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『空白』

2021年10月17日 | 映画(か行)
『空白』
監督:吉田恵輔
出演:古田新太,松坂桃李,田畑智子,藤原季節,趣里,伊東蒼,片岡礼子,寺島しのぶ他
 
109シネマズ箕面にて。
 
『机のなかみ』(2006)以来、吉田恵輔監督のファンです。
最近の作品では『BLUE/ブルー』(2020)が大好きでした。
そんなしみじみとする作品とヒリヒリする作品があり、これは後者。
もう勘弁してよというぐらい絶望的で堪えました。
 
漁師の添田充(古田新太)は離婚して娘の花音(伊東蒼)と二人暮らし。
引っ込み思案でマイペースすぎる花音には友だちもいない。
中学の担任教師の今井若菜(趣里)もしばしば苛立ちを隠せず、
ついつい花音にきつい口調になってしまう。それでも反応の薄い花音。
花音が一緒にいて安らげるのは母親の翔子(田畑智子)のみ。
再婚した翔子は現在臨月だが、花音のことをいつも気にかけている。
 
ある夜の食事中、花音は学校のことで相談したいと充に言う。
しかし、常に怒り口調の充に恐れをなし、先を継げない。
 
翌日、近所のスーパーに立ち寄った花音は、化粧品を万引き
気づいた店長の青柳直人(松坂桃李)に追いかけられて逃げる途中、
車に撥ねられて路上に倒れたところ、
後続のダンプカーにひきずられて無惨に死亡してしまう。
 
前夜に何か話があると言った花音。
あれは学校でいじめに遭っていると言いたかったのではないか。
それに花音が化粧しているところなど見たことがない。
万引きしたなどというのは濡れ衣で、
スーパーの店長がいたずら目的で追いかけたに違いない。
そう思い込む充は、学校に厳しく真相を追求する一方で、
直人のことを待ち伏せし、罵るのだが……。
 
何もかもが恐ろしい。
 
充と直人のことを面白おかしく取り上げるマスコミ。
善意の取材だと見せかけて、視聴者に直人が悪人に映るように編集します。
これまで娘のことをちっとも気にかけてこなかった様子の充が、
本当は自分自身にいちばん腹を立てているはずなのに、矛先を相手に向ける。
 
担任教師が花音につらく当たったことを反省する言葉を口にしたとき、
ほかの教師(和田聰宏)が言うことにビクッとしました。「ずるいですよ」。
亡くなった生徒のことを後から思い遣るような言葉、反省の弁はずるいと言うのです。
確かに、今さらそんなことを言うかと思わなくもない。
校長はいじめがあったなどと判明したら大変だから、追求などしたくもないし。
 
寺島しのぶ演じるスーパーの店員がいちばん怖かったりもします。
自分こそが直人の理解者であり、彼を救ってあげられる人間。
日頃はボランティアに精を出し、正義感と責任感の強い人。
何もかも世のため人のためだと思っているけれど、腹の中はきっとどす黒い。
こんな人を敵に回したら、何をされるやらわかったものではありません。
 
濡れ衣ではなかった、自分の娘は本当に万引きしていたとわかっても、
それを言い出せない充の姿には嫌気が差します。でも言えないよなぁ。
 
人間の嫌な部分を見せつけられてばかりのなか、
藤原季節演じるお調子者に見える若者がよかった。
それから、花音を最初に轢いた女性の母親(片岡礼子)の態度には胸を打たれます。
誰が悪いのか。どうすればいいのか。赦しとは何か。
 
どシリアスな古田新太。
凄かったけど、いつかちょっと明るめのほうの吉田監督の作品でも見てみたい。
 
ところで、担任教師役の趣里は、水谷豊伊藤蘭の娘です。
ご存じでしたか!?

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