二艘の舟はだんだんこちらの岸に近づいてきた。一艘の舟には四人の人間が乗り、もう一艘の舟には漕ぎ手ひとりしか乗っていなかった。もちろん、帰る時には空の舟に米を載せて帰るつもりなのだ。
やがて舟がこちらの岸に近づいた。ダヴィルが合図すると、川の漁師たちが川に飛び込んで、舟をつかみ、岸に導いた。すると舟の先頭に座っていた男が立ち上がり、腕をあげて、ヤハ、と言った。アシメックは知っていた。その赤ら顔の男がゴリンゴであり、ヤハが、「われは」という意味の挨拶の言葉であることを。
アシメックも腕をあげ、ヤハ、と返した。すると、ゴリンゴの後ろに座っていたものも立ち上がった。そのとき、アシメックの後ろでざわめきが起こった。
「アロンダだ……」
それを聞いてアシメックも少々びっくりした。ゴリンゴの後ろで立ち上がったのは、女だった。それも実に美しい女だった。
その名はヤルスベ族にもカシワナ族にも知らない者はいない。アロンダは、彼らの知っている世界の中では最も美しい女だった。
アシメックは後ろをちらりと見た。楽師たちが呆然とアロンダを見ている。彼は少し目を曇らせた。ヤルスベは、単に自分たちの美女を見せつけたいだけではないに違いない。これがミコルの言っていた不安材料かと、アシメックは思った。
舟から下りてきたヤルスベ族の人間は、総勢で五人だった。ゴリンゴとアシメックは、しばし岸辺で向かい合って立ち、にらみ合った。アシメックはゴリンゴの鋭い眼光に答えながら、この男をしばしためつすがめつ見た。