ちなみにこのころには、文字はなかったが、ヒエログリフの原型のようなものはあった。人々は、線刻で奇妙におもしろい絵を描き、それに暗号的な意味を付して楽しんでいた。この至聖所の岩にきざみこまれた文様は、その一種だ。遠い昔、彼らの祖先が、三角形の記号に神聖なものという意味を付し、それを二重にすることによって、最も偉い神であるカシワナカのしるしにしたのである。
似たような文様が、アシメックの頬にもある。赤土で描いた三角形の模様は、神カシワナカのしるしだった。
村を横切ってひとしきりあるくと、至聖所についた。青みがかった大きな岩がそこにあり、堂々とカシワナカのしるしが彫り込まれていた。ミコルはそれを見ると、蛙がとつぜんつぶれたかのように頭を下げ、まじないの言葉をつぶやきながら、土器の皿を至聖の岩の前においた。それは神カシワナカへの捧げものであり、今年も米をもらったことへの感謝のしるしだった。
クルトマニマニ
クルトトラマニ
コラマサリリ
アルカラメリ
カシワナカ
偉い偉い神よ
何でも下さる神よ
今年もたくさん米がとれた
アルカラの豊穣に感謝を
カシワナカの神よ
歌いながら、ミコルは涙を流していた。こうして深い祈りをしているとき、ミコルは神の声を聞くことができるという。そんなときは、魂が震えて、涙が出るという。