
私は、小学5年のとき、父に連れられて初めてプロ野球を観に行きました。
行った球場は西宮スタジアムでした。
初めて見る球場は、グリーンの芝とこげ茶色のグランドのコントラストが、照明灯のカクテル光線に照らされ、ほんとうにきれいでした。
その美しさは今でも、はっきりと脳裏に焼きついています。
その日の対戦は阪急ブレーブス(現オリックス・バッファローズ)対南海ホークス(現福岡ソフトバンク・ホークス)でした。
その阪急ブレーブスには、当時、盗塁王だった福本豊選手がいました。
彼は1番バッターで、出塁するとよく走りました。
盗塁は足が速いだけでは成功しません。
彼は、投手のクセを盗む技術に長けていました。ふつうの選手なら気がつかないようなちょっとした投手のクセを見抜き、盗塁を重ねたのでした。
クセを盗まれ、いいように走られたのが当時のライオンズのエース東尾投手でした。
そこで、東尾投手は「降参した。自分のクセを教えてくれ」と、福本選手に頼みました。
「企業秘密」ともいうべき情報を大胆にも教えてほしいと言ったのですが、福本選手はあっさりと教えました。
そして、次のシーズンで東尾さんは、そのクセを直してきました。
すると、福本選手は東尾投手の新しいクセをまた見つけ、盗塁を重ねたのでした。
「(クセを)直されたら、また新しいクセを見つけたらええんやから。」と福本選手は言いました。
これが、「盗塁王」と呼ばれるゆえんなのでしょう。
かなりのものを作り上げながら、そこにとどまらず、さらに次の段階に到達する。
たゆまぬ研究が大切なのだと思います。