雅工房 作品集

長編小説を中心に、中短編小説・コラムなどを発表しています。

ウインウインの関係 ・ 小さな小さな物語 ( 735 )

2015-09-24 14:37:11 | 小さな小さな物語 第十三部
政治家の発言、特に外交に関する発言の中で、「ウインウインの関係」という言葉を時々聞くことがあります。
少々乱暴な言い方をすれば、「どちらかが隷属するということではなく、互角の関係で親密化を図る」といった意味合いで使われるような気がします。
もちろん、もっと深い意味が込められていることもあるでしょうし、大した意識もなく、ちょっと格好を付けたように聞こえる場合もあります。
「ウインウイン」に限りませんが、外語語をカタカナで表現する場合には、「日本語でうまく表現する能力がない」あるいは「意識的に具体的な内容を漠然とさせるため」といったようなことが、ままあるような気がします。
横文字に弱いゆえの偏見かもしれませんが。

「ウインウイン」という言葉、つまり「win=win」という造語は、英語の「win(勝つ)」という言葉から生まれたようです。
最近よく耳にする例は、二者(二国)間の関係強化について、「ウインウインの関係」つまり、双方が勝つ(得をする)関係を築いて行こうといった意味が多いようですが、本来は、関係者全員が勝つ(得をする・意義がある)関係を作ろうとすることで、相対する関係というよりは、もっと数多くの関係者を意識していたように思われます。
この言葉は、あるビジネス書から広まったらしいのですが、今回、この言葉をテーマにした理由は、「人間関係のあり方の理想形」といった意味で使っている人を見たものですから、少し違うのではないかと思ったからです。

「ウインウインの関係」などと言えば大げさに聞こえますが、二者間でいえば、大昔、まだ貨幣さえ登場していない時代においても、人々は「物々交換」という手段を見つけ出していました。これは、まさに「ウインウインの関係」であって、両者が交換することで得を感じなければ成立しないわけで、「ウインウインの関係」なんて、もっとも原始的な商業行為の一つに過ぎなかったのではないでしょうか。
その後、人々は進化という「人間性の劣化」とともに、「武力」や「資本力」や「欺瞞」などを駆使して、もっとも単純な商行為である「ウインウインの関係」を保つことが難しくなってしまったため、今さらのようにこの言葉がもてはやされるようになったのではないでしょうか。

外交や経済などにおいて、あるいは学問として「ウインウインの関係」を重視することは、まあ良いとしましょう。
しかし、個人の関係において、まさか親子や家族内で声高にこの関係を築こうなどとは言わないでしょうが、近隣や友人関係でこのような意識を表に出すのは勘弁してほしいものです。
それでなくとも、人間というものは、ほとんど無意志のうちに、常に自分が得をすることばかり考えているものです。ぎすぎすした商売の関係でないのであれば、「ウインウインの関係」とは、「いかに相手が損をしないか」「相手が不愉快な思いをしていないか」などとおもんばかる言葉なのだと考えたいものです。

( 2015.04.30 )

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