巨匠ペドロ・アルモドバル監督作品は、私が映画ファンになった頃に見た
オール・アバウト・マイ・マザー以降全部見ている。とはいうものの、理解度は
低く、ペネロペ・クルスが出演しなかったら見ていなかったであろう。でも、
ボルベールのペネロペが酒場で歌うシーンは最高だったし、今回の宣伝チラシ
の顔面白マスク姿の美女も気になったので、ペネロペ抜きでも行ってきました。
芸術的だが生活感のない広いワンルーム部屋。ヨガのポーズをとる美女。
ストッキングのような布で包まれた肢体。インターフォン越しに初老のメイド
マリリカと会話を行い、荷物専用エレベータを経由してものをうけとる様は、
まるで無菌室にいる患者のようだ。でも、部屋の外は見えない、覗かれるだけ。
名前はベラ。妖怪人間ではない。演じているのは、ヴァンヘルシングで、
ドラキュラの花嫁三人のうちの一人を演じたエレナ・アナヤ。
覗いているのは、整形外科医で、人工皮膚の世界的権威ロベル・レガル。
覗いているといっても、自室のスクリーンは壁一面を多い尽くすような大きさ。
リモコンを使ってドアップで映し出される顔をみていると、アイドルビデオの
ようでもあり、大きすぎて逆に見ているロベルの後ろ姿が小さくも見える。
事前情報によると、ロベルは変態なのだが、卑猥なポーズを要求するでもなく
その目つきは、顕微鏡をのぞきこむ研究中の目と変わりがない。演じるのは
スペイン生まれの色男、アントニオ・バンデラス。
しかも、ロベルは、白衣に着替えてエアシャワーを通り抜けることもなく
背広のままベラの部屋へと入って行った。無菌室では、なかったのだ。だが、
愛し合うでもなく、ビジュアル的には美男美女夫婦なのだが、なにかがおかしい。
この時点で、私は、失った妻の遺伝子を使ってクローン人間を作り出したのでは
ないかと思ってみていたのだが・・・・。
前半は、謎が謎を呼びながらも、奇妙な人間関係が緊張感とともに続いていた。
その均衡を破ったのは仮装祭からぬけだしてきた、虎の衣装を着たセカ。初老
メイドの息子。こちらは典型的な変態・悪漢。体も大きく獰猛。モニタにで、
ベラをみつけると舌なめずりし、何と、母を縛りあげて鍵を奪い取り、無菌室へ。
異変に気づいたベラは、ヨガで精神統一をはかろうとするも落ち着かない。
鍵を開けて入ってきたのと入れ違いに脱出をはかるが、すぐに追い詰められる。
足元へのタックルを、必死に振りほどこうと倒れた体勢で、足をバタつかせ
蹴りあげるベガ。特殊なストッキングをまとった美女と、虎の衣装の大男。
衝撃的な展開のなか、思わぬ言葉がベラの口から飛び出す。「連れて行って」
一体ベラは何者なのか?
◆そろそろ、ネタバレがはじまります。見に行かれる方は、このあたりでストップ
することをお勧めしますが、主人公の変態ぶりで印象に残ったシーンをひとつ。
ロベルは、ベラを幽閉・調教?しているのですが、ベラに"あそこ"を拡張させるため
インテリアのように、生物模型のような生生しいコケシをおいてゆきます。それも、
十本ぐらいあったでしょうか。人差し指大、親指大、だんだん大きくなって
オロナミンC大、そして最後はフランスパン。そんなに大きくはなかったかな?
