以下に引用する文章は、「「シャッター街化」の原因」で引用した内容が前提になっています。したがって「「シャッター街化」の原因」をお読みになられたうえで、今回の引用をお読みください。
藤井聡 『公共事業が日本を救う』 ( p.52 )
都市のシャッター街化をくいとめるには、(1) 環状道路を作り、(2) フリンジパーキング(駐車場)を作って、そこから人々を公共交通機関で都心に運べばよい。そして (3) 都心の道路から自動車の車線を減らして、歩行者専用道路やLRT・緑地・自転車用に転用すればよい、と書かれています。
これは「夢のある」プランですが、やや現実性に乏しいのではないかと思います。以下、その根拠を述べます。
まず、(1) 環状道路ですが、これはたとえば東京には存在しています。地方都市においても、程度の差こそあれ、整備されていると思います (環状道路という名前がついていなくとも、実質的に都心を迂回する機能があればよいはずです) 。
次に、(2) フリンジパーキング(駐車場)から人々を公共交通機関で都心に運ぶ機能についも事実上、東京には存在していると思います。
しかし東京には、都心に流入するクルマが大量に存在します。つまり、(1) と (2) では、都心に流入するクルマの数は減らない、ということです。したがって、
(3) 都心の道路から自動車の車線を減らして歩行者専用道路やLRT・緑地・自転車用にするなどというのは論外であり、むしろ自動車のために道路の拡幅工事が必要である、ということになります。
もちろん、著者が主張するように、「自家用車」の流入を禁止するというような施策を行えば、問題は解決するでしょう。しかし、このような施策では、(おそらく) 国民の同意は得られないと思います。なぜなら東京の場合、(1) と (2) が満たされているにもかかわらず都心に自動車が大量に流入するのは、「自動車のほうが都合がよいから」に決まっているからです。
つまり、「自家用車」の流入を法的に禁止したりすれば、「不便になる」と感じる国民が多数、存在しているということです。したがってこのような禁止には、国民の同意が得られにくいでしょう。
また、消費者たる国民のみならず、たとえば (売上に影響しかねない) 自動車関連業界の同意も得られにくいのではないかと思います。
したがって、著者の主張には説得力・現実性がありません。
けれども、(対策の) 欠点ばかりあげつらっていても状況は変わりません。著者の主張には説得力・現実性が乏しいと考えられるものの、そこには「夢がある」こともたしかです。
そこで、より現実的な方法として、代案を提示します。「有料化」です。
高速道路とは異なり、国道を走るのは無料ですが、これを環状道路の内側では有料にしてしまうのです。そうすれば、都心へのクルマの流入は劇的に減るはずです。したがって、都心の渋滞は大幅に解消されます。さらに、国(または地方公共団体)にとっては貴重な財源になります。地価の高い (=用地買収費のかさむ) 都会で道路を建設する必要性も減ります。財政赤字も少しは減るでしょう。
もちろん有料化によって国民は「不便になる」わけですが、財政赤字解消のために「消費税などの増税」が主張されている昨今の状況を踏まえれば、「増税するくらいなら都心の国道有料化のほうがよい」のではないでしょうか。国民の同意・理解も、(すくなくとも法的に禁止するよりは) 得られやすいと思います。
ここで、本来の目的であるシャッター街の解消に戻って考えます。このような場所(地方)では、道路を「有料化」してしまえば、ますますシャッター街化が進む可能性もあります。しかし、それでもなお、法的に「禁止」するよりは、有料化のほうがよいと思います。
なぜなら、有料化によって徴収した通行料で、環状道路の内側を走る鉄道やバスの料金を「無料」にすることも可能になるからです。いったん「まちなか」に入れば、あとは「無料ですむ」なら、道路の有料化によってますますシャッター街化が進むとはかぎらない、ということになります。シャッター街化が進むどころか、活気あふれる街に戻るかもしれません。
これは一考に値するのではないかと思います。
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藤井聡 『公共事業が日本を救う』 ( p.52 )
では、クルマを閉め出すためには、何が必要なのだろう。
誰もが思いつく、一番簡単な方法は "自動車の流入を法的に禁止する" という方法である。
しかし、この方法の実現性はかなり乏しい。
なぜなら、我々生活者にしてみれば、自動車といえば "自家用車" (クルマ) というイメージしかないかもしれないが、当然ながら「物流のトラック」もまた自動車なのであり、これがおおよそ2割 (高速道路では約3割) もの割合を占めているからである。これをもし閉め出してしまえば、都市の活動は、ほとんど止まってしまう。コンビニやスーパー、百貨店にモノは一切並ばなくなってしまう。さらにバスやタクシーもまた自動車であるから、これらの営業を禁止するのは、ナンセンスだろう。
それなら自家用車だけ流入禁止すればいい、という議論もあるかもしれない。
しかし、現代の日本では、全ての "移動" に対する、クルマ (自家用車) を使った移動の割合は、平日で45%、休日で63%である。地方都市について言うなら、その割合は、平日で56%、休日で73%にも上っている。だから、やはりクルマを「完全」に閉め出してしまえば、相当程度、都心にやってくる人々が減ってしまうのでは、という心配も、決して杞憂とは言えないのである。
そんな「クルマ社会」の中で、どうやって、都心からクルマを閉め出しつつ、都市を魅力的にし、元気づけていくのか――。
この難問について、実は極めて「スタンダードな答え」があるのである。
そして、その「スタンダードな答え」にそって、ヨーロッパのおおよその都市が計画され、大きな成功を収めているのである。実を言うと筆者の体験を通じて紹介したイエテボリも、そんな街の一つにしか過ぎないのである。
以下、そんな都市における交通戦略を簡単に紹介することとしよう。
