マウンテンドームアドベンチャー 白ヒゲおやじのエッセイ

この日記は1990年から数年間、高聴取率を誇り本にまでなった人気FM番組の20周年記念としての復活版である。

ミュージシャンあらかると

2008年06月20日 | Weblog
 いよいよバースデーライブも10日後に迫った。
 きょうは数年前にやってきた自称「アウトドアー・ミュージシャン」を紹介しよう。

 春先にもかかわらず、なんと-30℃の第一級寒気団が日本列島を襲ってくるという夜に、
「彼女と焚き火を囲んでギターを弾いて歌いたい」という中年カップルがやってきた。
 ナイロンパーカーをかぶり、頭には懐中電灯、という完全武装の彼とは反対に、彼女は涼しそうな花柄のスプリングスカートにヒールだ。ということはコミュニケーションがとれていないのか。ということは知り合って間もない不倫の初心者か。オレの目はごまかせない。

 おりからの真冬に逆戻りしたような厳寒の闇の中、焚き火を囲んでライブが始まった。
 オレは熱燗一升ビンで暖をとっているが、彼はキンキンに冷えた缶ビールだ。焚き火に近づこうにも近づけない服装の彼女が可哀想。

 凍える指で歌本を捲り、チューニングのずれたギターを爪弾き、凍える声で唄う彼の姿は、あまりにも痛々しい。彼女も、彼の奏でる音楽とは、関係なく全身を小刻みに震わせている。

 「建物内へ行っか?」
 オレの助け舟に彼女が一瞬、「助かったー」風に腰を上げようとした。
 ところが、
 「いいいいいやっ。しししし自然の中がいいいいー」
 とガチガチ声で拒絶する彼。
 力なくまた腰を落とす彼女。このままでは氷像になってしまう。
 
 そのうち、がまんできずに「おい、チューニング」と、つい。
 すると、素人は黙ってろ! 風に、「なんで?」ときた。
 「い、いや、別に……」とオレ。
 これほど自信満々の男も珍しい。

 そのうちオレの大嫌いな歌が始まった。千春の「長い夜」だ。
 ただでさえ長~い歌である。それをまたトチッては「あれっ?」、詰まっては「アりーッ?」。
 まるでザ・ぼんちのおさむちゃん風に首を傾げて繰り返すばかり。よって、いつまでたっても終わりがこない。

 しかしオレの協力にも限度がある。
 心を鬼にして「えがった、えがった。メッチャ、えがったぁー」と、手を叩いて無理やり幕を下ろさせた。彼女は凝まっていたのか、しばらく立てなかった。

 しかし愛人にいいところを見せたい一心で頑張ったヤツも凄いが、それに堪えていた彼女はもっともっと誉めてやりたかった。

 しかしいろんなミュージシャンがいるもんだ。

  ―写真はマウンテンドーム・ギター教室・第一期卒業生たち―

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