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借地借家法32条 最高裁は厳しい

2005-08-16 01:22:35 | Weblog
 先日,サブリースについて,最高裁が,敢然として,借地借家法32条の適用があるという判断を示したという話を書いたが,最近,その念押しのような判決が出されていることに気付いた。最高裁平成17年3月10日判決・判例時報1894号15頁である。

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 この判決の事案は,サブリースではなく,オーダーメイド賃貸というのだそうだが,大型スーパーストアの店舗として使用する目的の建物で,賃借人(スーパー)が,建物の位置,規模,構造等のすべてにわたって詳細な指示,要望を出す一方で,多額の建築協力金を賃貸人に差し入れ,賃貸人において,事故所有地の上に,その要望に沿う建物を建築して,駐車場とともに20年契約で賃貸する,という契約である。

 サブリースとの違いは,転貸目的ではなく,賃借人の自己使用目的であることで,したがって,一般的な賃料相場の下落や,賃借物件(賃貸マンションやオフィス)に対する需要の低下の影響を直接には受けない(そのことで賃借人の利益が減少するわけではない)ことである。サブリースの場合には,賃借人が賃借料と転貸料の逆ざやに耐えて苦しむか,オーナーが借入金の返済に苦しむかという,食うか食われるか,の関係があったが,ここではそのようなシビアな関係はない。

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 最高裁が要約した原審判決の事実認定では,本件土地の公租公課が上昇しているほか,賃借人も順調に業績を伸ばしていた(だから賃料を下げないと賃借人の経営が傾くというほどの切羽詰まった状況にもない。)にもかかわらず,また,3年ごとに5%以上(初回は7%)の増額条項があるにもかかわらず,賃借人は,3年目には賃料据置きによる実質的に減額の意思表示をし,6年目には約15%の減額の意思表示をした,というのである。

 その他に細かい事情はあるにせよ,これだけの事実関係からは,いくらなんでも減額はないだろうというのが,素朴な感情からくる結論ではないかと思うのだが,原審の裁判官が,そのような感情を抱いたかどうかはともかく,原判決では,上記のような形態の賃貸借では,一般的な賃料相場や不動産価格の下落から賃料減額の当否を判断するのは著しく合理性を欠く,とした上で,「上記のような契約の特殊性を踏まえた上で,当該賃料の額について賃借人の経営状態に照らして当初の合意を維持することが著しく合理性を欠く状態となり,合意賃料を維持することが当該賃貸借契約の趣旨,目的に照らして公平を失し,信義に反するというような特段の事情があるかどうかによって判断するのが相当である。」という独自の基準を立て,そのような特段の事情はない,という判断をしたのである。

 原判決は,借地借家法32条の適用が「ない」とは言っていないが,事案の特殊性から,その判断基準も特別の基準を立てる必要がある,というものと考えられる。

 しかし,最高裁は,それもダメ,この場合でも,賃料増減額請求の判断をする場合の一般的基準に従って,すなわち,「(借地借家法32条1)項の規定に基づく賃料減額請求の当否及び相当賃料額を判断するに当たっては,同項所定の諸事情(租税等の負担の増減,土地建物価格の変動その他の経済事情の変動,近傍同種の建物の賃料相場)のほか,賃貸借契約の当事者が賃料額決定の要素とした事情その他諸般の事情を総合的に考慮すべきである」という判例の基準に従って判断すべきであり,「独自の基準を設けて,これを判断することは許されないものというべきである。」というのである。

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 これをみると,最高裁も厳しいねぇ,と思える。根本的な論点である借地借家法32条の適用の問題は,平成15年の判例で片が付いているわけだし,今回の事件は,事案的にみても,減額否定でも結論が不当とまではいえないように思える。それでもなお,最高裁は,これは「法令の解釈に関する重要な事項」に当たると判断したのである。

 これは,単に私がサブリースに何となく興味を持っていたことから,やや過剰に反応しているのかもしれないけれども,今回の判決の背景に,借地借家法32条の適用についての,断固たる最高裁の意思があるように感じられてしまうのである。

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 この前も書いたように,サブリース問題は今後は終息していく可能性がある。しかし,オーダーメイド賃貸は,数は少ないにせよ,今後も引き続いて問題となりそうである。いずれにしても,今後は,平成15年判例の藤田補足意見の趣旨を踏まえて,サブリースとかオーダーメイド賃貸という契約の特殊性をどの程度の重みのある事情として考慮していくかが重要な問題となってくるわけで,今後,下級審での裁判例が集積していく中で,どの時点で最高裁が再び判断(今度は,契約の特殊性の考慮が重すぎる,とか軽すぎる,という判断になるだろう。)を示すか。興味のあるところである。



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