Dying Message

僕が最期に伝えたかったこと……

某事件について体験したこと・考えたこと Part1

2023-04-09 16:29:30 | Weblog

 コロナワクチンの副反応に苦しむ昨年11月初旬のある日、知らない番号から3件の不在着信が入っていることに気付いた。迷惑電話なんて珍しくもないが、番号の末尾が0110なのが少し引っかかる。確か警察署の下4桁がそうだったような……。
 案の定、留守電には「○○警察署○○課です。お仕事のことで話を伺いたいので折り返しお電話ください。内線は……」と入っていた。

 この段階では「○○警察署って両津勘吉かよ(厳密には違う)」くらいにしか思っていなかったし、なんなら間違い電話の可能性すら考えた。ただ、無視するわけにもいかないので一応折り返すと「株式会社○○に捜査が入った。○年○月から○年○月に在籍していた人に電話している」とのことだった。

 確かにそこは俺が勤めていた会社だ。やましいことをしているのは薄々感じていたので、この時点で恐怖心が芽生えはじめた。俺は逮捕されるのか?と。
 追い打ちをかけるように、電話口の刑事さんは強めの口調で「Mさんは被疑者の1人なので警察署で話を聞きたい」と告げてきた。
 ただ、俺がすでに退職していることは知らない様子だったので、今にして思えば踏み込んだ情報は得ていなかったのかもしれない。

 電話を切ったあと、ふと会社名で検索してみると、社長ら3人が逮捕されたとのネットニュースが出てきた。それも1本や2本ではない。A社長には散々虐げられたので恨みつらみがあるが、天網恢恢……なんて言葉を浮かべる余裕もなく、ただただ驚くばかりだった。
 動画付きのニュースもアップされていたが、Aがとても厳重に顔をガードしているのが印象に残った。ヤクザのような見てくれとは裏腹に、実はめっちゃ小心者。そんな彼の人となりが端的に現れていた。
 それだけに送検のタイミングでばっちり顔を撮られたのは、本人にとって誤算だったんじゃなかろうか。

 残りの2人については、S君がイキった感じで歩いていてダサいと思った。社内ではAの腰巾着だったのに。最初の頃は俺にもヘコヘコしていたのが、社長に気に入られていくにつれ態度が変わっていった。
 H君は目つき悪い感じで写真を撮られていたが、あれはマスコミの印象操作みたいなもの。普段は温厚で優しい男だったし、会社では「仕事できない奴」扱いで、本人のいないところでも色々言われていた。ひと口に犯罪者と言っても「捕まるべくして捕まった人間」「ボタンの掛け違えで捕まった人間」がいるのだろうが、彼は恐らく後者だと思う。
 ともあれ捕まった面子は概ね妥当というか、現場の中心メンバーといった印象ではある。

 その日の夜にはテレビのニュースでも事件が取り上げられていた。アナウンサーがかつての上司らを「容疑者」と呼び、画面には見知ったオフィスが映し出される。変な言い方かもしれないけれど、非日常感に高揚する自分もいた。
 もちろん高揚してばかりはいられない。俺はあくまで被疑者の立場であり、自分の身を守ることを考えなければならない。
 しかしAたちの罪名について調べても、何せこの業界に適用されるのは異例のようで、自分に逮捕の可能性があるのか分からない。法律に詳しくない人間なりに構成要件などを調べつつ作戦を立ててみるが、果たしてそれが正しいのかどうか。そもそも警察の胸三寸という気がしないでもない。

 翌日以降も記事がたくさん上がってきて、情報収集の面で助かった。
 印象的だったのは、Aが「○○攻撃は存在しないと知っていたとは言うな」と書面で口裏合わせしたというニュース。
 周囲を巻き込んでバレバレの嘘をつくところ、そしてそれを書面に残してしまうマヌケさ。これまた実にAらしい振る舞いだと思った。
 同時に、俺としてはAらが口裏合わせで道連れにしてくるのを最も恐れていたが、警察なら秒で見抜けると分かって安心した。社内ではイエスマンを侍らせてやりたい放題だったが、それが通用したのは自分がトップの環境であればこそなのだろう。

 他では日経だけ書いていた「21年秋に家宅捜索が入った」という情報は初耳だった。初耳というか、俺は行政指導と聞いていた。
 それを聞いた日は歯医者で有休を取っていたのだが、ひどく落ち込んだ様子のAから電話があり、会社のピンチを救うべく急いで帰って修正作業を手伝った。だからよく覚えている。
 Aがなぜ嘘をついたのかは分からないが、俺の前では体裁を保ちたかったのかもしれない。彼は自分の仕事を人助けと言って憚らなかったし、いつか別れさせ工作の記事を書こうとしたら「あれは悪徳業者のやることだ」と怒られたこともあった。どの口が言うんだって話だけど。

 ネットニュースやYouTubeのコメント欄も珍しく読ませてもらったが、報道量の割に盛り上がっていない印象は受けた。メンタル壊れた人ってLGBTとかよりよっぽど弱者だと思うけど、世間はそれほど優しくない。
 あと、やっぱり的外れなコメントは多い。ちょくちょく見かけた「病院の名簿を手に入れたんじゃね」は間違い。今回はある程度答え合わせできる立場にいたが、きっと他の事件でも同様のデマが飛び交っているのだろう。みんなもっと冷静になろうね。自戒を込めて言うけれど。

 個人で情報収集をしつつ、仲のよかったライターのお姉様ともLINEでやり取りした。お姉様のところにも警察から電話があって、呼び出しを受けたそうだ。
 俺は少しでも警察の心証をよくしようと平身低頭の対応を心掛けたが、お姉様は「なんで出向かなきゃいけないのか」と文句を言いまくったらしい(笑)。
 ざっくばらんにLINEしているようで、警察にスマホを覗かれる可能性があると思ったので(実際覗かれた)、口裏合わせと取られないよう細心の注意を払った。
 例えば「Aに指示されたって言いましょう」だと口裏合わせになるから「僕らはAに指示されただけですもんね」と緩やかに誘導する感じ。もちろん嘘ではないし、お姉様もAのことは嫌いだから利害は一致している。
 そんな浅知恵が通用するのかだいぶ怪しいとは思うけれど、無駄なことを延々と考えてしまう性分なので仕方ない。だから時々ぶっ壊れそうになるのだけど。

 数日後、お姉様はひと足先に取調べを済ませたので、様子を詳しく教えてくれた。
 警察は少なくともお姉様を捕まえる意思はないとのことだ。
 そう聞いて幾らか安心したけれど、お姉様と自分では微妙に立ち位置も違うし、逮捕の不安は拭えなかったので、聞いた話を元に取調べのシミュレーションを繰り返した。
 こちらはあくまで事実を語るまでだが、同じ内容でも言葉のチョイスによって印象は変わる。決してアドリブに強い方ではないので入念に準備しておかねば。

 取調べ3日前、刑事さんから「両さんのいる警察署は遠いので別のハコを押さえた」という旨の連絡が入った。うう、緊張する……。あ、スマホに入っている激ヤバ画像も念のためPCに逃がしておかなくちゃ。



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