藤井聡 『公共事業が日本を救う』 ( p.153 )
ローマ帝国は採算を度外視して「道路」をつくり続け、強力な軍事力・政治力・文化力・経済力を手にした。同様の戦略は、20世紀のドイツやアメリカも採用しており、今や中国もこの戦略をとっている、と書かれています。
(高速)道路が国力の向上をもたらすのは、おそらく物流の効率が高まるからだと思います。道路が建設されることで、物流のコストが下がり、それによって物流が(さらに)活発化することで、国力が向上するのだと考えられます。
上記引用文中には、
「雇用対策としての道路建設」で引用した本(文章)のなかで、加藤紘一氏が述べておられますが、あまりに「費用対効果」を重要視すると、ますます一極集中が進んでしまいます。とすれば、「費用対効果」も重要ではあるけれども、「採算の合わない」道路であっても(場合によっては)作ったほうがよい、といった発想も重要になってくるはずです。
そもそも、公共事業とは本来、「採算が合わない」ものではないでしょうか? 「採算が合う」事業であれば「民間が行えばよい」とも考えられます。採算の面で、民間が事業を行うのが難しいからこそ、「公共事業」が行われるのではないでしょうか? このような観点でみれば、公共事業においてあまりに「費用対効果」を重要視することには、問題がある、と考えられます (「橋本郵政改革の評価」参照 ) 。
私は、「費用対効果」が重要ではない、とまでは考えていません。たしかに「費用対効果」も重要です。しかし、あまりに「費用対効果」ばかりを重視しすぎることには、問題があるといってよいのではないかと思います。
あるべき国家のイメージ、長期的なビジョン。事業の必要性。そして費用対効果。これらを「総合的に」判断して公共事業の是非を判断すべきではないでしょうか。私は、このように考えています。
なお、著者によれば、「高速道路が国力に大きな影響を及ぼす」ことはわかっているが、「なぜなのか」は十分には論じられていないようです。しかし、「おおよそのアウトライン」は著者によって示されています。常識的にみて、下記の(著者の)主張は正しいと思われます。
同 ( p.157 )
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★国力に甚大な影響を及ぼす高速道路ネットワーク
本章ではここまで、日本の高速道路のネットワークが、先進諸国に比べて貧弱な点を指摘し、それが我々の日常の暮らしに及ぼしている問題点を指摘した。
しかし、高速道路のネットワークが貧弱であることの問題の本質は、「我々の自動車利用生活が不便になる」という点にあるのではない。それは、「日本の経済力、ひいては国力が弱体化してしまう」という点にこそ、ある。
高速道路ネットワークは、各国の「経済力」、ひいては国全体の力である「国力」そのものに甚大な影響を及ぼしているのである。
例えば、ローマ帝国は、200年にも及ぶパクスロマーナ(ローマによる平和)を達成したが、その根源的な理由として、ローマ帝国が徹底的に「道路建設」にこだわったということが、『ローマ人の物語』をライフワークとする塩野七生氏によって指摘されている。
彼女は、ローマ帝国が近隣諸国を併合する度に、採算なんて度外視しながら徹底的に「道路」をつくり続けたことを明らかにしている。ローマ帝国は、帝国内のありとあらゆる地域を道路で結び、強力な道路ネットワークを構築した。そのネットワークの強力さは、「全ての道はローマに通ず」という有名な言葉からも窺い知ることができる。そして、その強力な道路ネットワークによって、それまでバラバラであった周辺諸国を「ローマ帝国」として、実質的に「統合」していったのである。
こうしてローマ帝国は強力な「統合性」「一体性」を確保し、それを基盤として、軍事力、政治力、文化力、そして経済力において、周辺諸国の脅威をいとも容易く(たやすく)跳ね返すことができるほどの水準を確保し、それを通じて200年にも及ぶ「パクスロマーナ」を達成したのであった。
同様の戦略は、20世紀のドイツとアメリカも採用している。ドイツでは、「アウトバーン」と呼ばれる制限速度なしの超高速道路ネットワークを建設し、それが、ドイツの国力の大幅な増進をもたらした。さらには、現在世界一のGDPを誇るアメリカも、その強力な国力は、広大な全米を網羅する強力な高速道路ネットワークによって維持されたのであった。そして、IT時代を迎えた今日ですら、アメリカ政府は巨額の財源を投入しつつ、高速道路網を維持・拡大している。
★凄まじい速度で高速道路をつくる中国
そして、高速道路ネットワークを構築する戦略は、21世紀の大国、お隣の中国でも進められている。
長らく資本主義経済を回避し続けてきた中国では、高速道路を建設することもまた長らくなかった。
そんな中国で最初の高速道路が開通したのは、ようやく1988年になってからであった。その後、しばらくは新しい高速道路の建設はほとんどなかったのだが、1993年から本格的な建設を始めた。
