言語空間+備忘録

メモ (備忘録) をつけながら、私なりの言論を形成すること (言語空間) を目指しています。

派遣の禁止を巡る労・労問題

2009-08-17 | 日記
小林良暢 『なぜ雇用格差はなくならないのか』 ( p.39 )

 今回の派遣法改正に先立って、〇八年の二~七月にかけて厚労省の「今後の労働者派遣制度の在り方に関する研究会」が行った各界からのヒアリングでも、日雇い派遣の禁止を巡って、その禁止を主張する連合と、容認の意見を述べた人材サービスゼネラルユニオンとの間の意見の対立が鮮明になった。
 派遣労働者を組織しているこれらの組合は、登録型派遣や日雇い派遣の現実を認めた上で、これらの労働者の雇用と処遇の改善に取り組んでもらいたいと主張するのである。きわめてもっともな言い分ではないだろうか。また、「製造派遣禁止」を巡っては、自動車総連が賛成しているが、UIゼンセン同盟や電機連合が反対の動きを示すなど、連合内も一本にまとまっているわけではない。ここには、派遣を巡る労・労問題がある。
 このように、口で登録型派遣や日雇い派遣の禁止を主張するのは簡単であるが、実際に派遣労働者を組織内に抱える労働組合は、それら当該の派遣労働者の利益を考えると、軽々に禁止とは言えないのである。


 派遣の禁止を巡る労・労問題が書かれています。



 ここにも、労働者 ( 正社員 ) と労働者 ( 派遣 ) の間の利害対立がみられます。

 「雇用対策の問題点」 にも書きましたが、派遣労働は、たんに、「禁止」 すればよい、というものではないことがわかります。



 基本的に、派遣労働を禁止せよ、と主張するのは、それによって不利益を蒙る 「正社員」 の人々であり、派遣を禁止するな、と主張するのは、派遣を禁止されるともっと不利益を蒙る 「派遣」 の人々である、と考えてよいと思います。

 どちらも、自分の利益を主張していることには変わりないのですが、それぞれの置かれた立場や状況を考えれば、どうみても、派遣労働者の側の言い分が 「正しい」 のではないかと思います。



 「労・労問題」 にも書きましたが、正社員の人々は、派遣の人々に協力すべきだと思います。「自分さえよければよい」 という考えかたは、( 長い目でみれば ) 結果的に、不利益をもたらすと思います。

労・労問題

2009-08-17 | 日記
小林良暢 『なぜ雇用格差はなくならないのか』 ( p.37 )

 連合は、〇九年春闘を迎えて「物価上昇(〇八年度見通し)に見合うベースアップ」を求める要求方針をまとめた。連合がベアを求める春闘方針を掲げるのは、〇一年春闘以来八年ぶりで、物価上昇分は「一%台半ば」を想定している。過去一年、物価が上昇して個人消費が低迷してきたことから、賃上げで労働者の生活を維持し、内需拡大につなげる必要があり、そのためには、企業業績の悪化が広がるなかでもベア要求の姿勢を示すことが重要と判断したという。これに基づいて、春闘賃上げの相場形成に影響力をもつ連合傘下の自動車、電機などの有力産別も、「ベア要求四〇〇〇~四五〇〇円」を軸に春闘の交渉を続けている。
 これに対して、日本経団連は世界的な景気後退を受けて急激な雇用情勢の悪化が見込まれるなか、雇用の安定を最優先するとして、「横並びに賃金の底上げを図る市場横断的なベースアップはあり得ない」と強く否定している。
 ここまでは、賃上げを巡って毎年春になると闘わされる労使の主張のように見えるが、〇九年は少し様子が異なっている。
 まず連合傘下で、非正社員たちが個人でも加入できる労働組合の全国組織「全国コミュニティ・ユニオン連合会」(全国ユニオン、組合員数約三八〇〇人)が、〇九年の春闘方針のなかで、連合の賃上げ方針に "異論" を唱えている。鴨桃代同ユニオン会長は「正社員、非正社員がともに『生きる、働く』を求める春闘にしよう」と呼びかけ、「正社員の賃金は据え置き、原資をすべて非正社員の雇用確保に充てる」としているが、この方が、 "非正規リストラ" の最中の春闘方針としては説得力があるのではないか。


