週刊「スピリッツ」(小学館)に連載されていた、異色のバレエマンガ「MOON 昴 ソリチュードスタンディング」(曽田正人、ビッグコミックス)が先月、完結しました。「昴」(同じくビックコミックス)の時から読んでましたが、ぐいぐい惹きつけられるマンガです。
主人公の天才バレエダンサー・宮本すばるの物語、と書いただけでは全然わからない素晴らしさ・面白さが、このマンガにはあります。
一つは、天才たちがバレエを踊る辛苦、歓喜を描いて、バレエの真髄を垣間見せてくれること。特に、心理面の掘り下げが独特で、真に迫る描き方です。バレエというダンス芸術をここまで掘り下げたマンガはないと思います。山岸凉子の「テレプシコーラ」だって、槇村さとるの「Do Da Dancin’!」だって、もちろん、バレエの技術的なことや登場人物の心理とかも絡めて描いていますが、この「昴」+「MOON]にはかなわないです。
マンガというよりも、小説とか物語とかフィクションにだって、こんな濃い内容のものはないでしょう。文字だけで表現するには非常に難しいバレエというテーマを、絵と文字で表現するマンガ。マンガの「伝える力」のすごさをあらためて感じます。
もう一つは、家族との人間関係を軸にした、すばるの精神的な葛藤とか成長。バレエの描き方にはゾクゾクさせられましたが、このもう一つのテーマには、結構泣かされました。弟の死を背負い苦しみ、母に愛されていないと思い込むすばるに、何度も涙しました。
好きなお話は、盲目のダンサー・ニコとの信頼関係を築くあたりの話。さらなる高みを目指すシーンが、すごく印象的です。こういう飽くなき探求心が、芸術を(芸術だけじゃないけれど)生み出すのだなあ、と思います。ただの“恋愛”だけじゃないパートナーって、すごくあこがれます。
絵は、線が粗いし、いわゆる「綺麗な絵」とは全然違う描き方で、最初は「何でこんなふうに描くんだろう」と思ってました。でもこれは、作者さんのコメントかインタビューをかなり前に読んだことがあるのですが、意図的にそういう描き方をしているのだということです。“アート”ではなく、表現したいものを伝えるためのツールとしての“絵”なんだ、とすごく納得したのを覚えています。