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言語空間+備忘録

メモ (備忘録) をつけながら、私なりの言論を形成すること (言語空間) を目指しています。

渋滞の原因は「道路の質」

2011-05-19 | 日記
藤井聡 『公共事業が日本を救う』 ( p.141 )

 実際、本書の冒頭でも指摘したように、様々な雑誌や書籍などで、「日本の道路は世界トップレベルである」と主張されてきている。もしその主張が真実であるなら、確かに、これ以上道路をつくり続ける必要などないだろう。

(中略)

 実際には、本書冒頭でも指摘したように、日本の道路のレベルは、世界トップレベルなどでは決して「ない」のである。
 むしろ、「自動車1万台あたりの道路の長さ」は、先進国中最低レベルなのである(26ページの図6を参照されたい)。
 しかも、日本の道路は、諸外国に比べて、圧倒的に「狭い」という事実もある。
 例えば、アメリカ、イギリス、フランス、そして、韓国においては、4車線未満の高速道路は、全体の2~5%程度しかない。しかし、日本の場合、その割合は約30%にも上る。一方、「6車線以上の高速道路」に着目すると、日本は8%しかない一方で、フランス、ドイツ、韓国はいずれも20%前後もの水準である。イギリスに至っては、実に70%が6車線以上だ。
 日本の道路は、都市「間」の道路の質が悪いだけではない。都市「内」の道路の質も、すこぶる低い。
 例えば、都市内の「踏切数」に着目すると、パリやロンドン、ベルリンなどの欧州の主要都市では10~50ヵ所程度、ニューヨークでも122ヵ所であるが、東京23区の踏切数は、それらよりも格段に多く、実に673ヵ所もの踏切が都心にあるのだ。
 いうまでもなく、踏切は渋滞の大きな原因であり、クルマを不便にしている最大の要因の一つである。
 もちろん、こうした踏切を解消するには、「立体交差」が最も効果的だ。つまりは、現在、立体交差化されずに放置されている踏切が、東京には実に600ヵ所以上もある、ということなのだ。言うまでもなく、似たような状況は大阪や神奈川、愛知、兵庫、福岡などの都市部では、程度の差こそあれ、見られる。

(中略)

「踏切が多くて、狭くて、しかも少ししかない道路を、大量のクルマが利用しようとしている」としたらどうなるか――。
 結論は、誰が考えても一つしかない。
「渋滞」である。
 実際、我々日本人の誰もが毎日見聞きしているように、至るところで渋滞が生じている。そしてドライバーは皆、トロトロとしか走れない状況に、毎日、悩まされている。
 そしてあろうことか、渋滞が日常茶飯事であるが故に、多くのドライバーが「道路が渋滞するなんて、当たり前だ」とまで感じている節すらあるように思う。
 しかし、「道路が渋滞してるのなんか当たり前」と大半のドライバーが考えている、というような国は、実は、先進国の中で日本だけなのではないかと思う。
 いくつかのデータを、具体的に見ていくことにしよう。
 図13をご覧いただきたい。これは、ロンドン、パリ、ニューヨーク、そして東京といった先進諸国の主要都市の、クルマの走行速度の平均値を示したものであるが、ご覧のように、東京が最低水準であることが分かる。
 こうした平均速度は、全国規模ではなかなか測定しづらく、直接的な国際比較のデータはなかなか見あたらない。しかし、間接的なデータとして、「自動車の燃費効率」がある。
 クルマを持っている方なら誰しもご存知かと思うが、「カタログ」に書いてある燃費は、あくまでも「理想的な走行環境」での燃費であり、実際の道路上では、止まったり発進したり、トロトロ走ったりしなければならず、実際の燃費は結局はカタログの値よりもさらに悪くなるのが「当たり前」である。
 実際、日本全国のクルマの「実際の燃費」は、「カタログ燃費」の3分の2以下の64%に過ぎない。
 しかしこの「当たり前」は、実は日本だけのものなのである。いわばここでも「日本の常識は、世界の非常識。世界の常識は、日本の非常識」なのである。
 図14をご覧いただきたい。この図に示すように、アメリカ、ドイツ、フランス、イギリスといった先進諸外国の自動車の走行環境がほぼ「理想的」な状況となっている一方で、日本の自動車の走行環境は、理想的な水準よりも格段に低い水準となっている、という可能性を意味しているのである。
 つまり、アメリカ人やイギリス人やドイツ人やフランス人がほとんど経験したことがないようなノロノロ運転や渋滞を、そして、それに伴う精神的なイライラ感を、日本人だけが日々、経験しているであろうことを示唆しているのだ。
 おそらくは、他の先進諸国のドライバーにしてみれば、クルマなんてわずかな例外を除いてスイスイ走るのが当たり前で、日本人が年がら年中感じている「渋滞の苦痛」などは、想像すらできないのである。
 残念ながら、多くの日本人はこの「事実」をほとんど知らないのではないだろうか――。