これを黒いかばんからひとづずつ取り出して、計算されたように等間隔で並べます。
黒の背景に肌色の彫刻が映え、なんともスタイリッシュで芸術的。思わずクスっと
笑ってしまいましたが、ロベルは、二コリともせず、芸術に昇華したかのような
変態の格の違いを見せつけていました。
◆中レベルのネタバレ。
さて、前作の「抱擁のかけら」でもそうだったのですが、結構ストーリーは、
昼メロ的ドロドロで、複雑な血筋の人間関係があります。そのあたりが、中盤から
だんだんとほどけてくるわけですが、ここでは、あっさりと整理してしまいます。
なので、見てから読んだ方がいいですよ。
【レガル家の歴史】
さて、まず、主人公のロベル。自分の出生についてはよく知らないのですが、
実は初老のメイド、マリリカの息子だったのです。マリリカは、昔から大富豪
レガル家のメイドだったのですが、子供のないレガル家のために、ロベルを
生んだということ。つまりセカとは異父兄弟で、ロベルは大富豪の家に、一方
セカは、子供の頃から麻薬の売人として生きてきたのでした。
ロベルは、大人になり医者となり、結婚し長女にもめぐまれました。ところが
12年前、妻がセカと駆け落ち、交通事故で、妻は全身大やけど。一命を
とりとめるも、自分の姿を鏡でみて飛降り自殺。以降、ロベルは人口皮膚の
研究に没頭します。
もうひとつの悲劇がおきたのは6年前。ロベルは、娘ノルマとパーティーに
出席します。目の前で母の自殺を見てしまった娘のノルマは、まだまだ精神的に
不安定。男の誘いで、パーティ会場からお庭を出たものの押し倒されると、悲鳴
をあげて気絶。男はたじろいで退散。父親がかけつけたものの、精神病院送り
となり、父親を避けたまま自殺。
◆高レベルのネタバレ
妻に続いて、娘も失ったロベルは、"復讐"に、娘を襲った男を拉致・監禁。
何をするのかと思いきや・・・・。
そうなんです。大きなネタバレ。この男の改造をはじめるのです。前述の、
"芸術コケシ"のシーンも、この男の性転換手術の直後のお話。ここから一体
どうやって、メイドが「奥様にそっくり」というほどのベラにしたてあげた
のかは、突っ込みどころ満載ながらほとんど説明はなし。ただ、肌を丁寧に
はがして貼ってを繰り返してというだけ。死んだ妻の骨格を移植したとか、
私が思ったような遺伝子を使ってといかいうのもなしで、外見上そっくり。
というものの、実際の妻はやけただれた顔しかでていないので、どこまで
そっくりかは不明。でも、もとの男とベラとは身長こそ近いものの、
似ても似つかぬ顔立ちで、こんなことができるなら、どんなブスでも、
チャン・ツィイーや、ペネロペ・クルスになれちゃいますよという驚愕の
技術であります。
【ベラは、ロベルの何なのか?】
ここまでネタバレして、何が書きたかったかといいますと、結局ベラは何
だったのかということ。映画を見ていて、娘を強姦しようとした男を、妻に
仕立て上げて、それで愛せるの?と疑問を持ってみていたのですが、これは
もう愛でも何でもないというのが私の理解です。妻が浮気をしたうえで自殺、
娘も自殺、医者でありながら救えなかった自分。普通の人間ならここで、
戦意喪失、あるいは復讐で殺してしまうか、少なくとも合いたくもないこと
でしょう。でも、もともと研究者としてのプライドが高く、人間実験が
したかったロベルにとって、この男はかっこうの材料だったのでしょう。
お前は娘を死に至らせた。だから俺はお前をどう扱おうとも許されるのだ。
そこまで思わないにしても、彼なりのルールとして、自分の行いをある程度
正当化できたのが、この男だったのだと思います。
昔、アントニオ猪木さんが、タイガージェットシンと戦っていた頃。
「プロレスにとって何が一番大切ですか?」と聞かれ「信頼関係です。」と
答えたことがあった。この信頼関係というのは、「こうやりましょう」
「そうしましょう」という約束を守るような信頼関係ではなく、「お前が
そこまでするのなら俺もここまでやるぞ。」「お前が俺の腕をおるなら、
俺もお前の腕を折ってもよいな。」という、戦う者同士の暗黙のルールの
ようなものと私は理解したのでした。ロベルは既に人間を愛することが
できなくなっており、ましてや男を、変身したベガをも愛することは、
できなかったでしょう。映画の終盤で、盆栽に興じる姿がでてきますが、
ベガを育てるのも同じで、人間として愛することはなかったでしょう。
二人の交わりも、少しの自由を与えたのも、ベガを完成させるため、
そしてどんなに完成度が高まっても満たされることのないのがロベルの
心であったと思います。
【表と裏、残った謎】
ロベルがこの映画の表の主人公とすれば、裏の主人公は前述の男でしょう。
表については完全ネタバレにしてしまいましたが、裏の主人公については
少し感動的でしたが、言わずに止めておきます。
ところで、最後にこの男が来ていた服は、一体どこで手に入れたのか?