まず第一に、都市の周辺に環状道路をつくる。これをつくっておけば、ただ単に都心を "通過" するだけのクルマを都心から閉め出すことができる。例えば、東京や大阪といった大都市のクルマの流れの中で、街にとりたてて用事もなく、ただその街を通り過ぎる "通過交通" の割合は、1割から2割程度となっているが、環状道路があれば、こうしたクルマを、都心から排除することができる。
第二に、そうした環状道路に大規模な駐車場を作る。いわゆる「フリンジパーキング」と呼ばれるものである。それとともに、そうしたフリンジパーキングから、都心に向けて、便利な大量輸送機関 (つまり、公共交通) を整備する。鉄道でもLRTと呼ばれる新しいタイプの路面電車でもいい。こうしておくことで、郊外や他の都市からクルマでやってくる人々を、一旦、その大規模な駐車場で受け止める。そしてその後は、その駐車場から都心部に、公共交通で人々を運ぶのである。そうすれば、都心への自動車の流入を劇的に削減することができる。それと同時に、現代の交通の5~7割も占めるクルマで移動する人々を、都心に呼び込むことができる。
第三に、環状道路の内側にある道路を自動車のみでなく、「歩行者」や「LRT」や「緑地」「自転車」等に使えるように、つくり替えていく。つまり、自動車の車線を減らし、その分、歩行者専用道路などにしていくのである。環状道路や郊外の大規模駐車場があれば、まちなかの自動車をグンと減らすことができる。だから、都心の道路の車線を減らして歩行者専用道にしても、都市の交通が混乱することなどない。
そして、クルマで郊外まで来た人々をフリンジパーキングから都心に便利な公共交通で運ぶことができるなら、「自家用車」の流入を禁止するというような施策だって、不可能なことではなくなるのである。逆に言うなら、これまでクルマを閉め出すことが難しかったのは、環状線や大型駐車場といった、道路のインフラが存在しなかったからなのである。
以上の3つが、このクルマ社会の中で、クルマに依存しない都市をつくるための基本的な交通戦略である。
都市のシャッター街化をくいとめるには、(1) 環状道路を作り、(2) フリンジパーキング(駐車場)を作って、そこから人々を公共交通機関で都心に運べばよい。そして (3) 都心の道路から自動車の車線を減らして、歩行者専用道路やLRT・緑地・自転車用に転用すればよい、と書かれています。
これは「夢のある」プランですが、やや現実性に乏しいのではないかと思います。以下、その根拠を述べます。
まず、(1) 環状道路ですが、これはたとえば東京には存在しています。地方都市においても、程度の差こそあれ、整備されていると思います (環状道路という名前がついていなくとも、実質的に都心を迂回する機能があればよいはずです) 。
次に、(2) フリンジパーキング(駐車場)から人々を公共交通機関で都心に運ぶ機能についも事実上、東京には存在していると思います。
しかし東京には、都心に流入するクルマが大量に存在します。つまり、(1) と (2) では、都心に流入するクルマの数は減らない、ということです。したがって、
(3) 都心の道路から自動車の車線を減らして歩行者専用道路やLRT・緑地・自転車用にするなどというのは論外であり、むしろ自動車のために道路の拡幅工事が必要である、ということになります。
もちろん、著者が主張するように、「自家用車」の流入を禁止するというような施策を行えば、問題は解決するでしょう。しかし、このような施策では、(おそらく) 国民の同意は得られないと思います。なぜなら東京の場合、(1) と (2) が満たされているにもかかわらず都心に自動車が大量に流入するのは、「自動車のほうが都合がよいから」に決まっているからです。
つまり、「自家用車」の流入を法的に禁止したりすれば、「不便になる」と感じる国民が多数、存在しているということです。したがってこのような禁止には、国民の同意が得られにくいでしょう。
また、消費者たる国民のみならず、たとえば (売上に影響しかねない) 自動車関連業界の同意も得られにくいのではないかと思います。
したがって、著者の主張には説得力・現実性がありません。
けれども、(対策の) 欠点ばかりあげつらっていても状況は変わりません。著者の主張には説得力・現実性が乏しいと考えられるものの、そこには「夢がある」こともたしかです。
そこで、より現実的な方法として、代案を提示します。「有料化」です。
高速道路とは異なり、国道を走るのは無料ですが、これを環状道路の内側では有料にしてしまうのです。そうすれば、都心へのクルマの流入は劇的に減るはずです。したがって、都心の渋滞は大幅に解消されます。さらに、国(または地方公共団体)にとっては貴重な財源になります。地価の高い (=用地買収費のかさむ) 都会で道路を建設する必要性も減ります。財政赤字も少しは減るでしょう。
もちろん有料化によって国民は「不便になる」わけですが、財政赤字解消のために「消費税などの増税」が主張されている昨今の状況を踏まえれば、「増税するくらいなら都心の国道有料化のほうがよい」のではないでしょうか。国民の同意・理解も、(すくなくとも法的に禁止するよりは) 得られやすいと思います。
ここで、本来の目的であるシャッター街の解消に戻って考えます。このような場所(地方)では、道路を「有料化」してしまえば、ますますシャッター街化が進む可能性もあります。しかし、それでもなお、法的に「禁止」するよりは、有料化のほうがよいと思います。
なぜなら、有料化によって徴収した通行料で、環状道路の内側を走る鉄道やバスの料金を「無料」にすることも可能になるからです。いったん「まちなか」に入れば、あとは「無料ですむ」なら、道路の有料化によってますますシャッター街化が進むとはかぎらない、ということになります。シャッター街化が進むどころか、活気あふれる街に戻るかもしれません。
これは一考に値するのではないかと思います。
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「高速料金の最適化」
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