 日本の道路は、世界トップレベルなどでは決して「ない」。むしろ、「自動車1万台あたりの道路の長さ」は先進国中最低レベルであり、道路が「狭い」(=車線数が少ない)うえに、「踏切」も多い。おそらく「渋滞」は先進諸外国ではほとんどみられず、日本だけに多い現象である、と書かれています。



 「自動車保有台数1万台あたりの道路延長」については、たしかに日本は「短い」です。しかしだからといって、これをもって「渋滞の原因である」としてよいのか、疑問があります。

 なぜなら上記記事「自動車保有台数1万台あたりの道路延長」において (私が) 述べているように、国土の広いアメリカやカナダでは、砂漠地帯や極地を走っている道路の長さも合計したうえで、「自動車保有台数1万台あたりの道路延長」を計算することになります。したがって、この数値が大きいからといって「都市部で」渋滞が発生しない(しづらい)という主張は、「かなり無理がある」と思います。

 重要なのは「国全体でみた」自動車保有台数1万台あたりの道路の長さではなく、「都市圏毎にみた」自動車保有台数1万台あたりの道路の長さだと思います。



 とはいえ、上記「自動車保有台数1万台あたりの道路延長」のデータ(数値)が「まったく参考にならない」かといえばそうではなく、やはり「多少は参考になる」というべきでしょう。

 また、道路の車線数、踏切の数については、(私も) 疑問の余地なく、渋滞の原因であると考えてよいと思います。



 ここで、引用文中の「図13」「図14」のデータ、つまり日本「だけ」渋滞が多いことを「示唆する」データを引用します。「表」ではなく「図」の引用ですが、引用元の図(棒グラフ)には数値が併記されています。したがって下記の数値は私が目分量で読み取った値ではありません。



図13 主要都市のクルマの平均速度(km/h)

ミュンヘン     35
ニューヨーク    32
フランクフルト   30
ロンドン      30
パリ        26
東京(23区内)   18・8



図14 自動車の、カタログ燃費に対する実際の燃費の割合

アメリカ   91%
イギリス   94%
ドイツ    94%
フランス   88%
日本     64%



 上記のデータを見るかぎり、日本「だけ」渋滞が多い、と考えてよいと思います。とすれば、「自動車保有台数1万台あたりの道路延長」のデータ(数値)は「多少は参考になる」といえる程度であるとしても、「道路の車線数」「踏切の数」といった、

   日本特有の「渋滞の原因」になりうる要素は、
   日本特有の「渋滞」(の多さ) をもたらしている

と考えてよいと思います。つまり、原因と結果のあいだに因果関係がある、と考えてよい(まず間違いない)ということです。

 したがって車線数を増やし、立体交差化を進めるべきだ、ということになりますが、問題は「費用」です。東京における用地買収費の高さは、「雇用対策としての道路建設」で引用した文において示されています。よろしければ御参照ください。



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