胞外に放出されます。
…一方、RIG-1やMDA-5にウイルスRNAが結語すると、その下流にある別の転写因子(IRF3とIRF7)が働きます。これらの転写因子はリン酸化された後に核に移行します。そして、Ⅰ型インターフェロン遺伝子とⅢ型インターフェロンがそれぞれ産生されるようになります。これによって抗ウイルス反応が始まります。(引用終わり)」
「…樹状細胞が抗原提示したとき、同時にエンドトキシンなどの細菌やウイルスの成分(アジュバンド)で刺激された場合、つまり細菌感染やウイルス感染の場合は、細菌やウイルスの核酸や脂質成分を認識するTOLL様受容体を介して樹状細胞はインターロイキン12を分泌します。また、その膜構造に変化が生じます。その結果、樹状細胞と接触しているナイーブ細胞はサイトカインとしてインターフェロンγを分泌し始めます。
つまり、TOLL様受容体が認識するのは抗原やアレルゲンなどのタンパク質ではなく、細菌のウイルスに存在する特有の構造を持つ核酸や脂質などのアジュバンドなのです。このアジュバンドの作用により樹状細胞の膜構造などの変化を経て、ナイーブT細胞はインターフェロンγを分泌する1型ヘルパー細胞に変身しながら増殖していきます。
樹状細胞がアレルゲンと遭遇し、アレルゲン構造物をナイーブT細胞に提示したときにプロスタンという物質で同時刺激された場合は、細菌やウイルス由来のアジュバントにTOLL様受容体を刺激されたときとは別な膜構造を持つようになります。その結果、樹状細胞と接触するナイーブ細胞は先ほどのインターフェロンγではなく、今度はインターロイキン4を分泌し始めます。つまり、ナイーブ細胞はインターロイキン4を分泌する2型ヘルパー細胞に変身しながら増殖します。(引用終わり)」
「Toll様受容体(トルようじゅようたい、Toll-like receptor:TLRと略す)は動物の細胞表面にある受容体タンパク質で、種々の病原体を感知して自然免疫(獲得免疫と異なり、一般の病原体を排除する非特異的な免疫作用)を作動させる機能がある。脊椎動物では、獲得免疫が働くためにもToll様受容体などを介した自然免疫の作動が必要である。
TLRまたはTLR類似の遺伝子は、哺乳類やその他の脊椎動物(インターロイキン1受容体も含む)、また昆虫などにもあり、最近では植物にも類似のものが見つかっていて、進化的起源はディフェンシン(細胞の出す抗菌性ペプチド)などと並び非常に古いと思われる。さらにTLRの一部分にだけ相同性を示すタンパク質(RP105など)もある。
TLRやその他の自然免疫に関わる受容体は、病原体に常に存在し(進化上保存されたもの)、しかも病原体に特異的な(宿主にはない)パターンを認識するものでなければならない。そのためにTLRは、細菌表面のリポ多糖(LPS)、リポタンパク質、鞭毛のフラジェリン、ウイルスの二本鎖RNA、細菌やウイルスのDNAに含まれる非メチル化CpGアイランド(宿主のCpG配列はメチル化されているので区別できる)などを認識するようにできている。
TLRは特定の分子を認識するのでなく、上記のようなある一群の分子を認識するパターン認識受容体の一種である。
…Toll遺伝子(en)は1980年代にショウジョウバエで正常な発生(背腹軸の決定)に必要な遺伝子として、ドイツ人生物学者のクリスティアーネ・ニュスライン=フォルハルト(1995年ノーベル生理学・医学賞受賞)によって発見された("Toll"はドイツ語で"Great"と"Curious"の両義をもつ語)が、1996年には、ジュール・ホフマン(2011年ノーベル生理学・医学賞受賞)によって真菌に対する免疫としても働いていることが明らかになった。
さらに1997年、イェール大学のCharles Janewayやルスラン・メジトフらによって、哺乳類にもToll遺伝子と相同性の高い遺伝子が見つかり、これがToll-like receptorと命名された。1998年、ブルース・ボイトラー(2011年ノーベル生理学・医学賞受賞)によってTLR4がリポ多糖を認識することが発見されたのを皮切りに、各TLRのリガンドが解明されていった。
ほとんどの哺乳動物で10から15種類のTLRが確認されている。ヒトでは10種類(TLR1からTLR10と呼ばれる)があり、他の種でもそれらの多くに対応するものがあるが、一部はない(例えばTLR10に対応する遺伝子はマウスにもあるが、レトロウイルスにより破壊されている)。またヒトにはないが他種にあるものもある。
(引用終わり)」
「自然免疫系は、生体に侵入した病原体をいち早く感知し、発動する第一線の生体防御機構である。「病原体を感知(認識)する」ことは、自然免疫系を活性化するための必須の要素で、主にマクロファージや樹状細胞などによって行われる。これらの細胞は、パターン認識受容体(pattern-recognition receptor: PRR)を介して微生物の持つ共通した分子構造(pathogen-associated molecular pattern: PAMP)を認識する。PRRは、PAMPを認識すると、細胞内シグナル伝達系を活性化し、病原体排除に必要な生体防御機構を誘導する。また、第二の生体防御機構である獲得免疫系の誘導に樹状細胞が重要な役割を果たしているが、PRRによるシグナル伝達によって樹状細胞の成熟も促進され
る。
Toll-like receptor(TLR)はPRRとして初めて同定された受容体で、多くのPAMPを認識することが明らかとなっている。TLRは、外部領域、膜貫通領域、細胞質内領域を持つI型膜貫通たん白質である。外部領域に存在するロイシンリッチリピート部分でPAMPを認識し、細胞質内領域のToll-IL-1 receptor(TIR)部分で下流のシグナル伝達系を活性化する。TLRは細胞表面、あるいは細胞内小胞上に発現している。これまでにヒトでは10、マウスでは12のTLRが同定されている。それぞれのTLRはウイルスや細菌、真菌、寄生虫固有のPAMPを認識する(表参照)。TLRはPAMPを認識すると、TIR(前述)にMyD88やTRIFというアダプター分子をリクルートすることによりNF-kBやMAPキナーゼ、IRF-3経路などのシグナル伝達系を活性化し、炎症性サイトカインやI型インターフェロン、ケモカイン、抗菌ペプチドの産生を誘導する。」
「…TLR9とCpG DNAの複合体の結晶をSPring-8の構造生物学ビームラインBL41XUで解析しました(図3)。「結晶は100 µm(0.1 mm)と小さく、十分な大きさではなかったのですが、1.6 Åという非常に高い解像度のデータを取ることができました。X線が高輝度で非常に強く、高い平行性を持ったSPring-8でなければ、これほどの高解像度での構造解析は難しかったでしょう」と大戸さんは言います。TLR9とCpG DNAは2対2の比率で結合して、2量体を形成していました。CpG DNAはTLR9の溝にはまり込むことで認識されるというメカニズムも明らかになりました。
(引用終わり)」