 正社員と非正社員の利害が対立している状況 ( ベースアップか、雇用確保か ) が書かれています。



 「今後の雇用情勢 ( 予想 )」 に書きましたが、正社員と非正社員の連帯・協力が必要な状況になっているのではないかと思います。

 けれども、実際には、両者は連帯しているとはいえない状況です。私の予想どおりです。私が連帯しないだろう、と予想したのは、「自分の待遇が悪化してもかまわない」 という人 ( 正社員 ) はほとんどいないだろう、という予想に基づいています。そしてこの予想は、「不正の傍観者」 でみたように、社会正義を追求すべき弁護士ですら、個人的な損得を優先する、という経験に基づいています。



 表面的には、正社員と非正社員の利害は正反対ですが、深いところでは、両者の利害は一致していると考えられます。したがって、ここは正社員の側が歩み寄って、非正社員の雇用確保に協力すべきではないかと思います。

 また、状況は次第に、正社員の削減・非正社員の増加へと移ってゆくと予想されますので、正社員の側が歩み寄らなければ、「正社員の側に」 不利な状況になってゆくと思います。

 労働者 ( 正社員 ) と労働者 ( 非正社員 ) が対立している場合ではないと思います。

雇用対策の問題点

2009-08-17 | 日記
小林良暢 『なぜ雇用格差はなくならないのか』 ( p.20 )

 サラリーマンやOLには、いざという時のセーフティネットとして、雇用保険がある。前回の〇一年から〇二年にかけての雇用危機では、その中心が正社員の失業者であったので、リストラされた大半の人は雇用保険の一般求職者給付を受給することができた。
 ところが、今回の雇用調整は非正規リストラであるため、その対象者は雇用保険に加入していないことが多い。厚労省が〇八年末に発表した推計によると、雇用保険に未加入の労働者が一〇〇六万人おり、この多くが非正規労働者だという。非正規労働者はおよそ一八〇〇万人いるから、約六割弱が雇用保険に未加入という計算になる。
 その後、厚生労働省が〇九年になって発表した追加推計によると、雇用保険の適用要件を六カ月に緩和するなどしたこともあり、一四八万人が雇用保険適用の恩恵に浴することになった。しかし、あとの八五八万人は、依然として給付漏れのままであることが、明らかになったのである。このうち五一四万人は主婦パートや学生アルバイトなど、生活基盤のある人たちだから、緊急性は高くないとしても、残る三四四万人が雇用保険という「セーフティネット」から完全に漏れて、直接生活保護という地べたに叩き落とされることになっているのである。
 二〇〇〇年代に入って以降、派遣などの非正社員の急激な増大という雇用の構造変化に対応して社会保険や社会保障制度を拡充してこなかった政策的な不作為が、「セーフティネットなき失業者」を大量に生み出したのである。さらに、緊急対策も後手にまわっており、このままでは「政策ミス」の上塗りになってしまう。


 非正規労働者の約六割が雇用保険に未加入であり、雇用保険未加入者の多くが非正規労働者である。セーフティネットがないのが問題であるが、政府の対策は後手にまわっている、と書かれています。



 雇用保険の適用要件を六か月に緩和したにもかかわらず、858 万人は給付漏れのままである、というのですから、雇用保険に未加入の労働者のうち、およそ 85 %の人々は、雇用されている期間が六か月に満たないのだと思います。すなわち、非正規労働者の大部分は、短期的な仕事を転々としているのではないか、と思われます。

 もっとも、「主婦パートや学生アルバイトなど、生活基盤のある人たち」 が 500 万人ほどいる、とのことなので、セーフティネットがなく、本当に大変なのは 344 万人の人々 ( 35 % ) だと思います。

 ( 関連する情報として、「貧困層の規模」 があります。よろしければ参考にしてください。 )



 ところで、( この本を ) さらに読み進むと



同 ( p.22 )

