言語空間+備忘録

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ケインズの雇用政策 (所得増加政策)

2009-07-01 | 日記
伊東光晴 『ケインズ』 ( p.148 )

 このような社会認識と経済分析とから生れるケインズの政策はどのようなものであろうか。
 (中略) 雇用量をますためには、つぎの三つの政策がある。
 (1) 消費性向を高めること、同じことであるが、貯蓄性向を低めること。もしもそれができるならば、たとえ投資が同じ量であっても乗数の値を大きくすることができるから、所得の水準はまし、雇用量は増加する。
 通常豊かな人の貯蓄性向は大きく、貧しい人のそれは小さい。所得がある程度以下になれば、収入を全部消費しても生活できず、貯蓄を引き出して消費する場合もある。だからもしも豊かな人の所得を累進課税によってとりたてて、貧しい人に社会保障その他で与えるならば、社会全体としての貯蓄性向は小さくなり、この要求を満たすことができる。租税政策による平等化政策――これが『一般理論』が指し示す第一の政策であった。
 (2) 利子率を下げて民間投資をふやすこと。ケインズはその具体的な政策として公開市場政策を考えた。
 利子率を下げたいときは、イングランド銀行が金融市場から国債や証券をどんどん買い入れ、資金を金融市場に流し入れてゆく。このことは、債券や株を売って現金で持とうとする売の人の力を弱め、逆に現金を債券にかえようとする買の人の方を援助することになるから、債券や株の時価は上り、利回りで表現された利子率は低下する。
 (3) 利子率が下ってもなかなか民間投資がふえないときには、政府が進んで投資をふやすように、公共投資などのような政府投資をおこなう。または、財政の赤字を人為的につくって、有効需要をつくりだす。
 以上であった。
 ケインズは利子率を下げて民間投資をふやすことを第一に考えていた。というのは(1)の租税政策による平等化は、今すぐに効力を発揮するものではなく、漸進的なものであり、(2)の政策は、投資家階級の貨幣愛という病源をとり除く直接的な手段だと考えたからであった。にもかかわらず、ケインズは(2)の政策がやがて限界に達することを予見していた。たとえ利子率が下っても、利子率にはこれ以上下らないという限度がある。 (中略) そのために政府の投資という(3)の政策が今後登場しなければならない。これがケインズの考えであり、二〇年代以来、かれが失業対策として主張してきた公共投資による不況と失業対策の理論化であった。


 ここには、ケインズの雇用政策が、具体的に書かれています。


 ケインズの雇用政策は、言葉を換えれば、所得増加政策です。

 乗数理論の式、
   所得 = 1 / ( 1 - 消費性向 ) × 投資
を前提に、
   (1) は、乗数 1 / ( 1 - 消費性向 ) を大きくする政策、
   (2) は、民間投資を大きくする政策、
   (3) は、政府投資を大きくする政策、
です。


 (1) 累進課税、について、
 近年、正反対の政策がとられる傾向にあり、税率 ( 所得税率・法人税率 ) を下げる ( または累進性を弱める ) ことが不況脱出の切り札だとされています。ケインズの見解とは正反対であり、この点、検討が必要かと思います。

 (2) 利子率を下げる、について、
 日本では、すでに長い間、銀行にお金を預けていても利子がほとんどつかない状態が続いており、もっと利子をつけるべきであると説く見解があります。そこでは、利子を上げれば、人々の暮らしはよくなる、と説かれるのですが、この見解も、ケインズの見解とは正反対であり、検討が必要かと思います。

 (3) 公共投資を増やす、について、
 日本では、国債発行残高の急増を理由に、公共投資の縮小が説かれています。この見解も、ケインズの見解とは正反対であり、検討が必要かと思います。

 上記、(1) ~ (3) のすべてについて、近年、正反対の見解が主張されているところが、興味深いところです。これはおそらく、「ケインズ理論に沿った政策を続けてきたけれども、不況が終わらない」 ので、逆の見解が主張され始めたものと思います。しかし、「それなら政策を逆にすればよい」 と考えるのは早計です。検討が必要かと思います。