世界はキラキラおもちゃ箱・2

わたしはてんこ。少々自閉傾向のある詩人です。わたしの仕事は、神様が世界中に隠した、キラキラおもちゃを探すこと。

クプダ⑥

2018-06-20 04:12:34 | 風紋


セムドは家の外に出て、藁を打っていた。アシメックの姿を見ると立ち上がって挨拶をしようとしたが、その前にアシメックが話し出した。今度も怪訝な顔がアシメックを待っていた。

「イタカに、沼を?」
「ああ、広げるのだ」
「確かに、沼が広くなれば、米の収穫量も増えるが」
「ああ、ヤルスベの要求にも対処できる」
「しかし、ほかにもっと簡単な方法があるだろう。溝を掘って川を作るなんて」
「男が十人もいたら、ひと夏でできる。人集めをしてくれないか。やってみたいんだ」

アシメックは熱を持ってまくしたてた。その様子が少し気ちがいじみて見えたので、セムドは少し落ち着けと言った。言われて、アシメックも少し度を失っていたことに気付いた。自分の思い付きに酔っていたらしい。だが、夢で聴いたカシワナカの声は、このことだとしか思えなかった。

アシメックはもう一度セムドに人集めをしてくれと頼んだ。それはセムドの仕事だからだ。しかしセムドはいい顔をしなかった。

冬は寒い。春は鹿狩りが忙しい。野でそんな大それた仕事をするとしたら、夏しかなかった。しかしそれでは夏の土器づくりが難しくなる。土器づくりは重要だ。毎年作れば作るだけ、壊れる土器も多いのだ。余っている人員は少ない。

「……トカムは、何とかなる。あれはいまだにろくな仕事をしてないんだ。だがほかのやつは、難しい」
セムドは細い声で言った。まだ頭がアシメックの考えについていけないのだ。

「そうか、トカムには声をかけておこう。とにかく、夏までに人を選んでおいてくれ。それまでに、おれは細かい計画を考える」

そう言ってアシメックはまた、セムドの元を離れた。足は自然にまたイタカの野に向かった。




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