もう一度みて確かめたい気もしますが、最近は見たい新作も多いので、
見て気づかれた方がおられましたら、是非お教えください。
オール・アバウト・マイ・マザー以降全部見ている。とはいうものの、理解度は
低く、ペネロペ・クルスが出演しなかったら見ていなかったであろう。でも、
ボルベールのペネロペが酒場で歌うシーンは最高だったし、今回の宣伝チラシ
の顔面白マスク姿の美女も気になったので、ペネロペ抜きでも行ってきました。
芸術的だが生活感のない広いワンルーム部屋。ヨガのポーズをとる美女。
ストッキングのような布で包まれた肢体。インターフォン越しに初老のメイド
マリリカと会話を行い、荷物専用エレベータを経由してものをうけとる様は、
まるで無菌室にいる患者のようだ。でも、部屋の外は見えない、覗かれるだけ。
名前はベラ。妖怪人間ではない。演じているのは、ヴァンヘルシングで、
ドラキュラの花嫁三人のうちの一人を演じたエレナ・アナヤ。
覗いているのは、整形外科医で、人工皮膚の世界的権威ロベル・レガル。
覗いているといっても、自室のスクリーンは壁一面を多い尽くすような大きさ。
リモコンを使ってドアップで映し出される顔をみていると、アイドルビデオの
ようでもあり、大きすぎて逆に見ているロベルの後ろ姿が小さくも見える。
事前情報によると、ロベルは変態なのだが、卑猥なポーズを要求するでもなく
その目つきは、顕微鏡をのぞきこむ研究中の目と変わりがない。演じるのは
スペイン生まれの色男、アントニオ・バンデラス。
しかも、ロベルは、白衣に着替えてエアシャワーを通り抜けることもなく
背広のままベラの部屋へと入って行った。無菌室では、なかったのだ。だが、
愛し合うでもなく、ビジュアル的には美男美女夫婦なのだが、なにかがおかしい。
この時点で、私は、失った妻の遺伝子を使ってクローン人間を作り出したのでは
ないかと思ってみていたのだが・・・・。
前半は、謎が謎を呼びながらも、奇妙な人間関係が緊張感とともに続いていた。
その均衡を破ったのは仮装祭からぬけだしてきた、虎の衣装を着たセカ。初老
メイドの息子。こちらは典型的な変態・悪漢。体も大きく獰猛。モニタにで、
ベラをみつけると舌なめずりし、何と、母を縛りあげて鍵を奪い取り、無菌室へ。
異変に気づいたベラは、ヨガで精神統一をはかろうとするも落ち着かない。
鍵を開けて入ってきたのと入れ違いに脱出をはかるが、すぐに追い詰められる。
足元へのタックルを、必死に振りほどこうと倒れた体勢で、足をバタつかせ
蹴りあげるベガ。特殊なストッキングをまとった美女と、虎の衣装の大男。
衝撃的な展開のなか、思わぬ言葉がベラの口から飛び出す。「連れて行って」
一体ベラは何者なのか?
◆そろそろ、ネタバレがはじまります。見に行かれる方は、このあたりでストップ
することをお勧めしますが、主人公の変態ぶりで印象に残ったシーンをひとつ。
ロベルは、ベラを幽閉・調教?しているのですが、ベラに"あそこ"を拡張させるため
インテリアのように、生物模型のような生生しいコケシをおいてゆきます。それも、
十本ぐらいあったでしょうか。人差し指大、親指大、だんだん大きくなって
オロナミンC大、そして最後はフランスパン。そんなに大きくはなかったかな?