 今回の非正規リストラを受け、「製造派遣禁止」「日雇い派遣の禁止」「登録型派遣の原則禁止」などの主張が、政財界や労働組合、マスコミから聞こえてくる。しかし当の非正規労働者たちからは、そうした声はあまり聞こえてこない。このような政策が、派遣労働者自身の声を汲み上げて政策化したものとは、どうしても思えないのである。
 非正規失業者は、雇用保険の失業給付など生活資金と再就職のための支援を求めているのであって、政府与野党、また経済界、労働組合の対応は、この点でどこか決定的にずれている。今回、そういう違和感を抱いた人が多いのではなかろうか。
 どうしてこうなるかというと、「非正規労働者一八〇〇万人時代における非正規リストラ」という現実的な危機感が、あまりにも希薄だからである。
 例えば、桝添要一厚生労働大臣は、国会で非正規失業者対策について質問されて、「政府は、雇用保険の受給資格について、過去一年の保険料納付が必要だったものを六カ月にした。また先行き一年以上の雇用の見込みのあるもの、という適用基準を六カ月に短縮して、失業手当給付をもらいやすくした。さらに、再就職困難者には失業給付を六〇日上乗せした」と答弁している。一方、民主党は失業手当の受給期間が終了しても再就職できない人に、教育訓練を受講すれば月一〇万~一二万円を生活費として支給する案を提案している。双方ともに雇用保険の穴を埋めるために必要な政策ではあるのだが、いずれも雇用保険に加入していることが前提であり、雇用保険に未加入の非正規労働者のことはまったく視野に入っていない。政府・与野党に共通する視野狭窄が、具体的な施策と非正規失業者のニーズとのあいだに決定的なズレを生んでいる。
 また、地方自治体でも非正規リストラに遭った人たちを臨時職員として採用し、仕事と住まいを提供しているところがある。にもかかわらず、実際にはその応募は少ないという。何でもいいから雇用機会さえ用意すれば自然と人が集まるほど、雇用市場は甘くない。一口に派遣失業者と言っても、本当に当座の生活にすら困っている人から、しばらくは何とかなる人まで様々いるため、それぞれのニーズに合わせてきちんと施策を振り分けなければならないのである。
 このように、政府や与野党が行おうとしている緊急施策、野党や労働組合が主張する施策が、非正規失業者自身のニーズと完全にずれているように思われる。これでは非正規リストラで失業した人の現実的な救済にはならない。


 政府は、雇用保険を拡充するなどの対策を行っているが、そこでは雇用保険に加入していることが前提とされており、雇用保険に未加入の非正規労働者のことはまったく視野に入っていない、と書かれています。



 非正規労働者も救済せよ、という趣旨はわかるのですが、

 344 万人もの人々がセーフティネットなき失業という、大変な状態にあるにもかかわらず、なぜ、

   「地方自治体でも非正規リストラに遭った人たちを臨時職員として採用し、仕事と住まいを提供しているところがある。にもかかわらず、実際にはその応募は少ない」

のでしょうか。著者は、

   「何でもいいから雇用機会さえ用意すれば自然と人が集まるほど、雇用市場は甘くない。一口に派遣失業者と言っても、本当に当座の生活にすら困っている人から、しばらくは何とかなる人まで様々いるため、それぞれのニーズに合わせてきちんと施策を振り分けなければならないのである。」

と書かれていますが、彼ら 344 万人は、「本当に当座の生活に困っている人」 ではないのでしょうか? セーフティネットがない、というと大変そうですが、じつは、彼らには 「仕事を選ぶ余裕がある」 のかもしれません。



 なお、「製造派遣禁止」 、「日雇い派遣の禁止」 、「登録型派遣の原則禁止」 などが、当の非正規労働者のニーズからズレている、という話は、重要だと思います。

 選挙が近づいてきており、各政党はマニフェスト ( 公約 ) を発表していますが、雇用対策として、ニーズに合わない 「禁止」 も主張されています。そのあたりも含めて、「どの政党に投票するか」 を考えなければならないと思います。

 このブログでは引き続き、「それでは、どうすればよいのか」 を考えてゆきますが、おそらく選挙には間に合わないと思います。