Dying Message

僕が最期に伝えたかったこと……

「いf sとry」

2012-12-12 19:03:43 | 小説
 2013年の春に就職が決まって、早いもので1年が経とうとしている。まだ相変わらず仕事には慣れないけれど、要領はほんの少しだけ身に付いてきた、気がする。

 充実感だって間違いなくあるだろう。小さいながら堅実な出版会社に就職し、念願だった雑誌の編集に携わることができた。OBには現在フリーランスで活動する人も多くいて、その中のひとりから目から鱗のアドバイスも頂けた。僕は確かに今、未来へ向かって全力でウサイン・ボルトしている。ほんの1年半前、ニートしていた頃には考えられなかったことだ。

 それなのに僕は満たされぬままに日々を過ごしてる。いくら考えども雑誌の特集のアイディアは浮かばず他誌をインスパイアするばかりだし、気付けばキャプションの短文を書くことさえままらなくなってしまった。穴の開いたポケットからこぼれゆく小銭のように、僕の感性はいつも僕の後ろに置き去りにされている。

 1年半前の自分が今の僕と出会ったら、彼は僕をきっと羨望の眼差しで見るのだろう。当時はひたすら自殺のタイミングを測りつづけるだけの毎日で、コンプレックスに押し潰されそうな毎日で、地獄の精神世界を彷徨う毎日で、僕は間違っても彼に戻りたいとは思わない。誰がどう見たって僕は彼より幸せな20代をしているに決まってる。

 にも関わらず、どこかであの頃を懐かしんでいる僕がいる。ラッシュアワーに憂鬱を溶かし込むように、苦々しい毎日に気付かないふりをし、苦々しい毎日をやり過ごす僕がいる。渋滞の街並みを彩るイチョウ並木の美しさを見過ごしたままに、今日もただ前方へと車を走らせゆく僕がいる。そんな不感症な20代をしている僕がここにいる。

 だから、僕は今夜、ネクタイで首を吊ってしまいたい気がするのです。


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