これを黒いかばんからひとづずつ取り出して、計算されたように等間隔で並べます。
黒の背景に肌色の彫刻が映え、なんともスタイリッシュで芸術的。思わずクスっと
笑ってしまいましたが、ロベルは、二コリともせず、芸術に昇華したかのような
変態の格の違いを見せつけていました。
◆中レベルのネタバレ。
さて、前作の「抱擁のかけら」でもそうだったのですが、結構ストーリーは、
昼メロ的ドロドロで、複雑な血筋の人間関係があります。そのあたりが、中盤から
だんだんとほどけてくるわけですが、ここでは、あっさりと整理してしまいます。
なので、見てから読んだ方がいいですよ。
【レガル家の歴史】
さて、まず、主人公のロベル。自分の出生についてはよく知らないのですが、
実は初老のメイド、マリリカの息子だったのです。マリリカは、昔から大富豪
レガル家のメイドだったのですが、子供のないレガル家のために、ロベルを
生んだということ。つまりセカとは異父兄弟で、ロベルは大富豪の家に、一方
セカは、子供の頃から麻薬の売人として生きてきたのでした。
ロベルは、大人になり医者となり、結婚し長女にもめぐまれました。ところが
12年前、妻がセカと駆け落ち、交通事故で、妻は全身大やけど。一命を
とりとめるも、自分の姿を鏡でみて飛降り自殺。以降、ロベルは人口皮膚の
研究に没頭します。
もうひとつの悲劇がおきたのは6年前。ロベルは、娘ノルマとパーティーに
出席します。目の前で母の自殺を見てしまった娘のノルマは、まだまだ精神的に
不安定。男の誘いで、パーティ会場からお庭を出たものの押し倒されると、悲鳴
をあげて気絶。男はたじろいで退散。父親がかけつけたものの、精神病院送り
となり、父親を避けたまま自殺。
◆高レベルのネタバレ
妻に続いて、娘も失ったロベルは、"復讐"に、娘を襲った男を拉致・監禁。
何をするのかと思いきや・・・・。
そうなんです。大きなネタバレ。この男の改造をはじめるのです。前述の、
"芸術コケシ"のシーンも、この男の性転換手術の直後のお話。ここから一体
どうやって、メイドが「奥様にそっくり」というほどのベラにしたてあげた
のかは、突っ込みどころ満載ながらほとんど説明はなし。ただ、肌を丁寧に
はがして貼ってを繰り返してというだけ。死んだ妻の骨格を移植したとか、
私が思ったような遺伝子を使ってといかいうのもなしで、外見上そっくり。
というものの、実際の妻はやけただれた顔しかでていないので、どこまで
そっくりかは不明。でも、もとの男とベラとは身長こそ近いものの、
似ても似つかぬ顔立ちで、こんなことができるなら、どんなブスでも、
チャン・ツィイーや、ペネロペ・クルスになれちゃいますよという驚愕の
技術であります。
【ベラは、ロベルの何なのか?】
ここまでネタバレして、何が書きたかったかといいますと、結局ベラは何
だったのかということ。映画を見ていて、娘を強姦しようとした男を、妻に
仕立て上げて、それで愛せるの?と疑問を持ってみていたのですが、これは
もう愛でも何でもないというのが私の理解です。妻が浮気をしたうえで自殺、
娘も自殺、医者でありながら救えなかった自分。普通の人間ならここで、
戦意喪失、あるいは復讐で殺してしまうか、少なくとも合いたくもないこと
でしょう。でも、もともと研究者としてのプライドが高く、人間実験が
したかったロベルにとって、この男はかっこうの材料だったのでしょう。
お前は娘を死に至らせた。だから俺はお前をどう扱おうとも許されるのだ。
そこまで思わないにしても、彼なりのルールとして、自分の行いをある程度
正当化できたのが、この男だったのだと思います。
昔、アントニオ猪木さんが、タイガージェットシンと戦っていた頃。
「プロレスにとって何が一番大切ですか?」と聞かれ「信頼関係です。」と
答えたことがあった。この信頼関係というのは、「こうやりましょう」
「そうしましょう」という約束を守るような信頼関係ではなく、「お前が
そこまでするのなら俺もここまでやるぞ。」「お前が俺の腕をおるなら、
俺もお前の腕を折ってもよいな。」という、戦う者同士の暗黙のルールの
ようなものと私は理解したのでした。ロベルは既に人間を愛することが
できなくなっており、ましてや男を、変身したベガをも愛することは、
できなかったでしょう。映画の終盤で、盆栽に興じる姿がでてきますが、
ベガを育てるのも同じで、人間として愛することはなかったでしょう。
二人の交わりも、少しの自由を与えたのも、ベガを完成させるため、
そしてどんなに完成度が高まっても満たされることのないのがロベルの
心であったと思います。
【表と裏、残った謎】
ロベルがこの映画の表の主人公とすれば、裏の主人公は前述の男でしょう。
表については完全ネタバレにしてしまいましたが、裏の主人公については
少し感動的でしたが、言わずに止めておきます。
ところで、最後にこの男が来ていた服は、一体どこで手に入れたのか?
もう一度みて確かめたい気もしますが、最近は見たい新作も多いので、
見て気づかれた方がおられましたら、是非お教えください。