Dying Message

僕が最期に伝えたかったこと……

「Like a family?」

2014-12-16 17:50:08 | 小説
 黄昏色に染まり始めた空にチャイムの音が響く頃、ユウジは体育館の前で親友のマモルの到着を待っていた。
 ふたりは別々のクラスだったためホームルームや部活動の終わる時間などに若干の差が出ることもあったが、登下校は必ず一緒に、というのがお互いの間で暗黙の了解になっていた。

 ユウジとマモルは生まれた時から家が隣同士という、いわゆる幼馴染の間柄だった。両者ともひとりっ子だったこともあり、ユウジの側には常にマモルがいたし、マモルの側には常にユウジがいた。モンハンで遊ぶにもモンストで遊ぶにも、彼ら以外のメンバーはひっきりなしに入れ替わったが、ふたりのどちらかが欠けることは決してなかった。
 その関係性は中学に上がった今にさえも変わることはなく、共通の友人などからはホモ疑惑を掛けられたことすらあったが、それもあながち間違いとは言えず、つい先日などはユウジの家でAVを見ながらオナニーの見せ合いをしたほどだった。

 しかし、一方で、最近はユウジの中でモヤモヤした気持ちが芽生えるようにもなっていた。マモルは容姿端麗でスポーツ万能、地域で一番の進学校を窺うほどの学力。自分はと言えば、特に運動が得意なわけでもなく、勉強に至っては学年でも常にシンガリを争っていた。足並みを揃えているのは年齢だけ、それ以外の全てでマモルに先んじられている気がして、いつの日からかユウジは強いコンプレックスを抱き始めた。
 ユウジにとってマモルの側にいるメリットはたくさんある。宿題を写させてもらうことはもはや日課のようになっていたし、交遊関係の広まりはいつも彼を通じてだった。非常に嫌らしい言い方ではあるが、人気者の彼と友達でいること自体がステイタスであって、まるで高級ジュエリーを身に付けているような、そんな感覚を覚えることすらあった。
 かたや自分はどうだろう。俺と一緒にいることがマモルにとってポジティヴな要素とはなっていないだろう。いや、むしろ足かせなのではないか。自分さえ消えて無くなれば、マモルにはもっと楽しい出会いがあって、もっと充実した人生を送れるんじゃないのか。

 そんなことを堂々巡りで考えながら、一体どれだけの時間が経っただろう。気付けばマモルの足音が聞こえてきた。

「ごめん。待った?」
「待った。すげー待った。iPhone6が3台買えそうなくらい待たされた」
 気持ちとは裏腹の、精一杯の笑みを作って、ユウジはそう言った。
「じゃあガラケーなら100台買えちゃうな」
 一見訳の分からぬ返しだが、これもまたマモルらしさだった。頭脳明晰でありながら、ちょっぴり天然。そんなところも彼が皆から愛される理由なのだろう。

「もうだいぶ日も短くなってきたな」
「ああ」

 ユウジの微妙な心理状況を反映するかのように、今日はどこか会話がぎこちない。それとも普段からこんなものなのだろうか。
 そんな空気に耐えかねた彼は、街にそびえたつ鉄塔に夕陽が隠れたその瞬間、決意を持って切り出した。

「お前は、マモルはさ…、俺のこと……、友達だと思ってる?」

 思いもよらぬ質問を投げかけられた友は一瞬面食らった様子を見せたが、すぐに明るい声色を使って言った。
「俺はお前のことを家族同然の存在だと思ってるさ」

 マモルの顔、左半分が紅く染まった。

 明くる日、閑静な住宅街に不似合いな喧騒によって起こされたユウジがカーテンを開けると、何台ものパトカーが幼馴染の家の前に止まっていた。居ても立ってもいられず家を飛び出すと、隣人曰く、マモルが同居の両親と祖父母を殺害したのだという。

 独りの通学路、俯き加減に歩くユウジはアリの行列を見つけると全力で踏み潰した。寂しく笑う彼の顔、右半分を朝日がそっと照らした。


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