イタカの野に向かうとちゅう、サリクはスライの家の前で、もう完璧に仕上がっている稲舟を見た。サリクは胸が高鳴った。もし今日コクリが咲いていたら、いよいよ稲刈りが始まる。まずはあの船を沼に運ばねばなるまい。仕事がどんどん増える。ああ、働きたい。働きたい。おれは、働きたい。
村の境を過ぎると、急に青草が茂り始め、イタカの野が始まった。サリクはしばらく野を走り、目をつけていた小さな岩を目指していった。イタカの野に転がっているその小さな岩の陰に、結構大きなコクリの株があった。昨日はその株に十分に膨らんだつぼみをいくつか見た。きっと今朝は咲いているに違いない。空を見ると、雲の形がもう秋を教えている。
サリクは岩を見つけると飛びつくようにその岩陰のコクリを覗いた。
「おおっ!」
サリクは声をあげた。小さな五弁の白いコクリの花が、星のようにいくつか咲いていたのだ。青い葉群の中に清らかに咲いたその花は、まるで透き通った露のようにきれいだった。サリクは涙が出そうだった。
はじまるぞ! 稲刈りがはじまるぞ!
そう思ったサリクは思わずコクリの茎をつかみ、その花を手折った。そしてそのまま走り出した。思い描いているのは、アシメックの家だ。彼はそこを目指して一直線に走った。
野を横切り、村の道を夢中で走り、サリクはアシメックの家を目指した。その家が見えるころ、まるで申し合わせたかのように、アシメックが出口から出てきた。サリクはそれを見た時、一瞬、彼の背にカシワナカの翼が見えたような気がした。偉大な男よ! サリクは思わず心の中で言った。そしてわけのわからぬ声をあげながら、咲いたコクリの花を示しつつ、アシメックの足元に飛びついた。