それからは凄まじい勢いで高速道路を建設し続け、2009年までのわずかな間に、実に6・5万キロもの強力な高速道路ネットワークの構築を終えている。
その建設速度は、半端なものではない。
例えば、2007年の1年間だけで、日本の高速道路全ての長さに匹敵する8300キロもの高速道路を建設している。つまり、日本が戦後何十年もかけて建設してきた高速道路のストックを、わずか1年でつくってしまったのである。
しかも、この6・5万キロの高速道路ネットワークは、中国が構想する高速道路ネットワークの一部にしか過ぎない。構想では、32万キロもの高速道路を建設する予定なのである。だから、中国の高速道路建設のピッチは未だ衰えることを知らず、ますますつくり続けている。
折りも2010年、はじめての高速道路が建設された上海で、万国博覧会が開催された。
その姿をみて、1970年の大阪万博を思い起こし、現在の中国に高度成長期の日本を重ね合わせた方も多いだろう。
当時、日本は新幹線を建設し、高速道路を建設した。そしてそれらを起爆剤として、日本の経済力、ひいては国力が大きく躍進したのだった。
つまり、日本でも、古代ローマやドイツ、アメリカと同じように、高速の交通網を建設することを通して、国力を大きく躍進させたのだった。
それと同じことが、今まさに中国で起きているのだ。
ローマ帝国は採算を度外視して「道路」をつくり続け、強力な軍事力・政治力・文化力・経済力を手にした。同様の戦略は、20世紀のドイツやアメリカも採用しており、今や中国もこの戦略をとっている、と書かれています。
(高速)道路が国力の向上をもたらすのは、おそらく物流の効率が高まるからだと思います。道路が建設されることで、物流のコストが下がり、それによって物流が(さらに)活発化することで、国力が向上するのだと考えられます。
上記引用文中には、
ローマ帝国が近隣諸国を併合する度に、採算なんて度外視しながら徹底的に「道路」をつくり続けたと書かれています。とすれば、「費用対効果」を(あまり)気にせず、道路をつくったほうがよい、と考えられます。
「雇用対策としての道路建設」で引用した本(文章)のなかで、加藤紘一氏が述べておられますが、あまりに「費用対効果」を重要視すると、ますます一極集中が進んでしまいます。とすれば、「費用対効果」も重要ではあるけれども、「採算の合わない」道路であっても(場合によっては)作ったほうがよい、といった発想も重要になってくるはずです。
そもそも、公共事業とは本来、「採算が合わない」ものではないでしょうか? 「採算が合う」事業であれば「民間が行えばよい」とも考えられます。採算の面で、民間が事業を行うのが難しいからこそ、「公共事業」が行われるのではないでしょうか? このような観点でみれば、公共事業においてあまりに「費用対効果」を重要視することには、問題がある、と考えられます (「橋本郵政改革の評価」参照 ) 。
私は、「費用対効果」が重要ではない、とまでは考えていません。たしかに「費用対効果」も重要です。しかし、あまりに「費用対効果」ばかりを重視しすぎることには、問題があるといってよいのではないかと思います。
あるべき国家のイメージ、長期的なビジョン。事業の必要性。そして費用対効果。これらを「総合的に」判断して公共事業の是非を判断すべきではないでしょうか。私は、このように考えています。
なお、著者によれば、「高速道路が国力に大きな影響を及ぼす」ことはわかっているが、「なぜなのか」は十分には論じられていないようです。しかし、「おおよそのアウトライン」は著者によって示されています。常識的にみて、下記の(著者の)主張は正しいと思われます。
同 ( p.157 )
しかし、なぜ、「高速道路」をつくることが、「一国の経済力」や「国力」にそれほど大きな影響を及ぼしているのだろうか?
実のところ、この点については、近年の経済学や土木計画学の中でも、十分には論じられてはいない。不思議なことに、上述のように、古代ローマ、ドイツ、アメリカ、そして、戦後の日本や現代の中国の経済力、国力と高速道路ネットワークの密度とを見れば、その両者の関係が明らかに存在しているであろうと想像されるにもかかわらず、である――。
(中略)
この問題は、一言でいうなら、これまでの経済学において、主として都市や地域について論じられてきた「集積の経済効果」と呼ばれるものである。これはつまり、交通が発展することで、商業的には「商圏」が拡大し、工業的にも「取引先」が拡大する、といった効果についての議論である。
これによると、有利な立地を求めて、様々な商業・工業主体、様々な人々が集まってきて、ますます都市が強くなっていく、というように議論される。
都市・地域と国とでは、条件が異なるため、この議論をそのまま国に適用することは難しい。しかし、高速道路と国土的統合の関係を考える上では、集積の経済の議論は、大いに参照できる。
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